駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

宝塚歌劇星組『柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!』

2021年12月12日 | 観劇記/タイトルや・ら・わ行
 宝塚大劇場、2021年9月19日11時、15時半、10月12日18時(新公)。
 東京宝塚劇場、11月25日18時半、28日11時、12月7日18時半。

 寛永年間、鎌倉の東慶寺。男子禁制のこの寺に、高名な禅僧・沢庵和尚(天寿光希)に案内され、密かに足を踏み入れる武芸者がいた。将軍家剣術指南役・柳生宗矩(朝水りょう)の嫡男ながら、堅苦しい城勤めを嫌い、剣術修行の旅に明け暮れる隻眼の天才剣士、柳生十兵衛(礼真琴)である。十兵衛はある依頼を受けていた。暴政を敷く会津藩主・加藤明成(輝咲玲央)を見限り出奔した家老・堀主水(美稀千種)の、残された一族の女たちに迫る復讐の手を阻むというものである。明成は主水を断罪するだけでは飽き足らず、幕府公認の縁切り寺として知られる東慶寺に逃げ込んだ女たちをも武力を持ってさらおうとしていたのだ。しかしそれは、男たちの都合に振り回される生涯を送り、女たちの最後の避難場所として東慶寺を庇護してきた天樹院、かつては豊臣秀頼の妻であった千姫(白妙なつ)には許しがたいことであった。是が非でも女の手で誅を下さねばならぬ。そう心定めた天樹院が沢庵に頼んだのだが…
 原作/山田風太郎、脚本・演出/大野拓史、作曲・編曲/太田健、高橋恵、多田里紗。

 マイ初日雑感はこちら。まあだいたい言い尽くしていますね(笑)。楽しかった、ええ声だった、私も十兵衛先生にキャアキャアまとわりついて困惑されウザがられたい人生でした(笑)。
 マイ初日後に原作小説も読みましたが、主人公の十兵衛の在り方が基本的に原作どおりなのがすごいですよね。なんというか、喩えとしてどうかと思いますがジェームズ・ボンドとかゴルゴ13とかみたいな、やることやるプロなんだけど女ともすかさずヤる、みたいなマッチョなスーパー・ヒーローではない、かといってスカしてクールぶるアンニュイかつアナーキーなダーク・ヒーローとかでもない、ものすごく人としてちゃんとした好漢で、やんちゃぶりワルぶってみせるけれど実はさわやか好青年…という主人公像をてらいなく描ける男性作家がこの時代にいたのか! という新鮮な驚きがありました。内容のエログロさは当時の大衆小説ということを考えれば納得だし、今読むとそうたいしたことをしていない気もします。『CH』に続いていて、「何故またその原作を!?」と騒がれましたが、実はとてもいいセレクトだったということですね。そしてもちろんそこからの宝塚歌劇化がヨシマサより大野先生の方が百万倍ちゃんとしているので、『CH』同様やや詰め込みすぎでもわかりやすさも緩急も流れもある、良き剣豪ロマン、良きエンタメ、何より良き宝塚歌劇にきちんと昇華されていたと思います。さすがの匠の技でした。
 復讐なんて虚しい、とか女性が剣で仇討ちとは凄惨な…と思わなくもないのですが、それはやはり現代の感覚なのだろうし、現代でだってたとえば痴漢撃退のために安全ピン持って電車乗ったりするくらいならホントはそんな痴漢なんて端から袈裟懸けに斬って捨ててやりたい、と思うのが自然な人情だと思うので、やはりお話の中でならこれくらいは正当性の内だろうし、満願成就してハッピーエンドでいいお話だったな、と見終えて自然と拍手したくなる作品でした。そしてもちろん弔いと反省の心を忘れず、二度とこういう悲劇を繰り返したくないと誓い努力する姿勢を見せている…素晴らしいです。そして女たちを手伝って、また去っていく十兵衛…という構図が本当にニクいですよね。
 なので、普段どうしてもモブになりがちな娘役ちゃんたちがたくさんフィーチャーされていたのがよかったし、原作ではケルベロスめいた犬だったところまでが娘役による子役になっていたのもよかったです。若手スター男役たちは一絡げに悪役で、彼女たちがよくやりたがるような悪役とはちょっとタイプが違ったかもしれませんが、いい勉強になったろうし楽しそうにやっているなという感じがありました。オレキザキのバカ殿の好演始め(原作ではもっと陰湿な悪徳藩主だったのを、ある種愛嬌あるこの方向性のキャラに変えたのはさすが大野先生かと)、おじさまたちの布陣も素晴らしく、なっちゃんくらっちら尼たちも美しく清々しく、適材適所でよかったと思います。
 これで卒業となる愛ちゃんは堂々の悪役ラスボスぶり、かつ二役、そして自分自身でもある双子と戦い敗れ散っていくという万全の態勢。十兵衛がああいうキャラなのでヒロイン・ゆら(舞空瞳)とのラブストーリーには残念ながらなっていないんだけれど、彼女の今際の際には抱きしめてあげてキスしてあげて、「初めて自分の意志で動いた」と語るヒロインに「どうだった?」と尋ねてあげる優しさには、これこそが男の中の男! 女が望む男!! と痺れましたよね…! 女が男に望むこととはまず「何を望んでいるのか男に尋ねてもらうこと」なのです。なのに女の望みどころかその話も聞かず、勝手に決めつける男のなんと多いことか…!
 問われて「楽しかった」と答えて息絶えるゆらにとって、この会話は十分に「I love you」だったことでしょう。もちろん満足して死んだ、なんて言えません。本当は彼女にだってもっともっとやりたいことがあったはずなのです、父の庇護という名の利用と搾取から逃れて自分の足で生きる人生があったはずなのです。でもせめて愛する男の腕の中で死ねた、そして彼は自分を弔ってくれると言う…人の心に残れるのならそれは「死」ではない。よかったねゆら、そして十兵衛がそういうふうに人を想うことができる男で本当によかった…と涙して見終えられる、美しい物語です。
 歌詞がプログラムに載っていないので正確ではありませんが、ラストの銀橋で歌われるサブ主題歌みたいなものの中で彼は「風のように生きたいと願っていた、でもこんな人情の機微に触れられるなら俺はやっぱり人でいい、人間として生きていく」みたいなことを歌い上げるじゃないですか。この人間賛歌があるからこそ、古風で血生臭い時代ものでも現代に上演される価値があるんだろうな…とつくづく感動したのでした。結局作家の個性とか思想というものはこういうところに表れ、作品の屋台骨を支えるのです。ヨシマサはよく観て学ぶように!

 ロマンチック・レビューの作・演出は岡田敬二。こちらも初日雑感で語りまくりましたが、なんせ初演ファンなので本当に楽しかったです。
 よくよく考えれば銀橋はほとんど使われないし(初演のプロローグはミキちゃんすら本舞台オンリーだったんだけれど)、下級生ピックアップはほぼないに等しいので組ファンほど寂しかったかもしれませんが、まあたまにはそういうこともあるよ、と…
 追加で思ったのは、プロローグの娘役ちゃんたちが、最初はジャケットのボタンを留めて出るのにそのあとは開けて出て、ウェスト部分が薄い色でマークされているんだけれどどう見ても腹巻きで謎だった…というのと、やはりどアタマからずっと手拍子はきついよ、5組デュエダンが終わってミラーボールが回り始めてこっちゃんが銀橋に出る「♪そ~の~」からでいいんだよー、ってことですかね。
「ミッション」は照明の美しさに感動したなー。霊魂として登場したこっちゃんが、回想ターンで人間に戻るところ、そして銃弾に倒れるところ…すべて照明の効果で表現していましたもんね。「キャリオカ」「ハード・ボイルド」は本当に一生観ていられます…ホントよくよく見るとめっちゃ単純な振りだったりするところを、ミキちゃんより百万倍なんでもできるこっちゃんがちゃんと初演リスペクトして濃くたっぷり似せてやってくれるところに感動しました。「テンプテーション」はまあちょっとありがちかな。そして「ラ・パッション」は長く感じたかな…そして謎短調主題歌はややアレでしたが、綺麗なパレードで良かったかと思います。


 大劇場新公の感想は当日Twitterで書き散らかしましたが、以下簡単に。
 あまとくん、やはり喉にかなり負担をかけていたようで最後の歌と台詞はしんどくなっちゃっていましたが、逆にそこまでは気づかせないくらいに大健闘していたと思います。こっちゃんよりよりまっすぐストレートな熱い十兵衛で、それもまたよかったと思うんですよね。人柄が出ますし、大きく育てよと思います。
 そしてヒロインのルリハナがまたひっとんより情念的なゆらだったので、いい組み合わせになっていたかと思いました。歌も上手いし綺麗だし、こちらも大きく育ってほしい…!
 でもMVPはなっちゃんところをやったあまねですよ! こんな声が出せる、こういう芝居ができる娘役だったのか、これでご卒業とはいかにも惜しい…!! と感動しました。
 沢庵和尚の夕陽くんが手堅く、虹七郎の咲城けいくんの声がかりんちゃんに似て聞こえて、くらっちのところをやった水乃ちゃんも瑞々しく素敵で印象的でした。良き新公だったかと思います。
 こちらも東京公演では配信があり、新時代を感じました。今後も続いていくのかなあ? かなりの数に見てもらわないと収益が厳しいとも聞きますが、やっていった方がいい気もしています。どうせ映像はスカステ放送に使うんだし、将来トップになれば売り物にできるんでしょうしね。私は大劇場で観ちゃうことが多いので、そこだけは生で、という選民意識が働くせいもありますが…


 クリスマス翌日に千秋楽、愛ちゃんご卒業ですね。サヨナラショーはスカステニュースで見ただけですが、レポツイートなどからも聞くだに愛に溢れた構成で、担当は岡田先生の助手を務めた竹田先生だったそうですが、感謝しかありませんね。その後の愛ちゃんにも愛ちゃんファンにも、幸多かれと願っています。





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