今年は、松下政経塾1期生の野田佳彦が総理大臣になり、同塾及び、同塾創立者の松下幸之助への関心が一段と高まった年ともいえる。
10月に放映されたNHKの土曜ドラマ『神様の女房』では、妻の目からみた幸之助のサクセスストーリーを取り上げていた。財産もない、家もない、学問もない、ないないづくしの貧乏人がエレキ(電気)に取り付かれて、一歩一歩立身出世していく・・。幸之助は「人が働くことは社会に奉仕すること。奉仕と奉仕の交換で社会が成り立つ・・」と持論。そんな彼の理想社会を実現するための人材養成機関を松下政経塾には託したのだろう。
松下政経塾の「政経」は政治経済の意味でなく、国家経営のことだ。英名The Matsushita Institute of Government and Management に表れている。
松下村塾と松下政経塾
1979年、松下幸之助が私財70億円を供して創設。全寮・4年制。新しい国家経営を推進していく指導者の養成が目的。ネーミングからして幕末の志士、吉田松陰が主宰した「松下村塾」を連想させられる。
私も以前に一度、今は国指定史跡になっている「松下村塾」(しょうかそんじゅく)を訪れたことがある。山口県萩市の貧相な母屋のような一軒家であった。ここで下士(下級武士)の子弟達が学び尊攘派の拠点とした。きびしい幕府の弾圧のものに塾生たちは貧しくも理想に燃えていた。
時代も異なるので、単純比較は酷かもしれないが、松下政経塾の方は、しゃれた湘南の一角、神奈川県茅ヶ崎市にある。塾生たちへの研修費手当ては1年生が月20万円、2年次以降が25万円、他に年間100万円以上の活動資金が充てられる。塾生は、すでに国内の一流大学、さらには米国の大学院等を修了しているいわば“上士”(上級武士)たち、ハイクラス層の若者だ。そうした面からは、松下政経塾は一般の「大学院」のイメージではなくゴージャスな、しいて言うなら有給スーパー大学院といえるかもしれない。
第二保守政治家の輩出
発足当初、塾長は松下幸之助、副塾長には宮田義二(元鉄鋼労連委員長)を据えた。副塾長の宮田は、「今の自民党を一皮むきたいという気があるのです。第二保守党的なことになるんですね。そのために必要な政治家はここで、ぜひ作り上げようと」(評論家・山崎一三)
塾創設の理念を着々と実現したかのようにみえる松下政経塾。日本をとりまく現在の政治状況を果たして幸之助翁は、今どのような気持ちで見つめられれていることだろうか。
【写真】軍部からの無理な生産要請に苦悩する松下側(NHK「神様の女房」から)