くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

感傷コンパス

2008-12-07 19:13:12 | 文芸・エンターテイメント
多島斗志之「感傷コンパス」を読んでいます。伊賀の山里に赴任した教師、井上明子と教え子たちの物語。昭和半ばのころの分校でのふれあいが、淡々と綴られます。感じとしては、「二十四の瞳」のイメージに近いかな?
でも、まだ途中なのであれなのですが、多島斗志之がただのしみじみものを描くとはわたしには思えないのですね。
営林署に勤める空木という男にはなんか秘密がありそうだし、同僚の千津世先生は男の影があるとみた。なんか目のはなせない野性児のような子もいる。父親と忍術の研究をしている?
と思っていたら、あー、なるほどー、野性児巴田朱根の生活がくるりと反転して真実が見えました。
空木と看護婦の浅尾のかかわりも。千津世先生のことも。
でも、そこに隠された謎のどうこうよりも、明子を取り巻く子供たちのかれんさ、ひたむきさが愛おしい物語だと言えましょう。彼らのひとりひとりが、明子にとって大きな存在になっていく様子がわかる……、というか。
この子にはこんな一面もあると発見するときの明子先生は、なんだかいいのです。わたしが好きなのは、房代が「浜辺の歌」を歌うところ。
あ、浅尾看護婦が医師をひっぱたいて、正気に返させるところも好き。
全編をとりまく伊賀の言葉がすばらしい。「だいじない」(大丈夫)、「すこたん」(頭)など、作者は三重出身? と思うほどだった。でも、「症例A」なんかでも方言を効果的に使っていたしなー 。
物語の続きをあれこれと考えさせられる本です。

リョウタ組感想の続き

2008-12-07 07:01:34 | 文芸・エンターテイメント
読み終わりました。「5年3組リョウタ組」。
中盤なんだかものすごい設定が次々出てきて、いっそやめてしまおうかとも思ったんだけど、読後感はよかった。んー、良太のことは相変わらず好きにはなれないのです。でも、こういう決断を下せるというのは、結構すっきり。
あとは、染谷先生がきちんとした人なので、全体的にいい印象にアップしたかな。後半出番少ないけど。だってこの話でいちばん教師の資質を備えているのは染谷先生じゃない? 過去三年成績争いでは下位グループだった良太の素質を見つけて、励まして段取りしてやって自信つけさせて。教師の教師としてのやるべきことをきちんとこなしている。
それに比べると良太はいきあたりばったりだし、最初から嫌いな人のことは理解しようとしないよね? 富田主任や岩本先生、そんなにひどいかな?
あとたいしたことないかもしれないけど、わたし、この台詞ひっかかります。「確かにシロクマの家族はかわいそうだけど、これは物語なんだ。お話の流れを楽しんで、それから自分だったらどうするかを考える。お話っていろんな人の気もちになって考えるための練習なんだよ」
こういう気持ちで国語を教えられるのはなんか嫌なんだけど……。それこそお話を書いている人にこういう考えを持ってほしくない。
物語に感情移入して授業中に泣き出す子供、とてもすてきだと思う。授業に切り替えさせるより、共感してあげてもいいんじゃないだろうか。