くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「梅酒」幸田真希

2012-12-26 21:14:39 | コミック
 免許更新してきました。昨夜からの雪で道路はつるんつるん。免許センターまで一時間半かかりましたよ……。受付に間に合わないかと思った。でも、それでも三番めだって。
 帰りに本屋で発見して、つい買ってしまったのが幸田真希「梅酒」(マッグガーデン)です。聞いたことのない出版社でしたが……。なんとなくたたずまいがよかったので。
 表題作の「梅酒」がよかった。光太郎の詩が効いています。両親が海外に赴任しており、姉はほとんど帰ってこない。なんとなく夜の街に佇んでいた高校生の「ゆえ」は、古畑という男性に声をかけられます。
 二人は「智恵子抄」の「梅酒」という詩を挟んで話をしたりご飯を食べたりするんですが、なんというか、こういう詩に目を留める感性が素敵だと感じました。
 わたしも「智恵子抄」はひととおり読んではいるんですが、この部分だけ聞いてすっと思い出せるほど読み込んではいないな、と。どちらかというと、智恵子が生きているときの詩の方が目につきやすい。「人へ」とか「おそれ」とか。あとは「山麓の二人」あたり。「レモン哀歌」を取り上げるときに紹介します。死後の詩というのは、なかなか難しいのです。高村山荘が近いから「案内」は話しますが。
 これはちょっと読み直そうかなと、本棚から詩集を出してみました。(さすがに手に届く場所に置いてはあります。智恵子の生家で買ったやつ)
 うーん、なんというか。
 この詩を、ああいうふうに埋め込むセンス。そして、まんがを読んだあとに改めて光太郎の詩を感じさせる何かが、ものすごい力で迫ってきます。
 ゆえは古畑さんに、何を求めているのか自分でもわからない。けれど、得がたい何かが、確かにある。智恵子と光太郎が「どこにでもいる幸せな夫婦だったら、この詩は生まれることはなくて」「ずっと後に新しい出会いを生むことがある」と感じ取るその繊細さ。それを肯定してくれる存在があるということ。この温かな場所が、彼女にとって大切だったのだと思います。
 わたしは光太郎の愛情をストレートに賛美はできませんが、詩に介在される出会いの愛おしさに心打たれます。小学生のときに「あどけない話」を紹介してくれた先生のこと、詩を読んでいると思い出しますね。
 あとはちょっとスラプスティックな「家族には秘密がある」と、ちょうど今時分の時期がテーマの「blesssing20XX」がおもしろかった。いろんな引き出しを開けて見せてもらった感じ。