くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「なんらかの事情」岸本佐知子

2012-12-19 20:51:00 | エッセイ・ルポルタージュ
 今回もぶっ飛ばしてます、岸本さん。スーパーのレジの列なかなか進まない選手権で優勝できると語り、大学時代の先生がLOVEという苗字だったことを回想します。ジャムを詰めるビンを集め、アロマテラピーに夢中になっても、不意に訪れる「ごわす」に台無しにされる。胃カメラを飲む前に、二分間上を向いて薬品をのどにためていなければならないエピソードがあるのですが。こ、これは本当のこと? 岸本さんはときどき余りにもシュールなフィクションを書くから困惑してしまいますよ。わたし、バリウムの発泡剤が駄目で、ずっと胃検診をパスしているのです。胃カメラの方が飲みやすいという人もいたので、いつの日かそちらのお世話になるのかもと思っているのですが……。
 中でも心に残るのは、最後に配された「おめでとう、元気で」。どうしてこのタイトルなのかも謎ですが、AからZまでのエピソードが描かれます。こんな感じ。
「空腹を極度に怖れバナナ一房つねに紙袋に入れて持ち歩いていたG」
「イタリアで加藤茶似のベルボーイに好意を寄せられ自分の背丈より大きなヒマワリの花束を贈られて困惑したL」
「妹と並ぶと母娘に間違われ父と並ぶと兄弟に間違われたP」
「ケーキ職人を目指して渡仏し今はうどん職人のR」
「同じ車に三年で二度ひかれたX」
 で、「じつは同一人物であるFとJ、KとZ」。ひょえぇ、おもしろい。そう思った瞬間たたみかけるように続きます。
「まだ会ったことないPとQ」
「もう会わないG」
「もう会えないX」
 ……二度めの事故に、思いをはせてしまうのです。
 岸本佐知子「なんらかの事情」(筑摩書房)。今回も充実の内容。
 お正月事情について、未来に住むおじいさんが語りかける「おめでとう」もブラックで怖い。本を読むときに目の端にちらつく親指が気になるなんていわれると、わたしまでそんな気になるじゃないですか。
 そして、ふっと目につくクラフト・エヴィング商會のイラストも、この本にはぴったりです。あー、わたしもD熱に感染して、ドリトス食べたくなりました。