駒子の備忘録

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『阿修羅城の瞳』

2009年12月11日 | 観劇記/タイトルあ行
 新橋演舞場、2003年8月26日ソワレ。
 京の都で鬼が棲むと噂される一条戻橋が江戸・佃島に移され、江戸は闇に覆われた。人を襲う鬼を鬼御門の頭領・十三代目安倍晴明(近藤芳正)たちが退治してまわっている。かつて鬼御門の一員だった病葉出門(市川染五郎)は今は江戸劇界の大作者・四世鶴屋南北(小市慢太郎)の弟子となっているが、鬼御門に追われるつばき(天海祐希)と出会い…作/中島かずき、演出/いのうえひでのり。2000年初演(87年に劇団☆新感線で初演)の、染五郎以外のキャストを一新しての再演。

 入場するときに、終演時間がほぼ4時間後だったのに仰天しましたが、思えば歌舞伎とは昼間にけっこうだらだら見たりするものだったりするのでした。うーん、やっぱり好きだなあ、いのうえ歌舞伎。

 初演は「商業演劇の拠点で小劇場演劇の劇団☆新感線の公演が行われ、歌舞伎界の花形が主演する。ちょっとした驚きで迎えられた」そうですが、その主演が「これが今の歌舞伎です」とパンフレット(超豪華写真集ははっきり言って余計で高価すぎたが、パンフレットそのものはよくできていた)で語っている舞台に、これはなっていたと思います。
 いやあ、テレビドラマ『大奥』の魅力を知人と語り合っていたときに出た結論のひとつなのですが、「ベタって気持ちいい」んですよ。
 登場するときにはセリあがる、音楽が鳴る、あるいは決め台詞を言うときにはチョンと鳴ってライトが当たって見栄きって流し目して、退場するときには花道走る。どうしたって気持ちよくって、そりゃ拍手したくなりますよ。鬼の美惨役の夏木マリが登場したときに「夏木!」と飛んだ声援のかあっこよかったこと!! 私もひとりで観に行ってたらラストは「ユリちゃ―ん!」と叫んでいたなあ絶対…

 私は染五郎の顔も声も(役者としてはどちらかといえばむしろ悪声だと思う。なんかアニメの声優のようだ)そんなに好みではないのだがこの人の舞台は好きなんだ、と今回初めて認識しまた。見ていて本当に気持ちよかったしすがすがしいし、もちろんうまくてかっこよかった。何より明るいのがいいんです。登場のセリ上がりの田村正和もかくやという美剣士っぷりときたら!
 しかも当然っちゃ当然なんだけど姿勢がよくて着物の着こなしが決まっていて、すそさばきも鮮やかな殺陣のまた見事なこと!! これが男性版パンチラなのだなと感心した、割れたすそからちらちら見える褌の白さ・美しさにクラクラしました、色っぽくて…
 ヒロインのユリちゃんもよかった。上背があって、実際そうなんだから仕方ないんだけれど主役よりやや年上に見えてしまうきらいがいかんともしがたかったですが、美人でいなせなことは文句ナシ。
 久々に歌も聴けたし、後半の阿修羅としてのスケール感はさすがは宝塚歌劇トップスター出身、そこいらのただの美人女優にはなかなかできないものでしょう。
 ただし阿修羅の衣装は私には疑問でした。異形のものをあらわしているのでしょうがなぜあんな洋装なんだ、「ネフェルティ?」とか思ってしまいましたよ…途中に出てきた花嫁衣裳とかラストの白装束とかの方がよかったのに…
 新感線版初演ではいのうえ氏が演じたという安倍邪空は伊原剛志、こちらも男っぽくてかっこよかった。殺陣もお見事、さすがJAC出身。

 新聞評によれば、「物語を動かす幹の部分が格段に太くなった。だが、それと反比例して、脇役陣の印象は薄くなった。/隅々まで個性的で、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがあった前回と、物語性を強調し、雄大なエンターテインメントとなった今回」(この「反比例」という言葉は数学的にはちがうのではなかろうか…)とのことなのですが、確かに脇は甘かったと思いました。
 だって南北も晴明も花柱多香蔵(河野まさと)も桜姫(高田聖子)も、やたら暴れまくって場をさらっていた抜刀斎(橋本じゅん)ですらも、カットしようと思えばカットできちゃうんじゃないのかな、と一瞬思いましたもん。
 おもしろいけど、でもこういうことやってるからこんな長いんじゃないのかな、とね。でもこういうの全部取っちゃったら新感線じゃないしな、とも思っていたわけですが、この新聞評を読んで納得しましたよ、私。

 初演のキャストは加納幸和、平田満、森奈みはる他ということですが、その配役は!? 平田満も好きだけど、ミハルちゃんは私の最愛のタカラジェンヌなんですよ~桜姫? ともあれ確かにバランスは悪かったんじゃないかなー。
 全体的に早口でせりふがやや聞き取りづらいのは、テンションゆえ仕方ないのかもしれないし、こっちの集中力も高める効果があるのかもしれませんが、さてどうでしょう。
 とにかく全体に楽しく観られたのですが、なんだかんだ言ってもっと本物の、というか古典的な歌舞伎に関する教養がある人が観たらもっとおもしろい舞台なのかもしれない、とちょっと思ったりしました。くやしいけど。お、これはあれのパロディでは、とか、あれを踏まえてこうなのね、というにやりとさせられる箇所がいくつかありましたが、だとしたらもっとあるってことだもん。くうう、無知な自分が悔しいです。
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