くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「ゴーストハント③」小野不由美

2011-04-19 21:37:06 | ミステリ・サスペンス・ホラー
震災の次の日辺りが発売日だったのですよね。どこに行っても見つかりませんでした。先行の巻は平積みしてあるのにな。あちこち探して、やーっと一冊発見。
小野不由美「ゴーストハント③乙女ノ祈リ」(メディアファクトリー)。
この前コミック版を読んでいるので、アレンジの違いが分かっておもしろかった。
まんがには登場しない沢口さん、という女の子が、この小説の味になっているとわたしは思います。超能力バッシングのあおりをうけた友人(笠井さん)を庇って教師の車の鍵を曲げ、その後学校に来なくなって、そのまま家出をしてしまった彼女。
後半で麻衣が笠井さんに対して語る言葉に胸をつかれます。
「笠井さんのせいじゃない。沢口さんが弱虫で狡いだけ。一蓮托生の友達見捨てて逃げた人のために、責任なんか感じる必要ないっ」
友人である沢口さんに対して流した涙のことを、冷静に振り返る笠井さんの気持ちが、なんとも苦しい。
たしかに、沢口さんなしで物語は充分に進行します。それを敢えて描く。そのセンシティブな人間観察に、小野不由美の力を感じました。
さらには超能力を否定し、笠井さんたちを全校の前で吊しあげておきながら、オカルト的現象に怯える教師たちという矛盾を露呈させます。
どのようなことが誰の手によって行われているのか、読み手として分かっているはずなのに、いろいろな背景が見えてきてとてもおもしろい。
こうなってみると、小野さんがどういう部分を改稿したのか、比べてみたいようにも思います。
ぼーさんの本名が「ノリオ」だっていう場面も読んだ覚えがある。(まんがにはないよね?)
この巻でホッとさせられるのは、依頼者の一人でもある高橋優子(タカ)の存在でしょう。人懐こい彼女の性格が、笠井さんの気持ちも慰めてくれたのだと思うのです。
しかし、一場面しか登場しないに関わらず、演劇部の中澤さんは存在感ありますね。挟み込みの「SPR通信」にまで取り上げられている。(表紙カバーにもいます)
ところで、「乙女ノ祈リ」の「乙女」とは、笠井さんのことであり、さらに産砂先生の少女期を示しているように思いました。
価値観って。集団って。ふとしたきっかけで入れ代わる、周囲の人間関係。
次の巻も楽しみです。