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蟹食べ放題の新年会

(総務の新年会)

今夜、会社の総務の新年会があった。掛川の駅前のホテル10階で、「北海道フェア、ズワイ蟹食べ放題」といううたい文句に、いやな予感がした。個室が20名以上でないと駄目ということで、一般席に出席者11人の席を取って、バイキング方式で始まった。蟹以外にも色々な料理が別テーブルに並んでいる。挨拶もなくいきなり料理を取りに行くところから新年会がはじまった。ズワイガニも皿に盛られて運ばれてくる。

一般席ではお酒が入ってもそんなに騒ぐわけにはいかない。その上、カニが出てくると、皆んなが蟹を食べるのに集中して、会話ががくんと減る。話題はもっぱらカニの足の食べ方だけである。食べ放題とは言え、身がとりやすく庖丁が入れてあるわけではなく、カニ用の鋏が出してあるだけで、手間が掛かって会話がはずまない。いやな予感は当った。

スワイガニは自分の故郷の山陰では、かつては普通に食べられていた。現代のように冷凍技術が発達していなかったため、漁港に揚がったものの大半は地元で消費しなくてはならなかった。今と比べると漁獲量が格段に多かったから、漁港からそう遠くない故郷では、漁村から行商のおばちゃんが門口まで売りに来た。中でも松葉ガニと呼ばれたオス蟹は大きくて商品価値が高く、地元の温泉宿や京阪神まで送られて消費されたが、小蟹と呼ばれたメス蟹はすべて地元消費となるため、本当に安かったと思う。1匹10円くらいのものを、たくさん生で買って来て、大鍋でゆでる。湯気の立つ小蟹を大ザルに盛り上げて、兄弟が競争で食べる。それが3時のおやつだった記憶がある。もう50年以上前の話である。

松葉ガニの美味しさはそのミソにあるのだが、保存が難しいから、店で出てくるものは足だけになっている。特に、小蟹はミソの他に卵を抱いており、塩味のついた卵の部分にかぶりつき、しゃぶる快感は今も忘れられない。ゆで上がったばかりの小蟹の甲羅を外し、ミソなどを指で直接削いでしゃぶる。足をバリバリ歯で折って(歯も丈夫だった)片方から吸えばスポンと身が口中のものになる。量は松葉ガニの比ではないが、味は濃厚でたれなどつける必要も暇も無かった。兄弟で競争でガツガツ喰い、三匹、五匹と殻がつみ上がっていく。

しかし、今の人にそんな話をしても、実感は伝わらないだろう。そこで悪戦苦闘している女性たちに身の取り出し方を伝授しようとしたが、冷凍を戻したものではみずみずしさに欠けて、身離れが悪いため、なかなか上手に取り出す手際よさを見せることは出来なかった。

結局、話題は蟹の身の取り出し方に終始して、日頃仕事場では話せない様々なことを話す機会にはならなかった。幹事さん、蟹はやっぱり止めようよ。
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