「蓮丈那智フィールドファイル」の四冊め、「邪馬台」(新潮社)。
北森鴻が連載していた「鏡連殺」を、パートナーだった浅野里沙子氏が書き継いで完成させた作品です。
タイトルからもわかるように、今回のテーマは邪馬台国と卑弥呼。かつて冬狐堂や越名集治らとともに巻き込まれた「チベットに第二皇軍を」という計画に連なるものがあるらしいです。(多分「狐罠」だと思うんですが、わたしは未読です)
もともとは越名が持ち込んだ「阿久仁村違聞」を解読するのがメインなんですが、彼が敵方にまわったこともあって、那智や内藤らは結構苦戦します。
阿久仁村とは、かつて島根と鳥取の境あたりにあった村で、県の統合・分離の際に地図から抹消されています。廃村についての考察を始めた内藤にとっては、興味深い題材なんですね。
この村の民話かと思われるような聞き書きが二十五編集録されています。
ただし、文体が統一されておらず、順番もごちゃごちゃ。しかも、仮名づかいにミスがあったり「すべらかく」の用法が間違っていたりするんです。イメージとしては「遠野物語」が浮かぶかと思いますが、どうも昭和の始めくらいに作られたものらしい。全体の内容としては、高貴な血筋の人が住んでいたこと、鬼三郎と鬼四郎という兄弟のこと、神に祈る娘が恋をしたら巫女としての能力を失ったこと、白熊を退治したことなどがあげられます。何かのメタファであるらしいことや、高い教養をもった人が換骨脱胎したとおぼしき作品が多い。
例えば、鬼四郎の話は「古事記」(一般に「海幸山幸」と言われる話)から、桃源郷のような場所で過ごした住人の話は「浦島太郎」からとった話というように。
これにどうやって邪馬台国だの卑弥呼だのからんでくるんだって? いやー、大丈夫、絡みます。キーワードは「酒と鉄」。民俗学ではメジャーな論理だと思うんですが、結末は結構ふっとんでますので、安心して(?)那智先生に振り回されてください。
文中にいろいろな作品が登場します。邪馬台国が「八幡平」にあると結論づけるミステリー(鯨統一郎ですよね)とか、高木彬光(最近入手困難ではないでしょうか)とか。いれずみをつけたようなまんがって何? 内藤が民俗学に興味をもつきっかけになった本って?(宗像教授?)
しかし、越名が「裏鬼道」で見せられるイメージ、すぐに津山三十人殺しが浮かぶのは自明だと思うんですけど。彼は「八墓村」を知らない世代?
北森作品の主要人物たちがそこかしこにちりばめられているのも、気になりますね。工藤さん、夫婦で店をやってるんですか! 読みたかった~。
通しで読むと、明らかに登場人物の内面に変化があることはわかると思います。四十代の北森さんとでは、どうしても違いが出てしまう。簡単にいえば、作品半ばにして、みんな若くなってしまうんですよね。さらに、「蓮丈那智」は難解な構造のシリーズなんですが、かなりわかりやすい着地になっている。仕方がないことなんですが。
遺作をほかの作者によって完成させるというと、ウールリッチの「夜の闇の中へ」を思い出します。
浅野さん、お疲れさまでした。北森さんも読者も、この本の出版を喜んでいます。集大成になるべき作品です。読めてよかった。
北森鴻が連載していた「鏡連殺」を、パートナーだった浅野里沙子氏が書き継いで完成させた作品です。
タイトルからもわかるように、今回のテーマは邪馬台国と卑弥呼。かつて冬狐堂や越名集治らとともに巻き込まれた「チベットに第二皇軍を」という計画に連なるものがあるらしいです。(多分「狐罠」だと思うんですが、わたしは未読です)
もともとは越名が持ち込んだ「阿久仁村違聞」を解読するのがメインなんですが、彼が敵方にまわったこともあって、那智や内藤らは結構苦戦します。
阿久仁村とは、かつて島根と鳥取の境あたりにあった村で、県の統合・分離の際に地図から抹消されています。廃村についての考察を始めた内藤にとっては、興味深い題材なんですね。
この村の民話かと思われるような聞き書きが二十五編集録されています。
ただし、文体が統一されておらず、順番もごちゃごちゃ。しかも、仮名づかいにミスがあったり「すべらかく」の用法が間違っていたりするんです。イメージとしては「遠野物語」が浮かぶかと思いますが、どうも昭和の始めくらいに作られたものらしい。全体の内容としては、高貴な血筋の人が住んでいたこと、鬼三郎と鬼四郎という兄弟のこと、神に祈る娘が恋をしたら巫女としての能力を失ったこと、白熊を退治したことなどがあげられます。何かのメタファであるらしいことや、高い教養をもった人が換骨脱胎したとおぼしき作品が多い。
例えば、鬼四郎の話は「古事記」(一般に「海幸山幸」と言われる話)から、桃源郷のような場所で過ごした住人の話は「浦島太郎」からとった話というように。
これにどうやって邪馬台国だの卑弥呼だのからんでくるんだって? いやー、大丈夫、絡みます。キーワードは「酒と鉄」。民俗学ではメジャーな論理だと思うんですが、結末は結構ふっとんでますので、安心して(?)那智先生に振り回されてください。
文中にいろいろな作品が登場します。邪馬台国が「八幡平」にあると結論づけるミステリー(鯨統一郎ですよね)とか、高木彬光(最近入手困難ではないでしょうか)とか。いれずみをつけたようなまんがって何? 内藤が民俗学に興味をもつきっかけになった本って?(宗像教授?)
しかし、越名が「裏鬼道」で見せられるイメージ、すぐに津山三十人殺しが浮かぶのは自明だと思うんですけど。彼は「八墓村」を知らない世代?
北森作品の主要人物たちがそこかしこにちりばめられているのも、気になりますね。工藤さん、夫婦で店をやってるんですか! 読みたかった~。
通しで読むと、明らかに登場人物の内面に変化があることはわかると思います。四十代の北森さんとでは、どうしても違いが出てしまう。簡単にいえば、作品半ばにして、みんな若くなってしまうんですよね。さらに、「蓮丈那智」は難解な構造のシリーズなんですが、かなりわかりやすい着地になっている。仕方がないことなんですが。
遺作をほかの作者によって完成させるというと、ウールリッチの「夜の闇の中へ」を思い出します。
浅野さん、お疲れさまでした。北森さんも読者も、この本の出版を喜んでいます。集大成になるべき作品です。読めてよかった。