くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「さよならドビュッシー」中山七里

2012-03-14 05:47:32 | ミステリ・サスペンス・ホラー
なるほどっ、こうつながるのですね。そして、見事に騙されました。おもしろかったー。
中山七里「さよならドビュッシー」(宝島社)。このミス大賞でのデビュー作品ですね。巻末には寸評も載っていて、こちらもおもしろく読みました。
中に、インドネシア育ちの女の子なのに、難しい語彙があるというような指摘がありましたよ。ふふふ。
香月遥は、不動産で多額の金を得た祖父がおり、なに不自由のない生活を送っていました。ピアノ科のある学校への進学も決まり、前途洋々。従姉妹の片桐ルシアと祖父の三人で留守番をしていた夜、火事に巻き込まれて全身にやけどを負います。
高度な医療技術で救出された彼女は、ピアノに向き合い、何とか力を試そうと、気鋭のピアニスト岬洋介の指導を受けることになるのですが。
声がつぶれ、松葉杖にすがっても生き抜く少女に対して、同級生は意地悪を言い、嫌がらせをします。さらには階段で転び、あわや大惨事となりそうな経験も。
遺産相続の多額さから、彼女をシンデレラと評する人も現れますが、命を狙われたすえに母親も死亡と、これでもかこれでもかの展開。でも、その合間に、紙の奥から聞こえるんですね、ピアノが。
わたしもピアノ小曲集のカセットを持っていたなーと懐かしく思い出したり。「月の光」「亜麻色の髪の乙女」「別れの曲」「英雄ポロネーズ」……。
岬先生の的確な指導でぐんぐん力がつきますが、超絶的な技巧に指がついていけるのは五分が限度。高校の代表としてコンクールに出場することになり、課題と自由曲を合わせると七分はかかる。時間を作り出そうと練習に励みます。しかし、その練習が熱を増し、曲調も完成してきたとき、みんなが心を打たれるのはその外見と松葉杖の悲劇性からだと言う人も出てきます。
まずは同級生三人娘。もともと遥をいじめのターゲットとしていた彼女たちの冷酷さは、夢にまで現れるほどの凶暴な威力をもっています。
さらには同じコンクールに出場する下諏訪美鈴。(すごい存在感。次は彼女のスピンオフを読みたいものです)
わたしは、歌が好きなんですが、楽器は全くできない。楽譜も読めません。娘にはピアノを習わせていますが、これももしかしてコンプレックスゆえかしら。
この前ピアノコンクールに参加してきましたので、ちょっとだけ(アットホームな大会だったので)この小説のラストに重ね合わせてみました。ピアニストの海鋒さんがいらして何曲か披露してくださったんですよー。

「少年少女飛行倶楽部」加納朋子

2012-03-13 05:47:57 | 文芸・エンターテイメント
おもしろいと聞いていながら、なんとなく読まずにいた本。加納朋子「少年少女飛行倶楽部」(文藝春秋)です。
借りてきてつい三週間放置してしまい、やっと読みました。でも、噂通りすごいおもしろかった~。
主人公は中学一年の佐田海月。親友の樹絵里に付き合って「飛行部」に入ることに。しかし、一体何をする部なの? 部長を名乗る気難しい先輩(斎藤神)と、野球部兼任の中村海星先輩がいるばかり。
やがてどこかのビルをら飛び降りたらしいという仲居朋を部に誘うことになります。マンションに訪ねていくと、なんとその子は「とも」ではなくて「るなるな」という名前だと発覚!
さらに野球が苦手な野球部員の球児も参加することに。全員、名前がちょっとあれっ? て感じで物語は進行します。(ついでに顧問の先生の名前も「信長」ですよー)
唯一普通の名前の良子ちゃんは、海月のイメージでは「イライザ」です。おかしー。この符丁がわかるのは、海月たちの母親世代だと思うんですが、登場する親たちもなんとなく憎めない感じです。「るなるな」の母がライトノベル作家(?)ってのもインパクトありました。
さらに、「神」の姉は「天使」(エンゼ)!
ものすごいな。でも、このクラブのある人物と同じ名前の人を、わたし知っています……。
どうやって飛べばいいのか。会計兼書記に任命されてしまった海月は、活動報告書を書く必要に迫られ、悩んだすえに「トランポリン」を見つけ出します。しかし、斎藤は飛ぼうとはせず、球児は野球をやめたことが親にばれてしまう。
すごいのは、中学生としての日常がちゃんと描かれていて、その中にヒントがあることでしょうか。
おそらく熱気球で飛ぶことになるのだろうと、あとがき見れば予想がつくんですが(笑)、出会いは職場体験! スーパーを経営している星川さんが、かつて熱中していたというのです。そこでふと奥さんとのことが語られる。この揺さぶり。
ちょくちょくからかわれるくせに、なんとかそこに目を向けまいとする海月とか、いつもは「佐田さん」と呼ぶのに、家では「くーちゃんはすごい」と言ってたらしい斎藤先輩が素敵ですね。
熱意溢れる矢島先生。育休とってないし。ちっちゃい子がいても文化祭の早朝から車が必要と聞けば来てくれるし。すごいなー。わたしはまだまだ甘えてばかりですね、すまない。

「みちのく忠臣蔵」梶よう子

2012-03-12 08:39:26 | 時代小説
で、いちばん熱が高いときに読んだのがこれ。梶よう子「みちのく忠臣蔵」(文藝春秋)。
読みはじめたのが病院の待合室というせいか、やっぱり熱があったせいか、なんだか漠然としたところが多いように思います。
小説としてのサービスが足りないというか。相馬大作という人物が魅力的に描けているからこそ、彼の「仇討ち」の視野の狭さが気になってしまう。
それはもともとの「忠臣蔵」でも言われていたことですよね。でも、相馬という人物がその他のことについても同様かというとそうでもない。
梶さんにしては、ぎこちないところが多くて。
最も顕著なのは、恋愛描写。江戸の武士社会でそういうことは史実的にはないんだろうと思うんですが、なんだか光一郎と女子を絡めよう絡めようとして失敗している感じが……。
まずは、親友重吾の妹、咲。「咲ちゃん」と呼ばれていますが、旗本の嫡男がこうは言わないように感じました。
見合いの場面もなんのために挟み込まれているのかわからない。お父さんが一目惚れしたことが本筋と関わりあるとは思えないし。
露姫の、将来は光一郎と結婚する発言も奇妙ですよ。しかも芭蕉を読んだりしている。四歳、だそうです。数えだから今の感覚なら三歳と捉えられると思うのですが……。
もう一人、料理屋の女将の美和さんも魅力的だとは思うんですが、亡くなった旦那さんのエピソードは必要なのかと考えると疑問です。
南部と津軽の仲の悪さについては、三浦哲郎さんのエッセイでよく目にしていました。さらに、青森出身の知人に、「八戸出身の三浦哲郎さんが好き」といったら、
「悪いけど、わたしにとって八戸は青森じゃない」といわれたこともあります。
確執、陰謀、義理と情、隠される真相。おもしろいのですが、ちょっとだけ物足りないように感じるのは、わたしのわがままなんでしょうね。

「わたしたちの震災物語」井上きみどり

2012-03-11 22:07:09 | コミック
一年が過ぎましたね。
去年の今日、卒業式の準備をしていたそのときに、あの大地震がおきたのでした。
すぐにおさまると思われた揺れは止まらず、うねうねと動く階段の手摺りにすがるように降りて、校庭に避難しました。校舎の接合部分がみしみしときしみ、大きく激しく動くのを見たとき、わたしは地面に座り込み、茫然とするばかりでした。
「仙台空港水びたしだってさ!」
車のラジオをつけた人が言い、余震の続く校舎から急いで上着をとってきて、泣きじゃくる生徒を慰め、下校した三年生の安否が気になり、自分の家のことも心配で、もう何をしていいのかわからないのです。
転勤が決まっていたので、この状態のままで出ていかなければならないことも気掛かりでした。
数日後に会議室で実施した卒業式。前日まで繰り返した練習のことを思うと、晴れの日を体育館で迎えることができなかったことが、とても辛かった。
あれから一年。
昨日、無事に卒業式を終えることができ、ホッとしています。
今の学校では、体育館の天井が落下するというたいへんな被害を受けていました。鉄骨が長机に突き刺さり、フロアは瓦礫の山。怪我人が出なかったのは奇跡的です。
補修が間に合った体育館での卒業式。涙が止まりませんでした。
井上きみどり「わたしたちの震災物語」(集英社)。あの震災で被害にあった人たちと、周囲のために何ができるのかをレポートしたまんがです。
石巻の石ノ森章太郎記念館の職員の方が、避難所として受け入れをしたり再興を目指して動き出す様子がとても頼もしいと感じました。
わたしも何度か訪れているので土地勘はあると思うのですが……。被災地に行った人の話を聞くと、目印になっていたものが流されたり壊れたりして本当に目的地に着けるかどうか不安になるとのことでした。
あの地震で、子供をもつ親たちに広がった動揺とか、そういう親子を少しでも救済したいと願う人々とか、九死に一生を得たことに気付く人、学習でのサポート、トイレの必要性、子供の遊び場とは?
とにかくいろんな人が、復興を支えようとしてくれているのがわかってじーんとします。
まだ道路に陥没があるんですが、そういうこと一つとっても全部一気に解決といかないことはわかります。
プラス面もあればマイナス面もあるのは当たり前なのかもしれませんが、ある本に「のこぎりを持ってさまよい、死体から指輪を奪う人がいたそうだ」ということが書かれていて愕然。わたしたちは、品格をもって生きていきたいものですね。
まんがの形式って、語り伝えたいことを表現するツールとして優れていると感じました。井上さんて、インタビューものがうまいよね。
話は横にずれますが、わたしが二年くらい前にお好み焼き屋さんで会った「先生」は、やっぱり井上さんの旦那さんのようでした。この本で知ったんじゃないよ。手芸の本に写真たてのアイディアが載っていて、そこに写真が入っていたのです。
サンドイッチマンさんたちの取材なども紹介されていますよ。(でも、この本、あんまり新刊として紹介されたことはないような気が。)
とにかくもう二度と、あんな地震は勘弁してほしいですよ、ねぇ?

「要介護探偵の事件簿」中山七里

2012-03-09 21:08:04 | ミステリ・サスペンス・ホラー
やっぱり第一話は「冒険」ですよねー。ってことで、中山七里「要介護探偵の事件簿」(宝島社)です。
案の定というかなんというか、わたしも風邪をひいてしまい、現在も微熱があるのでございます。この本は、さらに具合の悪かった昨日のお昼に読んだもの。
不動産で財をなし、人脈も広い頑固じいさん、香月玄太郎。脳溢血の後遺症で車椅子生活を送るものの、闊達で曲がったことが大嫌い。崇拝者も多いけど敵も多い。(寺内貫太郎のイメージでしょうか)
ちょっと敬遠したいタイプなんですが、なんとなく憎めないんでしょうね。
介護ヘルパーの綴喜みち子とともに、様々な事件に遭遇します。殺人あり老人ばかりを狙う通り魔あり、銀行強盗あり……。
御歳七十二歳。まだまだ矍鑠としております。漫画家の次男と、車椅子でレースをしてみたりね。
章題はホームズものを意識してつけてあります。「四つの署名」「最後の挨拶」。結構時事問題を扱っていると感じました。年金問題とか平等教育のゆがみとか耐震強度とか。玄太郎がまたやたらと怒る怒る。
「さよならドビュッシー」のスピンアウトと聞いていたので、おそらくこの遥ちゃんとか音楽の講師の先生が出てくるんだろうなと楽しみにしています。(こっちの本も借りてある)
趣味はプラモデル。リハビリにきているお年寄りの窮地を救う回がおもしろかった。
安楽椅子ではなく、車椅子探偵ですね。しかし、駐車場の瓦礫を口にして「しょっぱい」といい出したときにはびっくりしました。
はー、しかし、読むのはともかく書く方は熱があると勢いもありませんね。ははは……

「殿様とトラ 幼少編」くるねこ大和

2012-03-06 21:29:11 | コミック
正直なところ、幻冬舎には一抹の不安というか不信感を感じるわたしなのです。優秀な編集さんもいらっしゃるのでしょうが、どうも首をひねるようなことが多い。
そう思いはじめたのは、さくらももこの「健康手帖」。全編編集のみるこさんという方としゃべっているという体裁なんですが、後半になって、実はさくらさんが全部書き直したことがわかる。たしか、しゃべっているときはすごくおもしろいと思っていたのに、原稿におこしたらそれほどでもなかったというようなことが書いてあったと思います。(でも、直してもどこがおもしろいのかわかりませんでした)
「もものかんづめ」を読んだとき、天才だと思ったんですが。この本以降買うのをやめました。
ほかにも、有川浩爆走しすぎだろうと思った「阪急電車」も幻冬舎だし。
で、今回もがっかりしてしまったのです。「おばさんとトメ」で見直しかけていたのに、ここの編集は校正しないの?
くるねこ大和「殿様とトラ」。風邪で学校を休んだ息子のために買ったのですが、いつものくるさん本ならじっくりじっくり読むのに、10分くらいで終わってしまう。きっとキャラクター重視なんだわね、と読んだんですが。
わたしは、くるさんの作品世界自体はものすごくいいと思うのですよ。小技もきいているし、トラ猫の動きもいい。
でもね。
なんの疑問もなく、読み書きの師匠をする浪人さんを「殿様」と称するのはいかがかと。武士の家の主人は(ここでは家督を継げない次男だけど)「殿」ではないわけですよ。
まあ、タイトルとしてニュアンスがいいというのはわかるので、猫から見てご主人のことをそう呼んだと解釈しましょう。
だけどね。
「枕草子」第九段の「上にさぶらふ御猫は」の「命婦」の読みは「めいふ」じゃないでしょう!!!
愕然としてしまいました。「みやうふ」、現代仮名遣いなら「みょうぶ」です。主上が「めふめふ」言っているから直せなかったの?
ネット空間では信憑性のないことや間違いがそのまま流通しやすいものではありますが、こういう指摘をきちんとするのが校正部の役割だと思うので、残念です。
初出のままっていうのは出版社の怠慢だと思います。作品が意図したものと変わってしまうという意向なら仕方ないかもしれないけど、そういう質でもないでしょう。
話変わりますが、帰ってきたら息子だけでなく、娘と夫も寝込んでおりました。明後日は高校入試。わたしが倒れるわけには参りません。風邪をひかないぞっ。とりあえずマスクして今日は寝ます。

「邪馬台」北森鴻 浅野里沙子

2012-03-05 22:15:42 | ミステリ・サスペンス・ホラー
「蓮丈那智フィールドファイル」の四冊め、「邪馬台」(新潮社)。
北森鴻が連載していた「鏡連殺」を、パートナーだった浅野里沙子氏が書き継いで完成させた作品です。
タイトルからもわかるように、今回のテーマは邪馬台国と卑弥呼。かつて冬狐堂や越名集治らとともに巻き込まれた「チベットに第二皇軍を」という計画に連なるものがあるらしいです。(多分「狐罠」だと思うんですが、わたしは未読です)
もともとは越名が持ち込んだ「阿久仁村違聞」を解読するのがメインなんですが、彼が敵方にまわったこともあって、那智や内藤らは結構苦戦します。
阿久仁村とは、かつて島根と鳥取の境あたりにあった村で、県の統合・分離の際に地図から抹消されています。廃村についての考察を始めた内藤にとっては、興味深い題材なんですね。
この村の民話かと思われるような聞き書きが二十五編集録されています。
ただし、文体が統一されておらず、順番もごちゃごちゃ。しかも、仮名づかいにミスがあったり「すべらかく」の用法が間違っていたりするんです。イメージとしては「遠野物語」が浮かぶかと思いますが、どうも昭和の始めくらいに作られたものらしい。全体の内容としては、高貴な血筋の人が住んでいたこと、鬼三郎と鬼四郎という兄弟のこと、神に祈る娘が恋をしたら巫女としての能力を失ったこと、白熊を退治したことなどがあげられます。何かのメタファであるらしいことや、高い教養をもった人が換骨脱胎したとおぼしき作品が多い。
例えば、鬼四郎の話は「古事記」(一般に「海幸山幸」と言われる話)から、桃源郷のような場所で過ごした住人の話は「浦島太郎」からとった話というように。
これにどうやって邪馬台国だの卑弥呼だのからんでくるんだって? いやー、大丈夫、絡みます。キーワードは「酒と鉄」。民俗学ではメジャーな論理だと思うんですが、結末は結構ふっとんでますので、安心して(?)那智先生に振り回されてください。
文中にいろいろな作品が登場します。邪馬台国が「八幡平」にあると結論づけるミステリー(鯨統一郎ですよね)とか、高木彬光(最近入手困難ではないでしょうか)とか。いれずみをつけたようなまんがって何? 内藤が民俗学に興味をもつきっかけになった本って?(宗像教授?)
しかし、越名が「裏鬼道」で見せられるイメージ、すぐに津山三十人殺しが浮かぶのは自明だと思うんですけど。彼は「八墓村」を知らない世代?
北森作品の主要人物たちがそこかしこにちりばめられているのも、気になりますね。工藤さん、夫婦で店をやってるんですか! 読みたかった~。
通しで読むと、明らかに登場人物の内面に変化があることはわかると思います。四十代の北森さんとでは、どうしても違いが出てしまう。簡単にいえば、作品半ばにして、みんな若くなってしまうんですよね。さらに、「蓮丈那智」は難解な構造のシリーズなんですが、かなりわかりやすい着地になっている。仕方がないことなんですが。
遺作をほかの作者によって完成させるというと、ウールリッチの「夜の闇の中へ」を思い出します。
浅野さん、お疲れさまでした。北森さんも読者も、この本の出版を喜んでいます。集大成になるべき作品です。読めてよかった。

「帰ってきた海馬が耳から駆けてゆく②」菅野彰

2012-03-04 09:24:25 | エッセイ・ルポルタージュ
わたしも、地震中のあれこれを記録しておくべきでした。貴重な日記になってますよ菅野さん。
でも、うちのところは停電で、ストーブも一カ所(茶の間)しか使えず、夜はろうそく(ハウス用の太いやつ)の明かりで過ごし、義弟が石巻に住んでいるのに情報なく、携帯はいつもより消耗が激しいし、とてもとても人前で何か書く状態ではなかったのでした。
信号機が動いているのを見て、すごく嬉しかったな。でも、電気が使えないよりも水が出ない方が辛いです、正直なところ。お風呂に水をためて洗いものをしたり、給水車に自転車でもらいに行ったり(ガソリン貴重なので)もうしたくない。
福島ライフライン無事だったんですねぇ。電気通ってるし。テレビ見てるし。
うちのあたりは震度7で。でも、内陸だからそれほどの被害ではありませんでした。(でも、当日のことを振り返ると「死ぬと覚悟した」という人、多いですよ)
ただ、全く情報が入らない。福島原発の事故ニュースも、デマかと思っていました。
菅野さんが暮らす会津地方は福島では比較的安全な場所と言われているのですが、ほとんどの小学校が修学旅行先を盛岡に変更しました。
多分今年も、同じような話し合いが行われるのでしょう。まだ、福島は状況が「過去のこと」にはなっていません。日に日に報道が事情を明かしていくような気がする。被曝については宮城も安心とはいえませんよね。
そんな中でも菅野さんは元気だなー。「仮面ライダーオーズ」が気に入って、ビデオを録ったり映画に行ったり。今は「フォーゼ」になっちゃいましたが、継続して見ているのかしら。ヒーローが不良ってどうなの? と思うんですけどねぇ。(わたしは「W」が好きでした)
仙台に楽天の試合を観戦に来たことも書かれていました。
最初のエッセイが沖縄をハードスケジュールで旅した記録だったので、こういう旅行楽しそう、でも遠くて行けそうにないと思ったんでした。ピザ、おいしそうなんだよー。
でも、仙台でも同様にいろんな場所を紹介されている。牛タン、寿司、牛タン、寿司、ずんだ餅、って感じですよね。利久は行ったことあります。ほかの店も行ってみよー。
それにしても、菅野さんて友達多いですよね。文筆を生業としている人だけじゃないもんね。わたしは友達とはこんなに気軽には会えない気がします。
菅野さんの周囲って、ほんといろんなことがおこるよね。でも、これは菅野さんの目が、いろんな事象を捉えるからなんだと思います。語りも絶妙。わたくし、腹巻きを買いに行こうかと真剣に考えてしまいました(笑)

「沈黙」村上春樹

2012-03-02 21:16:22 | 文芸・エンターテイメント
村上春樹は苦手なんですが、ちょっと感想文を見てほしいと言われて読んでみました。集団読書用のテキスト「沈黙」(SLA)です。
しかし、生徒が書いてきた作文が、わたしの読みと全く違う。結構できる子なんですが。わたしの深読み(曲解)しすぎという悪癖のせいなんでしょうか。同じ本を読んでいるはずなのに。
「僕」は知人の「大沢さん」がボクシングをやっていたと聞いて、人を殴ったことはあるのかと質問します。何気なく聞いてみたのですが、彼は一度だけあると答えて、中高一貫の私立校に通っていたときのことを話し出す。ですからほぼ八割くらい、大沢の告白で構成されるんですね。
最初から虫が好かなかった同級生「青木」が、中学二年のとき「僕」(大沢)に英語の首席をとられたことを逆恨みしてカンニングの噂を流す。そのことに激怒し、右ストレートをうって鼻血を出させるほどのけがをおわせる。怒りは収まらないものの、殴るべきではなかったと彼は思います。
このへんが非常に感覚的に訴えてくるところで、わたしは村上春樹のこういうところが多分苦手なのです。
自分が彼を好きになれないように、青木も自分を苦々しく思っているらしい。そこで復讐の機会をしんねりむっつり待っていたというのです。高校三年の秋口に、同級生が自殺します。非常に大人しい生徒で、ほとんど口をきいたこともないのに、青木が教師に口さがないことを言ったため、「僕」は学校中から総スカンをくらう。
この同級生、どうも誰かに恫喝されていたらしく、体に殴られたあとがいくつも見つかったんだそうです。そこで、青木は自分も昔、大沢に殴られたことがあること、ボクシングをやっていることを巧妙に周囲に告げたようだというんですね。
休み時間にサラっと読んだので細かい間違いもあるかもしれませんが。わたしとしては大沢くんの思い込みの激しさに辟易します。さらに、青木のことをなんの深みもない人間だとか言うんですよ。
彼との対峙で悩みをふっ切る場面はとてもいいんです。同じように悩む人には救いになると思います。しかし、このように救済され、気持ちを汲み取ることができるために友人も増え、安定した生活をしているのに、集団からはじかれて苦痛にあえぐ夢をいつも見る。根本的に人を信じ切ることができない。夢から覚めると妻にしがみついておいおい泣くのだと彼は話します。
デマに踊らされ、真実を確かめもしないで誰かを弾き出そうとする集団の悪意。あるのは沈黙だけ。沈黙とともに溶けていく自分に悲鳴をあげるのだと。
なぜタイトルが「沈黙」なのか。そこを書かずには感想文とはいえないように思います。「沈黙」とは、途中大沢が使う「寡黙」と比べると大分違う。自分の言葉を発することがない状態とでもいいましょうか。
集団のなかで意見(ほかの人と違う主張)を言ったならば、その瞬間に集団の一員ではなくなるのでしょう。矛先を避けるためには沈黙が必要なのです。
個ではなく、群でいるためには、沈黙を貫くしかない。その得体の知れない恐怖、ですかね。信憑性は二の次です。
大沢が嫌悪を抱くのは、きっかけを作った青木よりも、寧ろそれまでの付き合いよりも噂を信じて距離をおく級友たちです。
でもね、自分でも彼は同級生との付き合いが苦手だったというんですよ。もともと孤立する下地があったというか……。
青木と違って人間的深まりがあるかどうかは判断できませんが、とりあえず、夢から覚めて抱きついたまま大泣きしても許してくれる奥さんに出会えてよかったよね、とは思います。
思ったよりもおもしろかったけど、やっぱりわたしは村上作品は苦手ですね。
ただ、この本の感想文に高校生活の展望を盛り込むのは無理があると思うんだけど。(まあ、要するにそういう関係の宿題なんです……。わたしのアドバイスは、強引につなげる必要はない、です)
高校時代に戻って、このテキストで読書会をしてみたいような気持ちにはなりました。みなさんどう読んでくるんですかね。

「レイン・レインボウ」加納朋子

2012-03-01 22:08:12 | ミステリ・サスペンス・ホラー
加納さん三連発です。「レイン・レインボウ」(集英社)。
高校時代、九人きっちりしかいなかったソフトボール部員たち。体が弱かった知津子(チーズ)が亡くなったとの連絡で、再会することになったのですが……。
部長の陶子(今はOL)、副部長の陽子(編集者)、ライトの美久(カンちゃん・専業主婦)、知津子の親友里穂(会社員)、保母をしている善福佳寿美、看護婦の緑、栄養士の由美子(ミュータン)、仕事が見つからない「りえ」。
彼女たちの「現在」を描きながら、浮き上がる知津子の人生が、なんとも苦しいのです。
生れつき心臓が悪く、二十歳まで生きることは難しいといわれていた知津子。
彼女が死んだのは、会社の労働条件が悪いからだと決めつける兄。
親友だといってべったりくっついていた里穂と現在疎遠になっているという話も聞こえ、不安が募ります。しかも里穂が葬式に来ない。やがては会社を休むようになり、行方不明に。
さらに知津子の幽霊を見たと言い出す人もいて。
短編としてもおもしろいし、時間軸にそれぞれ差があるのでほかの人のその後のこともわかる。多面的といいますか。「虹」がテーマなので、自分の色をもちながらも重なり合ってより深まるような作品集だと思います。
「雨上がりの藍の色」がすごくおもしろかった。主人公は由美子です。第一話ではもう結婚しているといっていたなーと思いながら読んだのですが。
栄養士として派遣されることになった社食は、問題が山積していて次々に前任者が辞めていく。「山本さん」という女性調理師が三人もいて扱いにくいし予算も少ない。
持ち前の暢気さで次第になじんでいく由美子ですが、なんと人件費削減のためか社食が閉鎖されるかもという話が!
で、一念発起するんですが、これがすばらしい。残りものを徹底的に再利用して、キンピラや浅漬けにしたり、シチューをグラタンにしたり、海老の殻でだしをとってスープにしてからかき揚げにする等々、手間と工夫で夕方の時間帯にも人気の食堂にしてしまうんです。食券も手に入れにくいらしいよ。
さらにいえば、こういうコミカルなストーリーのおまけみたいに「恋」が入って来るのも、読者としては楽しいものです。(佳寿美の回もそれらしい感じでいいよね)
あとは緑のパートも、しんみりとしたやさしさがある。
高校時代の友達って、やっぱり特別かもしれませんね。わたしは文芸部に同級生がいなかったのですが、先輩とお会いしたいなー。みなさんどうされているのかしら。