2017年5月1日(月) 7:00pm 小ホール、東京文化会館
オール・ベートーヴェン・プログラム
ピアノ・ソナタ第1番ヘ短調 6-5-3-8′
ピアノ・ソナタ第8番ハ短調 悲愴 9-5-5′
Int
ピアノ・ソナタ第22番ヘ長調 7-5′
ピアノ・ソナタ第26番変ホ長調 告別 8-4-6′
(encore)
シューベルト 即興曲 Op.142-3 8′
シューベルト 即興曲 Op.142-4 6′
ピアノ、松本明
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駆け上がるような勢いのベートーヴェンの1番の入り、これまで幾度となく演奏してきているのであろう、そのステップはやや遅めの開始。積み重ねてきた年月を感じる。熟成したスタイルなのかも知れない。
エネルギーの照射、放射といった聴衆との火花、熱といったことよりもフォルム重視、作品の構成感への親近性をより強く感じる。ベートーヴェンのドラマチックな表現、位相が曲がるような激しい演奏ではない。飽くまでもあるべき形式が次々に陳列されているような趣き。したがって第1番全部を聴き終えた聴後感というのはフラットで、なにやら4楽章全て等速だったような錯覚に陥る。それから、ときに速いパッセージで左バスを中心にやや鍵盤に音が押し潰されるように聴こえてくる。腕を垂直に大きく跳ね上げる時があるのはそういったことを意識的に排除しているからなのかもしれない。
この1番では第2楽章のストイックでいながら抜けたような妙に明るいプレイが印象的。
プログラム冊子にある解説は演奏者自身が書いたものと思われます。その中で悲愴の第2楽章について、当初9番の緩徐楽章として書かれたが、9番が緩徐楽章無しで完成してしまい、行き場を失って8番に転用されたのではないか、と推測しているようです。それは一つの私見の開示であってこの冊子全文を貫いているのはほぼ、形式や構成感などについて、演奏もそういったことの主張が色濃い。
この悲愴においても、作品そのものが持つ構成感を構造から説明している。序奏と再現する序奏のスリルはベートーヴェンのソナタ形式、圧巻の表現で、プレイは有名すぎる次の楽章よりも第1楽章のフォルムの説得力のほうが圧倒的ですね。
第22番の第1楽章はこのままでは終わらないという事を最後の最後で魅せつけてくれるベートーヴェンの技。この楽章大詰めで呼吸を大きくとったいかにもベートーヴェン的で精神的な!高まり、松本さんのプレイはそれを逆手に取ったような消沈するベクトルのほうをピアニシモでゆっくりと強調して魅せてくれた。独特の解釈ですね。
第2楽章の機械仕掛けのような音楽はフォルム重視で、流されない演奏、お見事。
告別の序奏のあとの提示部第1主題には、毎度、ワルトシュタイン終楽章からのつながりを感じてしまうのですが、今日はあまり余計なことを考えずに聴くことが出来ましたね。
プログラム冊子にあるこの曲の標題音楽的進行をオーヴァーラップさせながら聴くことにより別の趣向で楽しめました。
全4曲にわたり細かい音符の進行が、さざ波の様にならず、物理的一音の集合体である。といったことまでわかる深彫りされた演奏だったように思います。
お初で聴いた演奏家でしたけれども色々とイメージできました。
それとアンコールではシューベルト2曲、大物アンコール、絶品でこれも楽しく聴くことが出来ました。
ありがとうございました。
おわり