2016年12月8日(木) 7:00pm リサイタルホール、オペラシティ
ベートーヴェン 6つのバガテル Op.126 19′
ベートーヴェン ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110 7′2′4+8′
Int
ドビュッシー 映像第2集 5′5′5′
フォーレ 夜想曲第13番ロ短調 8′
ショパン ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 10′3+10′6′
(encore)
ショパン ノクターン(遺作) 嬰ハ短調 4′
ドビュッシー 月の光 5′
ピアノ、小林律子
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ベトソナ31の第1楽章は、いつも、なにか、途中から始まったような雰囲気が漂い、その終止音は人生があっさりと終わりをむかえる、そんな、中断された過去を語るような気配がある。
終楽章はフーガでの2回目の嘆きの歌のあと、コラール風な押しが突然現れ、そして、それまでの色々な主題が折り重なるように絡まり激しく奏でられる。
挟まれたスケルツォは転換のようにも聴こえる。結局、全曲に渡り、振幅の大きな音楽となっている。技術的な技は昇華しているようにも思える。聴いてて技を忘れる。
聴き終えて、声にならない。よくもまぁ、こんな曲を作れたもんだ。凄い曲。
小林さんはお初で聴きます。落ち着きを感じますね。
音楽が落ち着いていて、ゆっくり目の進行が味わい深い。殊更、音の律動を強調しない。かといって流れていくような具合でもない。漂っている。音の中身が見える。
ベートーヴェンは凄いってあらためて思う。そう感じさせてくれる演奏でした。この曲への理解がだいぶ深まりました。
1曲目のバガテル。作品番号でいうと第九の次の作品。ソナタ32作品よりあとの作品。
小林さんの演奏、なにか、晴れ切らないベートーヴェン。31番と同じスタイルで奏されていると思いますけれども、ちょっとブラウン系な肌触りのぬくもりがいい。
後半のドビュッシー。漂う色あいが味わい深い。イメージの世界ですたしかに。
どんよりと沈みこむ。角張らない音の律動。グレーに塗られた音の世界。
ベートーヴェンとは別な世界に浸る。新しいピアニズムだったんでしょうね。実感できました。
フォーレ。ちょっとモヤモヤ感があって自分の頭の中で音のテクスチュアを浮かび上がらせながら感じるところまではいかず。
ショパン。
ベトソナ聴くのに手いっぱいでショパンまで耳がまわらないのですが、それでもこの3番は割と聴いていると思います。
ラルゴが深い。この日のリサイタルの最後に置かれたプログラムだったんですが、ここでようやくと言ってはなんですが、左手バスの安定感に気付きました。雄弁と言いますか。
このガッチリソナタ形式。ピアノソナタって言うぐらいだから大概そうなんでしょうが、そういう中にあってこの緩徐楽章、そういった形式や構造の事を忘れさせてくれる。もうひとつ上、高みにあるようなおもむきの楽章を感じさせてくれた。さえるバス。かみしめて聴くラルゴ、出色の演奏でしたね。
全般に渡り、音をやつさない、粗末にしない、一つずつ歩を進めていく筆の運びで、やっぱり音の中身がよく見える。自分としてはしっくりくるものがありました。
アンコールの前に、はあ、と一呼吸。ちょっと笑いを誘いましたけれども、これだけ弾いて精根尽きる実感。客のほうも納得した場の共有感のようなものをお互いに感じての事でした。集中力凄かったという話ですね。
いいリサイタルでした。ありがとうございました。
おわり