駒子の備忘録

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宝塚歌劇宙組『追憶のバルセロナ/NICE GUY!!』

2019年09月24日 | 観劇記/タイトルた行
 梅田芸術劇場、2019年8月31日15時半(初日)。
 市川氏文化会館、9月23日12時(前楽)。

 1800年代のスペイン。バルセロナの街がカーニバルで賑わうころ、フランスがスペインに宣戦布告する。知らせを受けた有力貴族アウストリア家の長男フランシスコ(真風涼帆)は祖国を守る使命感に燃え、婚約者のセシリア(華妃まいあ)に別れを告げると、親友のアントニオ(芹香斗亜)と共に勇んで戦場に向かう。だがスペイン軍の必死の抗戦もむなしく、フランス軍はピレネー山脈を越え、フランシスコは重傷を負う…
 作・演出/正塚晴彦、作曲・編曲/高橋城。2002年に雪組で初演。 

 初日の感想はこちら。初演の感想もこちらからどうぞ。
 ほぼほぼここで書き尽くしていますが、やはりお芝居の方は二度目に市川で観たときにはだいぶ仕上がっていて、緩急やリズムも出ていて、いろいろアレなんだけど私はやっぱり好きな作品だなー、と思ってしまいました。
 なんと言っても私はハリー作品がけっこう好きなのと、ハリーがやるラブがわりと古典的な少女漫画な感じなのがツボなんですよね。今回のまどかイサベルの「惚れてなんかないからねっ!」みたいなのくらいなのはまあわりに他でもあるとは思うのですが、そこにあきもエンセナダがああいうふうに絡む感じとか、まいあセシリアが来ちゃうタイミングとか(ここの「あんたを助けたの、あたしなんだからねっ!」も愛しすぎる…!)、そもそもずんちゃんロベルトのイサベルへのスタンスとか、そういうのは本当に芝居として上手いと思うし、イサベルに「甘え」ているゆりかちゃんフランシスコの在り方なんかも、それこそ男優にやられたらホント「ケッ」って感じになりそうなんだけれど、宝塚歌劇の男役にああいうふうに、ちょっと朴念仁気味にちょっと卑怯にちょっと優柔不断にやられると、許してしまうわけですよ…! あと、こういう役にゆりかちゃんは絶妙にハマりますよね。そこがとてもとても良くて、何度でもリピートしたくなりました。甘酸っぱさにニヤニヤし出すのを奥歯噛みしめて耐えながら観る、のが本当に楽しかったです。はー、早くDVDが欲しい、存分にニヤニヤしながら見まくりたい。
 ル・サンクが欲しいな脚本読みたいな、とも改めて思いました。もちろんあちこち赤字を入れたいです。足りない言葉がいっぱいある。でもそれとは別にト書きを読みたい。あと、こういう芝居の演出というか演技指導をやってみたい(笑)。楽しいだろうなー。
 全体としては、やはり盛り上がりやカタルシスに欠けるところを、もう少しだけ手を入れればもっといい作品になると思うんですよね。たとえばフランシスコが記憶を取り戻すきっかけになる酒場の乱闘シーンには、録音と合わせるのは難しいのかもしれないけれど剣の音のSEを入れてもっと迫力を出したら、だいぶ印象が違うんじゃないでしょうか。あと大詰め、アントニオの代わりに「黒い風」のフランシスコが処刑されそうになって、そこをフランス兵に扮していたロベルト?がりんきらクリストフ(これまた市川では美形悪役のいけすかなさっぷりが増していて満足しました) を刺して形勢逆転、市民たちも味方してくれて目くらましの手伝いしてくれてみんなして一気に脱出…というような仕込みだったということなんじゃないかと思うのですが、そこがわかりづらいのが最大のネックだと思います。あのフランス兵は帽子取って顔見せて、正体を観客にバラさないとダメなんじゃないの? 今のままだと何が起きているのか正直よくわからなくないですかね?
 そのあたりがきちんとクリアできれば、オチはこのままでもいいと思うんですよ。「フランスを追い出すぞ、徹底抗戦だ!」とかの勇ましさもなく、「フランスを追い出した、勝ったー!」とかの喜ばしさもなく、「まずは地下に潜って好機を待とう、それまで待機、ハイ解散!」なのでかなりショボくはあるんだけれど、現実的だし、フランシスコの演説自体はちゃんとカッコ良くみせられていると思うので、ちゃんと成立していると思うのです。そしてわりと武闘派で抗戦一筋、火の玉特攻!みたいなことばっか言っていたフランシスコが大人になって戦略的撤退を選択できるようになれたというのもいいことなら、非戦派で恭順派で逆に言えば意気地なしの卑怯者に見えていたアントニオがやっぱり戦い続けよう独立回復を目指そう、と転向できたのも前進でいいことだと思うので、そういう、好転している、未来に(やたら出る「将来」という言葉はなんかちょっとニュアンスが違う気がして個人的には引っかかるのです)希望が持てる結末で、ちゃんとハッピーエンドだし、それで十分だと思うのです。
 何よりそのあと、フランシスコとイサベルがちゃんとくっつく。これが大事! ただフランシスコがイサベルにキスするだけでなく、そのあとイサベルがフランシスコに抱きつく、そしてお互い見つめ合ったりなんかしちゃったりしてイチャイチャする、これが大事!! もっとそのラブラブを見せてから幕を下ろしてくれ、5秒、いや2秒早い!と思いましたけどね(笑)。
 というわけで、まだ『バレンシア』や『神土地』や『黒い瞳』の記憶が新しいのに何故この組でこれをやる、というのを別にすれば、いい座組、いい公演だったな、と満足できたのでした。そらが役不足なのには目をつぶりましょう…というかショーもずんちゃんがガンガン歌っちゃうとそらには歌手枠が回ってこなくてかわいそうだったなー…そういう辛抱公演ってどうしてもあるものですが、ランボーに言うとずんちゃんとそらって「歌えて踊れて芝居もできる、だが少し小さい」ってのが丸被りなので、この先起用には苦労するんじゃないですかね…てかホントもう一組替え考えた方がいいんじゃないですかね劇団さん、と不穏なことを言ってみます…

 さてショー(作・演出/藤井大介、2011年宙組で初演)は、やっぱりおもしろすぎました。同じことやってるのに大空さんとゆりかちゃんの持ち味が違いすぎて…なので次のウィスキーショーは、ゆりかちゃんならではのスーツものになっているといいですね。
 大空さんのスーツの持ち味や男臭さ、色気、芸風は、やはりあのときのあの『NICE GUY!!』にしかないものだったんだなー、としみじみ思いました。ゆりかちゃんがダメだってことじゃなくて、ただただ「違うなーおもしろいなー」と感じた、ってことです。さらっとしてて湿り気がなくてスマートでした(あら、Sが揃った)。ゆりかちゃんはやっぱりもっとハードというかドライというかダークなものが似合うんじゃないかなー。ナイス・セクシャルもやっぱり違いましたもんね、淫靡な方向でももっと違うものの方がハマるんですよきっと。
 でもだからこそ、変な幻に惑わされることもなく、ただただ「わー違う」と思いながら本当に楽しく観ました。市川で観たら拍手や手拍子も綺麗に入るようになっていましたしね。個人的には、このあたりにいそうと思って見るとりんきらかまりながいる…みたいなことはまったくしませんでした。それも初日日記に書いたとおりです。てかホント出てたらそこしか見ないので、こんなふうに全体を比較して観て「わー違う」と楽しむ、なんてできなかったと思う。なので、これでよかったです。というかそんなたらればを言う生き方を私はしていないのでした。
 そうそう、変身が微妙じゃない?と思っていたファンキー・キンキー・ティーチャーが市川ではちゃんとわかりやすくカッコ良くなっていたのには安心しました。あと、観た人の多くが俺たちのひろこシホミズネを発見してくれたようで嬉しかったです。
 まいあちゃん、ご卒業おめでとうございます。まだまだ美声を聴きたかったし美脚を拝みたかったし笑顔を見ていたかったです。でも、ご本人のご決断ですから、笑顔で見送ります。でもぜひサロンコンとかやってください…!


 集合日はもう土曜だとか? あいかわらずブラックだな劇団…! いいオリジナル作品に恵まれますように。
 そして美穂圭子サロンコンサート『Dramatic Rose!!』第一ホテル22日回に行ってきました。30周年、おめでとうございます。本当にドラマティックな歌唱ができる人で、貴重な存在ですよね。ラストの「The Rose」が沁みました。40周年も期待しています。
 てかりおかなこがホントいい仕事していて、これは正しい布陣! やるな劇団!! と感心しました。彼女たちの今後にも期待しています。



 
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