河童メソッド。極度の美化は滅亡をまねく。心にばい菌を。

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OCNから2014/12引越。タイトルや本文が途中で切れているものがあります。

2058- ブルックナー5番、バレンボイム、シュターツカペレ・ベルリン、2016.2.14

2016-02-14 18:03:11 | バレンボイムSKB ブルックナー

2016年2月14日(日) 2:00pm  サントリー

ブルックナー 交響曲第5番変ロ長調WAB105  20′16′13′22′
       (ノヴァーク版)

ダニエル・バレンボイム 指揮
ベルリン国立歌劇場管弦楽団


宇宙のビッグバンをいっぺんに3個ぐらい集めたような全ユニバース最高峰の奇跡的演奏でした。
1番2番3番では出番なく、前日の4番からはいるチューバ、今日の5番では2本。推して知るべしの、ウィンド、ブラスはオール倍管、ティンパニも。
奥の段まで取ったステージセッティングを見ただけでバレンボイムの意思表示が見て取れる。音響は宇宙的に広がり、フィナーレの空気圧力は草木もなぎ倒すスーパー大伽藍の巨大構築物となり、ブルックナーの望みはバレンボイムがかなえたということになろう。
ブルックナーも草葉の陰で蓋が開くぐらい狂喜していることだろう。

下降する音形、大地に突き刺さるような音形はエンディングも含め8番同様、垂直的な音の動きでブラックホールに吸い込まれてしまいそうな流れなのだが、自らの下降音型ライン重力と、それをバリバリとめくり、横に前進するちからとの一大勝負。その圧倒的ハーモニーの進行は音楽が必然的に持つ前進力と突き刺さるちからが拮抗、重戦車が重力に負けまいと前進していく姿。
ここのコーダの方針はフルトヴェングラーがもっと極端にやっているのですが、バレンボイムのテンポを緩めず進めるスタイルは圧倒的で、アチェルランドこそ控えめなれど斜め上に振っていく指揮棒はその進行方向への音のベクトル指針となっている。
フルトヴェングラーの過激な滑らかさは空間のひずみを感じなければ理解できないものだろう、バレンボイムを語るとき色々と引き合いに出されるフルトヴェングラーですけれど、バレンボイムと同じくワーグナー振り手のクナッパーツブッシュとの距離は無限と感じさせるフルトヴェングラーへの近さはあります。
プログラムにもフルトヴェングラーの言葉が載っています。この第4楽章について「世界の交響曲のうちでもっとも記念碑的な楽章」と。
5番は出直し1番みたいなもんですから、序奏付き回顧付きのこの完璧な3主題ソナタ形式とそのフィニッシュの圧倒的な力感。どのように振って作品の最良の形を聴衆の前に見せるか、再現芸術のひとつの頂点解釈を示す必要があるわけです。
フルトヴェングラーの場合、5番は過激な流線型でフォルムが揺れ動くが、聴後感というのは形式の見事さを感じさせるもので、ちょっと背反的になるかもしれませんが、空間のひずみの中に身を寄せて耳を傾ければ理解はできるのです。これもひとつの頂点解釈で、聴けばその凄さがわかる。
バレンボイムは作品のもともと持つ性格のようなもの、記号といったものを意識しながら利用しつくし、前面にだした解釈指揮で、これも今日のような行きつくところまでいった演奏であればこそもう一つの頂点解釈と言える。
むろん、オーケストラも重要で、フルトヴェングラーにはベルリン・フィルがあったし、バレンボイムにはこのシュターツカペレがある。これらオーケストラの能力があってこその頂点表現という面もある。バレンボイムを獲たシュターツカペレの表現力の多彩さは圧倒的で、阿吽の呼吸といったあたりのところははるかに越えてしまっていて、もはや、一体。オペラハウス付きのオーケストラでワーグナーの化身バレンボイムの棒のもと、毎晩振りつくしているわけですから、その一体感たるや想像以上だろうとは何度かの来日オペラ公演で垣間見ている。
音が空気の中から、無からいつの間にか出てくる。
第1楽章の序奏の出の見事さを聴けばすぐにわかる。何も無いところから何かが生成されていく。再創造とは思えぬ。もの凄い説得力にハッと声にもならない。スルッとはいります。
正座しているようなファンファーレによる第1主題1s。弦の威圧感、特にチェロとベースがほぼ同じような弾きぶりで力感十分、ブラスに負けない意思のサウンドです。強烈。ここのバレンボイム棒は非常に明確で正確。振らない場面も多々ある中、ポイントは絶対にはずさない。当たり前と言えば当たり前かもしれませんが、コンセントレーションを強く感じる指揮です。オーラ棒ですね。
ここの主題1sは上昇音形でコラール風、オーケストラの響きをいきなり満喫できる。
冒頭序奏からそのあと全般にわたりピチカート多用の曲で律動的な印象を持ちます。第2主題2sにピチカートというわけで、4番までの、弦がしなやかに歌う2sとは少し違う印象をもちますけれど、ピチカートと滑らかな歌が徐々に混ざり合っていく。この2sの味付けは素晴らしくニュアンスに富んでいて、特に第4楽章のほうの2sはクラクラするもの。音楽の呼吸を感じました。
2sの律動と流れがブリッジとなって第3主題3sの律動主体の咆哮となる。提示部のこの一連の流れは作品の見事さを強く感じさせます。ここまでで強固な形が出来上がる。序奏付きは正解と思います。コラール風1sはいきなりとはならず原始霧開始ととらえれば序奏も1sに含まれるような気もしますが。あと2sへの入りも見事ですね。呼吸を感じる。
くっきりと入る展開部はなにか解き放たれた様なおもむきで、テンポを緩めない進行の中、ブルックナーの多彩な音楽を楽しめます。3主題の混ざり具合もいいものですね。
再現部を経てコーダへ。まだ、爆発モードではないですが、ここまで4本で吹いていたホルンがコーダの強奏のところだけ8本のフル稼働となり、強烈なサウンドが独特なバランスとなってエンド。まぁ、昨晩難関4番のソロを吹いたソリストはおりませんでしたので、奏者のストックも余裕ありという話しかもしれない。
とにかく、5番1sの造形美、バランスの良さにはほれぼれする。バレンボイムのオーケストラ・コントロールもお見事でドライブしていく様が美しい。ここまであっという間。形が出来上がりました。

第2楽章緩徐楽章なれど、1sはこれまたピチカートが律動感を高めつつ、弦とウィンドの4拍子系と3拍子系が混在して妖しげ。バレンボイムはここ、全く振らなかったり、右手一本で6拍子と4拍子を振り分けたりで、あれは神業棒。すごいもんです。
2sはズシンと弦が大きく横に広がる。正三角形の底辺、構築物の地盤みたいな響き具合で抜群の安定感を示す。1sとの違いも他作品に比べてかなり明確なものですね。
バレンボイムは主題の切り替えをあまりテンポを変えずに、だけど念入りに独特の呼吸で推移。ワーグナーの呼吸を感じさせますね。場面転換で次に何が来るのかわからなくなるような話ですね、静寂もドラマチックという話。
この楽章の終結部に向かうクライマックスは、ブラスとそれに負けない弦の、むき出しのバランス合奏は自信のかたまりと集積された伝統の重みを感じさせますね。まぁ、なかなか出せるものではない。

スケルツォ楽章の波形は2楽章1sを速くしたもので、前楽章からアタッカでそのことを強く意識させる指揮者も多いですね。バレンボイムは作品のフォルム重視の指揮者で、ひとつずつの楽章をきっちり止めて全体構造に光が当たるようにしていますね。ムーティも同じスタイルですね。彼は若いときはポーディアムに乗るのがはやいか音が出てくるのがはやいかといった時代もありましたが、楽章間ポーズはじっくりとりますね。
ということでこの楽章あたりからブラスセクションがふつふつと固まった音形を吹き始める。トリオはもっと長くてもいいかなと思いますけれど、きれいな覚えやすいフレーズが、とっても素敵。これでもやっぱり男メロディーなのかな。たしかに男客が多いことは多いが。

昔、初めてこの曲を聴いたときフィナーレ楽章のところでLPをかけ違いしたのかなと錯覚したのをいつも思い出します。すぐに違いは判るのですけれど、第1楽章とモードがよく似ている楽章。序奏の後に回顧付き。
この楽章は展開部が圧巻。fffからpppまで1小節で変化すると言った吉田秀和の言葉は第4番の作品のことと記憶するが、この5番の展開部というのはそういうことの連続で、経過句なくパウゼで転調していく様と合わせ異様な面白さ。フーガで魅せるベースの動きはこれまた大迫力。この楽器はチェロではないのかと錯覚するようなベースコントロール、弾きっぷりが凄い。地響きたてて進行。バチがもげそうなティンパニの打撃に負けない、もちろんブラスの咆哮にも負けない、究極の強力布陣です。思えば、弦、全部、そうですね。
ここでもテンポ緩めず、かつ、アチェルランド控えめなバレンボイム棒というのは、中庸の極致と言えるかもしれない。音の重なりで迫ってくる。
あとは、一番冒頭に書いた通りで、再現部、コーダの大宇宙。そして興奮冷めやらぬ、2時間も経てばフォルムの完璧さが浮かんでくる実感。

ということで、ここに唯一無さそうなものと言えばそれは、かおりなのかもしれない。


いずれにしましても、空前絶後のブルックナー5番を体験できました。ありがとうございました。
客の入りはこの日は7,8割ぐらい。ピアノが無かった日ということが影響しているかもしれませんが、拍手とブラボーはこの日が一番熱狂的、一般参賀一回あり。
この5番であれほどの静寂空白は初めての経験。バレンボイムは振り終えて聴衆に向きを変える前にメンバーに色々と声をかけるのが癖のようですが、おい、どうだ、この静寂すごいだろ、この巨大ブル5でフラブラもしない、フラ拍もない、これが出来る世界一の聴衆がいる日本という国は凄いだろ、と、メンバーにしゃべっていましたね、想像ですけれど。

今のところ、1番3番の日が85パーセントぐらいの入り、2番4番が満員。バレンボイムのブルックナーを一目見てやろうという指揮者たちも日参ですね。
おわり

PS
5番の保有音源は77個です。