ポポロ通信舎

(旧・ポポロの広場)姿勢は低く、理想は高く。真理は常に少数から・・

【中学下宿記】(25) カレー、うまいかい?

2010年01月12日 | 中学生下宿放浪記
今度の下宿は、親しい級友、Y君のお母さんの紹介でした。
市之坪(現在の前橋市南町、一中区域)の一人暮らしの行商の
お婆さんが住む家。久しぶりにまた、お婆さんとの“同棲”です。

このお婆さんは、一体何歳位だったのだろう。細面の昔話に出て
きそうな「婆様」でした。日中は時々行商に出かけて留守になり
ます。文字の読み書きはできない、いわゆる文盲の人でした。
そのため私が、遠方にいるお婆さんの親族宛に、何回かお婆さんの
発する言葉通りに代筆して郵便物にし、差し出しました。

ここでは、私用の部屋はありましたが、前のような離れの独立した
一軒の小屋ではなく、一つ屋根の下なので、来訪者は減りました。

初日にカレーライスが、出たのです。
お婆さんは私の顔を覗き込むようにして、
「うまいかい?」と聞きます。
「うまい、うまいです~!!」
「そうかい、そうかい、うまいかい、うまいかい」

実は、翌日も食卓には同じようにカレーが用意されています。
昨日と同じように、
「うまいかい?」
「はい、うまいです」
「そうかい、そうかい、うまいかい、うまいかい」
ただ私の賞賛のトーンは少し落ちています。

そして3日目、またカレーです!
「うまいかい」と同じように聞きます。
「は、はい・・」
「そうかい、そうかい、うまいかい、うまいかい」

このお婆さんは、カレーライスしか作れないのだろうかと思いました。
私の記憶では、それから1週間以上カレーが続くのです。

志村けんの「だいじょうぶだぁ」のコントの一幕に出てきそうな
お婆さんとのやり取りでした。

ついに、たまらずこのことを紹介してくれたY君のお母さん
(以降、Yおばさんと略す)に相談に行きました。
そうしましたら何とYおばさんは、私が来ることを予期していて、
「実はお婆さんの方から先に、イチローくんの悪口を聞いたよ。
ご飯を出しても最初は喜んで食べてくれたのに、このところ、
むっつりしてよく食べないんだって。態度が悪くなったって」
「おばさん、それには理由があります。毎日、毎回カレーライスなのです。
もうさすがに食べられないですよ」

一応、Yおばさんは、私の言い分を聞いてくれたかのように思えました。
Yおばさんは、それなら他の家を紹介すると言ってくれ、同じ市之坪にある
別の家を一緒に下見に行きました。しかしそこは、階段下の空きスペースの
ような部屋?で、真っ暗。窓がなく圧迫されそうなところに見えました。
ここでは、息が苦しくなると思い、はっきり断りました。
Yおばさんは、断ったことに、ひどく気分を害していたように思います。

そのうち大泉から母がやって来たので、ことのすべてを話ました。
“カレー攻め”だけが、とりあえず問題なので、ここにきて多少引越し
にも疲れが出てきていた私は、「この下宿でもう少し頑張ってみる」と
母に話しました。
母は食事に関することなので、私の健康面をとても心配していました。

当時の日記には、「食事をきちんと取れなかった」と書かれているだけ。
今のようにコンビニがあれば心配ありませんが、たしか焼き芋とソーセ
ージを買って食べていたように思います。
中学校は弁当が基本でしたが、市之坪では、朝と夜はどのようにして
いたのか、カレーのことで、早くも気まずくなったことは確かなのです。
とにかく、毎回カレーライスが続いたことは強烈に記憶に残っています。

後に、私が家庭を持って、食卓にカレーライスが出たときは、子供たちに
コントのようなこの昔話を何回も聞かせました。私がその時のお婆さんを
真似て声帯模写入りで。「カレーだよ、そうかい、うまいかい、うまいかい、
あの時パパは本当に参ったよ・・」と。

「うまいかい」の語尾は尻上がりなのが特徴です。「カレーうまいかい↑」(笑)
ただ、あれだけ食べたカレーなのに、カレーは今でも嫌いになっていません。
好物だったものが、食べ過ぎがきっかけで嫌いになる事はよくあるようです。
ちなみに私の場合は、レンコンとチーズが食べ過ぎて嫌いになりました。
なぜか、カレーライスとは、いまだに相性が良いのは不思議です。。(つづく)


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コメント (4)
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