ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

「教育×メタバース」で変われ!

2022年10月26日 | 教育・文化
「『社会資本家』は教育メタバースを発展させるために、トークンを買って応援します」

いったい何のことを話しているのだろうか?
『2040教育のミライ』(礒津政明著 実務教育出版 2022年7月発行)の一節です。
新しい用語がいくつもあり理解するのに時間を要し苦しみました。

思えば「ホームページ」「アプリ」「ダウンロード」「SNS」なども新語として最初に聞いたときは何のことだろうと思いましたが、今では多くの人が当然のように用いています。

前回のブログは1952年のメーデー事件を背負ってひたすら生きてきた「過去」からの巡歴にこだわりました。今日は時空を転じて「ミライ(未来)」2040年に向けてみようと思います。
諸外国が手を付けて日本が手を付けなかったOS、主要な機能、それが「教育」なのだと著者は言う。日本の教育の現状に進化見られない。著者の磯津(いそづ)氏はソニー・グローバルエデュケーション会長、1975年生まれ。

もし皆さんの子どもが勉強せずに毎日、家でゲーム・マンガ・YouTube三昧だったらどうしますか?
「ゲームが教育のメインコンテンツになる日」の一節では、家に帰ってランドセルを下すなりゲーム機に電源を入れ、ヘッドセットメッセンジャーで音声チャット、友達と協力プレイスタートする。
そんな現在の子どもは「自宅にいるようで、遊んでいる時間はメタバースや仮想空間の住人」であることが日常になっている。大人たちはこんなことをしていたら将来どうなるのか心配でたまらない。。
では「未来の大人」はどんな環境でどのような仕事を・・。著者の予想では「経済活動のほとんどがメタバースの中で完結する未来」だと。

教育の定義はテクノロジーの進化とともに広がっていく。ゲームやYouTube、マンガからの影響を特段に悲観することはない、むしろそれらから得た知識の発展も多くなるはず。

2040年といえば、18年後。今11歳の小学5年生が30歳くらいになって社会の中心力に成長している。Web3.0。

若者が選挙に行かないのは、日本の教育では自分たちが未来をつくるという自己効力感が育たないから、だと著者。学びの場も「教育×メタバース」では、何度でもやり直しのきく世界で新しい出会いからの学習が試され展開できる。自己効力感も湧き出るだろう、デジタルゲーム機の熱い操作での世界のように。

何となくイメージがつかめてきました。たぶんメタバースの活用は一般化するでしょう。井深大氏からの巡歴?「ソニー流教育のミライ」で2040年代、ポポロ(人びと)の教育価値観と教育環境の劇変で、より良い社会に近づくことに期待します。

冒頭の文章の用語説明です。
社会資本家」は社会問題を解決する事業に対して出資する投資家。
メタバース」metaverse はメタ(高次元)とユニバース(宇宙)の造語。ネット上の仮想空間で活動。
トークン」token は暗号資産(仮想通貨)などのデジタルマネー、代用通貨。

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【木工さんの写真】制作 矢嶋秀一  / フォト 田口大輔



ソニー流「学びの科学」で未来の教育はこんなに変わる!『2040 教育のミライ』礒津 政明 著(実務教育出版)
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一途なものからの逃走

2022年10月23日 | 研究・書籍
富士重工に勤務していた作家、黒井千次写真=の『五月巡歴』(1997年河出書房新社)を読みました。

久しぶりに主人公に感情移入ができ日本小説の繊細さを感じ取れる作品でした。

職場での「人事部御指名労働組合」(本文より)にあき足らない先鋭的な婦人部系女子社員たちと、本社人事部との対立に巻き込まれる主人公、館野杉人。

闘争的で一途な女子社員たちとは対照的に、群れから離れひたすら自由奔放で性的な元部下との不倫、情事。

主人公は40歳、1952年の血のメーデー事件に学生運動家として参加していた過去を持つ。その時逮捕され今も公判中の元学友には、証人になってほしいと依頼を受けている。しかし内心では、今は大学同級で同志的だった妻との間には2人の小学生の子があり、過去のことは忘れ去りたい気持ちが強い・・。その思いとは裏腹に事態がそれを許さず彼の闘争本能に無理やり火をつけようとする・・。

活動家だった過去の自分を伏せて会社生活を送っている場面は、島崎藤村の出自を隠して教師生活をしていた『破戒』の丑松(うしまつ)の心の動きにも似たものを感じさせられた。

黒井の作品が、「内向の文学」と言われるゆえんを早くも理解できた。

主人公の不倫を知った妻、美緒子の怒りの言葉がいい。

「貴方は嘘をついたわね。私をだましたわね。貴方は自分自身も裏切っているのよ。あの頃の貴方はどこに行ってしまったの。貴方の民主主義なんて誰が信じられるの!」民主主義とは何かと問うと、妻は叫ぶように言い放った。

私たちの民主主義よ。黄金の民主主義よ。学生時代も就職するときも結婚する時もそれがあったじゃない。世の中がどんどんおかしくなっても、まだ私たちのところにはそれがあったじゃない。でももう、貴方を守る民主主義なんて誰が信じられるの!





 

【偽りの心】Your Cheatin' Heart - Elvis Presley (1958)
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内向の世代作家、黒井千次

2022年10月14日 | 研究・書籍
むかし前橋市内にあった名曲の喫茶店「田園」・・♪

「一緒に会社をさぼった技術屋の仲間の中に、クラシック音楽のマニアがいた。流れてくる曲を聞きながら、シェーンベルクの『浄夜』だ、と曲名を教えてくれたことがいまだに鮮明に記憶に残っている。前橋に行くとしたら、街の中をかなりの水量と速度で走り抜ける広瀬川を見て『田園』に寄りたい、と思った。あの頃から半世紀以上も経っているのだから『田園』はもう残っていまい、と覚悟していた」と、黒井千次『漂う』の一節「前橋」から。

私も生まれ故郷の前橋には、さまざまな思い出と感情があります。なんの変哲もないような地方都市ではありますが、ゆったりした中にも少なからずの革新性と進取の気風を感じさせてくれる街です。

今では音楽喫茶の「田園」は姿を消しましたが、川沿を歩くと萩原朔太郎の記念館(前橋文学館)が建っています。

小説家、黒井千次は、「20代の数年を群馬県で過ごした。大学を卒業して就職したのが1955年。群馬県伊勢崎の工場に配属になり、太田の社員寮にはいって電車通勤することに決まった」(同書「前橋」)


黒井千次は東京生まれ。東京大学経済学部をを卒業し富士重工業で会社員生活を送った。1958年に『青い工場』を発表し当時、労働者作家として有望視される。だが1968年には退職されたようだ。上司から社業に専念できないものを雇い続けるつもりはない、といわれたとか。

ポポロ(人びと)の内面を精緻に描写する「内向の世代」の作家といわれる。あまりなじみのない作家でしたが、群馬の富士重工社員だったと聞き、にわかに親近感を覚えました。かなりの著書があります。アラカルト的に読んでいきたいと思います。




 


顔写真はウィキペディアから
動画は『浄められた夜』(淨夜)


Schoenberg "Verklärte Nacht" Karajan London Live 1988 シェーンベルク「浄められた夜」 カラヤン ロンドンライブ
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