ポポロ通信舎

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金鶴泳 『土の悲しみ』

2010年06月21日 | 研究・書籍
土の悲しみ―金鶴泳作品集〈2〉 (金鶴泳作品集 (2))
金 鶴泳
クレイン

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『凍える口』につづき『金鶴泳日記抄』、それから『土の悲しみ』も読んでみました。

主人公はT大生、李仁一(通称姓「松村」)の失恋物語。
「赤城山が間近くにみえる郷里の町に帰省・・」
「郷里の町から良く見える浅間山に登った・・」
作品の中では、群馬県新町にも言及されています。

題名の『土の悲しみ』の「土」は国土であり、民族、家族愛、夫婦愛のもろもろを指しているように感じる。なんともやるせない、もの悲しいラブストーリー。しかしこれがまた、ひとつの現実であることを、筆者も読み手も直視しなければならない。

ここ数日、彼の小説の中にすっかりのめり込んでしまいました。
小説は書き手は大変な労力が要りますが、読む通すのもかなりの時間を費やします。久々に小説を読んでいる実感を得ています。

高校2年の夏休みに、太宰治と芥川龍之介の小説を多数読み何かに触発された気持ちになり、しばらく食欲が無くなるほど厭世観に浸ったこととを思い出し苦笑しています。
私がこの年になって金鶴泳の秀作に出会えたのも、ここまで生きながらえていたからこそであります。作品を離れての感想ですが、彼には親の他に妻子もいた。父の経済力から独立して貧しくともしっかり生活基盤を打ち立てれば、まだまだ多くの作品を世に出せたと思うと残念でなりません。金鶴泳の他界後の韓国、北朝鮮の歴史の流れは、するどい彼の直観に沿うものです。「民族か、同化か、の択一の中で、“どちらでもない”考え方をしている在日の論者は(当時)一人もいなかった」(竹田青嗣・評)。それだけに超民族的とも思える彼の持ち味がさらに発揮できる時代が今、到来しているだけに。。

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金 鶴 泳(きんかくえい、キム・ハギョン)1938年群馬県新町生まれ。本名金廣正。1966年「凍える口」で文芸賞受賞。以降作家活動に入る。吃音者、在日朝鮮人二世という条件の中で、自らの感受性を支えに自己を凝視しつづけ独自の作品世界を築く。1985年に自死。享年46歳。
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