くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「あなたの恋人強奪します」永嶋恵美

2011-04-10 09:21:59 | ミステリ・サスペンス・ホラー
すっごいおもしろかった! 当たりでした。
でも、同じ作家の本を探したくとも、余震のあとの停電のためどこの本屋もやってません。ううう、落ち着いたら是非っ。
永嶋恵美「あなたの恋人、強奪します。 泥棒猫ヒナコの事件簿」(徳間文庫)です。
タイヤの溝が擦り減ってきたので、交換してもらっている間に、ふらふらと本屋の棚を見つめていたら、この本があったのです。
ちょっと立ち読みしてみて、これは、という感触があったので購入。
その翌日、ガソリンスタンドの給油待ちをしながら車中で読んでいました。
泥棒猫というフレーズやらこの思わせぶりなタイトルからも予想されるように、いわば恋人関係を破綻させる生業を送る女性が登場します。皆実雛子。二十代前半にも、三十代後半にも見える。百パーセントの成功率。
「あなたの恋人、友だちのカレシ、強奪して差し上げます」
こんな奇妙な広告が目に入ったらどうします? 駅の構内で、出会い系サイトで、女性専用伝言板で。もうすっかり恋人にうんざりしている女性なら、思わず電話をしてしまうかもしれません。
相手はストーカー気味だったり、二股をかけていたり、よんどころない事情で別れを告げなければならなかったり。
ヒナコの指示は的確。引き受けた依頼の裏まで考えて指示を出します。
依頼主がつい嫉妬してしまったり(別れたいのに、ですよ)、自分の本心に気づいたり、ああ、わかるわかる、女心ってそうだよなあという場面の連続です。
いちばん納得してしまったのは、
「あなたのためよっていう言葉、実はものすごく神経を逆なでするんです」
という台詞ですねー。非常によくわかる。
さらには依頼人だった梨沙に、ラストでヒナコが見せる表情。「女が男の前では決して見せない種類の微笑」ですよ。やられた!
非常に鮮明に画面が浮かびます。ドラマを見ているみたい。痛快です。
でも、わたしがこの小説をすばらしいと思うのは、テレビドラマとの違いを明確に感じさせられるからなのです。
これが映像だったら、同じようなシーンの連続になってしまうでしょう。依頼人からの視点でありながら、少しずつ変化を織り込む技がいいのだと思います。
さらには、ヒナコにも他の社員たちにも、重厚な過去が潜んでいるのに、それを表出させない。
例えば、まだまだ見習いと語る楓ですが、彼女は敢えて「失敗」を演出するために起用されているようにも思います。元は音大生。事故で指が動かせなくなった。ターゲットの薫の前で語ったことは、おそらく嘘ではないでしょう。
最後に姿を現す陽子にしても、わざわざ彼女を柚奈の送り手として同行させるというところから、「テディベアのペンダント」の持ち主はこの人では? と勘繰りたくなります。
もしかすると、アナザーサイドの物語が書かれているのかしら。
とても気になります。