ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

降りかかる不条理に抗す(6)

2020年09月25日 | 研究・書籍
保健隊(防疫組織)に見る自立・連帯


『ペスト』の中で青年医師リウーと旅行者タルーの会話が意味深い。
パヌルー神父の話を聞いた後に、タルーは有志による防疫のための民間組織「保健隊」を作ることを考える。

タルーが神父の説教についてどう考えるかを医師リウーに尋ねると
「私は病院の中でばかり暮らしていたので集団的懲罰などという観念は好きになれません。普通の病気も神の罰かもしれず、病人は罪人ということになりかねません。・・ペストに対して諦めるなどということはできないはずです!」

つづけてタルーが「あなたは神を信じていますか」と問うと

「信じていません。私は暗い夜の中にいます。その中でなんとかして明るく見きわめようと努めているのです。この世の秩序が死の掟に支配されている以上は神にとって人々は自分を信じてくれない方がいいのかもしれないのです。あらん限りの力で、死と闘った方がいいんです。神が黙している天上の世界なんかに眼を向けたりしないで」

タルー「なるほど・・あなたの勝利は常に一時的なものですね」
リウー「だからといって闘いをやめる理由にはなりません」
タルー「そうなると僕は考えてみたくなるんですが・・このペストはあなたにとってどういうものなのか・・」
リウー「果てしなき敗北です






この先は白紙といたします。

ただ、「集団的懲罰」という神父の言葉がありましたが、「カトリック的な土壌のない日本でも、同様な言い方として「天罰」があります。近年でも東日本大震災が起こったときに当時東京都知事だった石原慎太郎氏が黙示録的な意味で「天罰」だと語り、議論を呼んだのは記憶に新しいところです。」(中条省平著「100分de名著」アルベール・カミュ ペスト)

神という大きな存在に委ねてしまうと、人間のもつ力が示せなくなる。防疫組織を作るということは、個々が強くならねばならない人間中心の考えヒューマニズムに立ち闘おうとするものです。そこにはカミュの「不条理の哲学」がリウーとタルーとの交わす言葉に感じ取れます。


(つづく)

 


ジュリエット・グレコさん亡くなりました。カミュ、サルトルとも親交のあった歌手とききます。合掌。


【ジュリエット・グレコ】パリの空の下  
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降りかかる不条理に抗す(5)

2020年09月23日 | 研究・書籍
管理社会 vs 市民の自由

「100分de名著」では「デフォー ペストの記憶」3回は「管理社会vs市民の自由」でした。

1665年のロンドンでのペストによるパンデミックから今日の私たちに示唆されるメッセージは多い。

ロンドンの中心部のシティーの行政府は、条例を施行。芝居、見世物、剣術試合など大勢集まる催し、宴会、店での飲食一切禁止。罰則も課す。「禁止、罰則」ですからきびしいですね。もっとも当時のロンドンの人口46万中7万5千人が死亡していた状況ですから、今のコロナ禍とペストの単純比較はできませんが。

このきびしい条例の効果はあった。それは王族貴族、富裕層が早々に脱出した後だけに、いちいち最高上層部の決定を仰がなくても現場の市長の職責で事が成せ行政がスピード化し適切な施策を次々と打つことができたからだ。

効率的な行政のその反面、市民にとっては犠牲、苦しみもうまれた。感染者を出した家の監視人の仕事に貧しい人たちをあてがったのは良いとしても、監視下に置かれた家は完全に封鎖された状態になり、そのため患者以外の家族も全員ペストにかかってしまうことにもなった。

墓穴を掘る埋葬人についても同様。あまりにもぞんざいな死体の扱いに市民の尊厳が傷つけられた。また死体の記録にも正確さが欠けていた。監視員も埋葬人も新たな雇用の創出のメリットはあったにもかかわらず。

行政の効率化の名のもと結果的に市民が苦しめられることになる場面は今の社会でも見られる。コロナ禍で気が付けば保健所や感染症専用救急車の数が激減され防疫態勢がおろそかになっていた。さらに公立病院の再編統合などの動きによるマイナス面も行政と市民の溝となりえます。

権力による管理には2面性があります。市民はポポロは、時にそれに抗して行かなければならない。しかしパンデミックのような状態ではデフォーも『ペストの記憶』で答えまでは提示しない。不条理に対しての自覚は十分持ちながらも・・

(つづく)


 


枯葉 イブ・モンタン
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降りかかる不条理に抗す(4)

2020年09月21日 | 研究・書籍
団結か連帯か? 私たちの対応

「疫病のペストとはナチズムを暗示しているのだとするカミュの告白はフランス語版のウィキペディアには引用(日本語版は未記載)されている。『ペスト』は戦争小説の一種であり災害文学でもある、というふうになる」(藤岡寛己氏 福岡国際大学名誉教授)

戦争となると、対するは「団結」。一丸となっての壊滅作戦だ。しかしウイルスに対しては団結の「joint」より連帯の「unity」 での対応ではないか。ウイルスを根絶することは難しく、私たちは自然界の中でさまざまなウイルスとは共存せざるを得ないものと思います。

団結も連帯も「Solidarity」と共通の訳もありますが・・。
医師や看護師など医療関係者の緊迫した動きは「兵士」のよう。現場は野戦病院の様相ですが、それを広く支える市民社会の組織、人々ポロの連帯が不可欠となります。


今夜のNHKのEテレで「100分de名著」では「デフォー ペストの記憶」3回講義のテーマは「管理社会vs市民の自由」です。

(つづく)

 
コロナ禍は陰鬱です。60年代フランスのエレキサウンドの“名曲”を


悲しきヤング・ラヴ/レ・プレイヤーズ
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降りかかる不条理に抗す(3)

2020年09月16日 | 研究・書籍
生命か、生計か?究極の選択

NHKのEテレ「100分de名著 デフォー ペストの記憶」第2回講義のテーマです。「生命か、生計か?究極の選択」。

「生計」は仕事、生活、労働、経済、ここではすべて同義語ですね。
生命と生計とは対立物ではないでしょう。仕事、生活、労働、経済は生命の源でもあります。テキストでは人間社会の本質に通じるテーマとして、貧富の差、階級格差の問題としてもとらえています。

ペストの襲来でロンドンから逃げ出せるのは、お金持ちの人たちだけ。残った人たちの中でもそれなりに経済力がある者は、一定期間は家にとどまり外出自粛生活ができました。しかし貯えのない人たちは生きていくために働かなければなりません。

生きていくために働く」このフレーズが問いであり答えに近いのではないでしょうか。
誰もが択一のチョイスは可能ではないし、誰もが一方を選択することでリスクを回避できるものでもないですね。ここは感染症相手のむずかしいところ。

今、小林よしのりの新書『コロナ論』でも帯に「生命至上主義か?経世済民か?」とこの問題を投げかけています。「あえて言う。経済の方が命よりも重いのだ!」とは、よしりん(小林よしのり)の説。労働(経済)をどうとらえるのか、労働の中にも幸福が生まれる(カミュ)とも。

よしりんの『コロナ論』はさて置いて、デフォーの『ペストの記憶』に戻ります。
ペストによって「災害ユートピア」の現象も出てきた。それはキリスト教の宗派間対立が一時的に解消されたことや慈善家の救済活動が生まれたことなど。

現代の私たちのコロナ禍でも「ニューノーマル」「新しい日常」という言い方を耳にしますね。これは私たちも変わらなければならない、というメッセージ、だとテキストの弁(武田将明氏=東大准教授)。

パンデミックのもとでは正解や出口が見えない。ならばどうすればいいか、逡巡しながらやっていくしかない(武田将明氏)という苦しい状況の中で、番組出演者の伊集院光氏がまとめた。「まずは自分の中でベターを選ぶ。それがベストとは思い込まない。今の自分の考えの中で手を抜かずに選択をする!


(つづく)



 
 
『愛の休日』ミッシェル・ポルナレフ♪
コロナ禍で毎日が愛の休日では困りますが・・



Holidays
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降りかかる不条理に抗す(2)

2020年09月14日 | 研究・書籍
コロナ禍が日に日に社会の不条理な面を浮きだたせています。
その不条理を嘆き悲しむことは自然な感情ではありますが、時にはこの状況を逆手に取って冷笑してやろうではありませんか。

カミュの『ペスト』、再読しています。
『ペスト』には以下のエピグラフ(巻頭に記す題辞)が書かれています。最初はさっと無感情に読み過ごしてしまいましたが、細心の注意を払っての熟読です。

「ある種の監禁状態を他のある種のそれによって表現することは、何であれ実際に存在するあるものを、存在しないあるものによって表現することと同じくらいに、理にかなったことである。」

抽象的で難解な文章ですね。実はパンデミックの文学としては、カミュ(1913-1960)よりも前の年代のダニエル・デフォー(1660-1731)の存在があることを知りました。カミュが影響を受けたと思われるデフォー。カミュもあえて意識をして巻頭辞に紹介したものと思われます。

さてダニエル・デフォーってどのような人なのだろう。
今月、NHKのEテレで「100分de名著」では「デフォー ペストの記憶」が放映中です。
今夜(月曜午後10:25~10:50)第二回の講義。

ダニエル・デフォーはイギリスの作家・ジャーナリスト。一人で新聞を発行し政治経済評論をしていた。小説『ロビンソン・クルーソー』『ペストの記憶』などを書く。

カミュの『ペスト』の舞台となった北アフリカ・アルジェリア、オランの町はペスト禍に襲われたわけでなく架空の話。しかしデフォーの『ペストの記憶』は17世紀のロンドンを襲ったペスト禍の実録版にちかいという。

カミュから、さらにデフォーも調べてみようと思います。
「見えざる恐怖に立ち向かう。先が見通せない不安を支えあうものは何か?」
(100分de名著 デフォーのペストの記憶 表紙文)

隔離生活、飛び交うデマ情報、第二波の流行・・。17世紀のロンドンのあり様から今わたしたちが学ぶものは多いようですね。(つづく)




 

シャルル・アズナブールの濃厚な恋唄『イザベル』ナイスですね♪♡

Isabelle
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降りかかる不条理に抗す(1)

2020年09月11日 | 研究・書籍
あなたに降りかかる不条理に対して、
全力でその最前に立つ。
生きているだけで価値がある社会を、
何度でもやり直せる社会を構築するために。



れいわ新選組の「決意文」の一節です。
「不条理(ふじょうり)」という語が出ていますね。

「不条理」とは道理に反すること。実存主義の用語で、人生に意義を見出す望みがない、絶望的な状況を指す。特にフランスの作家カミュの不条理の哲学によって知られる(広辞苑)

コロナ禍の今、再評価が高まっているアルベール・カミュの『ペスト』をなんとか一読してみました。新潮社、宮崎峯雄訳を久々に電子書籍キンドルで。

長編もので文字を追っているだけで十分な理解が進まず、途中居眠りすること十数回。とりあえずゴールまでたどりついたというだけで読んだという実感にはほど遠く、お恥ずかしい限りです。

2年前にNHKのEテレで放映されたテキスト『100分de名著 アルベール・カミュ ペスト』を友人から貸してもらいました。今、リバイバル人気で店頭でもバックナンバーが売られていますね。こちらの方は中条省平氏(学習院大学教授)の解説が分かりやすい。まったく眠くならず一気に読みました。

北アフリカのある町が、突然、疫病禍に襲われる。人々はこの災厄を乗り越えることができるのか。不条理に反抗する人間のありようを描いた傑作小説『ペスト』の現代的意味を探る。それぞれの現実を見据え、生きる(100分de名著の表紙文)

当ブログではこれよりシリーズで何回になるかわかりませんが、降りかかる不条理に抗す思いで
不条理の哲学、作家カミュ、小説ペストに関して取り上げさせていただきます。
カテゴリを「コロナ」か「研究」かで迷いましたが、後者に区分します。


アダモの声にカミュ的な「反抗」を感じますね♪


 

ブルージーンと皮ジャンパー   アダモ
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教員免許更新制は廃止すべし

2020年09月09日 | 教育・文化
「教員免許更新つらかった」という学校の先生の声が新聞投書欄に載っていました。(毎日新聞みんなの広場2020/9/7)

教員の免許更新制どうなっているのか調べてみました。

免許状有効期間 10年
更新講習 必修&選択科目 30時間
講習個人費用 3万円



更新試験にパスしないと失職してしまう!!
これは精神的にもきついですね。


更新講習の受講資格は現職の場合、校長の証明書が必要

これもきつい、これでは校長には一切逆らえませんね。この管理強化も目的の一つなのでしょう。

この更新制度、第一次安倍内閣が教育再生をねらい起案し2009年4月から始まっているということです。その後、民主党政権になり見直す方向でしたが進展しないうちにまた安倍政権になってしまった。

これはどう見ても教育への公権力の支配介入・強化です
教員の生殺与奪権をお上にすっかり与えてしまったかのように思えます。

新聞投書の先生は中学の教員64歳。「いつもと逆の立場になって改めて生徒のつらい気持ちがよく分かった」さらには「年齢のせいか暗記力も低下していて、試験を受けるのが正直怖かった」と個人的な感想を述べ、特にこの更新制度の是非そのものには触れていなかった。

しかし私は改めてこんな制度が実施されていることに驚きました。今、教員の間でメンタル疾患者が増えているのもうなずけますね。更新制度がそれを助長しているのではありませんか。

やはりもう一度、本物の「政権交代」が必要です。この制度、即刻廃止のためにも。

今宵はチャックベリー先生と歌いましょう♪♪


【木工さんの写真】矢嶋秀一作 フォト 田口大輔



Chuck Berry "School Days"
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CD選書 憂歌団17/18オンス

2020年09月06日 | CD棚卸し
1年ぶりのCD棚卸し。

まだまだ猛暑が続いていますが終活作業の再開です。わが家に散在し眠っているCD、DVDのたぐいを整理しています。

きょうのCDは、憂歌団(ゆうかだん)のアルバムの一つ『17/18オンス』(ポニーキャニオン販売元)

憂歌団メンバーは木村充揮、島田和夫、花岡献治、内田勘太郎。

代表曲『おそうじオバチャン』『嫌んなった』など・・全17曲♪

ライブ感がマイナスに作用しているようにも。私が淡白になったせいなのかな。
コピーされているMIYOさんの『おそうじオバチャン』の方がいいな=動画

お下品な歌詞も女性ボーカルだとまた感じが変わりますね。

棚卸し判定は、Good bye!、廃棄します。



MIYO|おそうじオバチャン
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マイナポイント妙味なし

2020年09月04日 | 経済
今月1日から来年3月末までマイナポイントが始まりましたね。

「チャージした金額の25%分最大5000円」の意味がどうも分かりにくかったのですが、はっきりしました !


今回の事業の還元はわずかマックス5000円までの話なのです。

6月終了の「キャシュレス決済還元」事業の場合は、期間内に買い物をするたびに5%が戻りました。その感覚で行くと今回もチャージするごとに25%バックになるのかなと勝手に想像していましたがそうではありません。還元は後にも先にも5000円だけで終わり

その5000円をいただくのに、マイナンバーカード手続きから始まりスマホが未対応の場合はパソコン用のカードリーダーを用意することも。けっこう面倒な手間がいるようですね。

今、マイナンバーカード取得だけでも1カ月かかるという。


だめだ、こりゃ(笑)


もの好きな私も気力が失せました。




参考になった動画を掲示しておきます。
【木工さんの写真】矢嶋秀一作 フォト 田口大輔

【驚愕】マイナポイントの登録が面倒すぎる!!
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