ポポロ通信舎

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あの戦争は何だったのか 説明責任は?

2014年03月24日 | 研究・書籍

『あの戦争は何だったのか』保阪正康 著 新潮新書 2005年

東大、京大卒より勢いのあった陸大、海大卒

高校の同窓会名簿を見ていると旧制中学校の頃の人たちの進路先に「陸士陸大」「海兵海大」というのが目に入る。「陸士陸大」とは陸軍士官学校を卒業しさらに陸軍大学校に進んだ人、「海兵海大」は海軍兵学校から海軍大学校を出た人だ。当時、陸士、海兵を卒業するだけでも数少ないエリート。陸大、海大は将官クラスを約束されたそれこそ超エリートだ。

一概に「軍部」といっても誰のことなのか、一般の兵隊さんも総称されかねない。戦争遂行を指揮した軍部中枢とは参謀本部、軍令部、作戦部、陸軍省、海軍省の軍務局などを指す。

20人のウルトラ超エリートが机上作戦を

本書では、大本営を構成していたのは約200人の幕僚、その中でも大本営の頭脳集団で東京永田町三宅坂にあった「作戦部」の20人はいずれも陸大、海大時代の成績が5番以内であった人物たちだという。この作戦部のキャリア幕僚達こそがこの国の運命のキーを握っていた。

一般に戦争を始めたのは陸軍という風に考えられているが、「武力発動」ができたのは唯一海軍だった・・。三国同盟に反対だった山本五十六は海軍内部でも少数派で軍務局、軍令部の海軍主流派は、実はいずれも好戦派だったとも。

著者の“太平洋戦争批判”の一つは、「なぜあのような目的も曖昧な戦争を3年8ケ月も続けたかの説明責任が果たされていないこと」を指摘する。そのことは戦争というプロジェクトだけでなく、戦後社会にあってもみられる現実と語る(2005年現在)。

「戦略、つまり思想や理念といった土台はあまり考えずに戦術のみにひたすら走っていく。対処療法にこだわり、ほころびにつぎを当てるだけの対応策に入り込んでいく。現実を冷静にみないで、願望や期待をすぐに事実に置き換えてしまう。太平洋戦争は今なお私たちにとって“良き反面教師”なのである。」

含蓄のある重い言葉です。客観的条件を軽く見、国策先行で戦術のみに走り推進した原子力発電、そして原発震災後の今の状況とも・・。

ノンフィクション作家、保阪正康氏の本をじっくり読んだのは初めてだ。保阪氏はこれまで戦後史を書くにあたっては2000名以上の閣僚から一兵卒まで実際に会って取材を重ねてきた。優れた作家だと思う。保阪氏は最近の安倍首相の集団的自衛権容認については、これにより「軍事を政治の背景に置く」ことになり、戦後保守政治の思想であった「政治は政治でやる」という平和的で崇高ともいえる方針の転換を意味し自民党内の保守リベラル勢力の後退ではないかと危惧している。
「大人のための歴史教科書」の副題のとおり、成人として本書に記されている史実のことは常識として身につけておきたいと思った。

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あの戦争は何だったのか―大人のための歴史教科書 (新潮新書)
保阪正康 著

新潮社             

 

平時から戦時への法体系に変わると警鐘する作家・保阪正康氏 ~立憲フォーラム院内学習会

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