ポポロ通信舎

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【中学下宿記】(23) 下町での「15の夜」

2010年01月08日 | 中学生下宿放浪記

「野球人生が終わったら中学生の指導をしたいと決めています。
中学生の時期って一番すれていたり、反抗期だったりするからです。
そういう子供たちを育てたい」とは花巻東高校から今春西武入りを
する菊池雄星君の言葉、中学時期の大切さはとても同感です。

次の下宿H家は、天ぷらなどの揚げ物屋さんでした。
私には、お店正面、少し離れたコンクリートでできたバンガローの
ような4畳半の部屋を貸していただきました。ようやく一人で自由な
空間を得て、かなり気に入った部屋でした。隣りは広瀬川の流れの音。
テープレコーダーを聞こうがレコードをかけようが騒音にとやかく
いわれることはない快適な環境でした。

クラスの友人が次から次と遊びにやって来て、羨ましがられました。
「いいな~桂は一人で。おれもこんな暮らしがしてみたい。」
“下宿渡世人中学生”の辛い面を知らない友人は、毎晩のように
代わる代わるお泊まりに。中には
「おれはもう家になんか帰りたくない、学校もいやだ、ここに一緒に
住ませてくれないか」
それには驚きました。私には自分の家の方が自由だと思っていたのに。
それなら家がいやになったら泊まっていけ、とだけ話し慰めました。
この時の追い詰められた友人の気持ちは、私が30代になって尾崎豊の
ヒット曲「15の夜」を聞いた瞬間、あの頃を思い出しジーンとくる
ものがありました。
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♪・・とにかくもう学校や家には帰りたくない
自分の存在が何なのかさえ解からず震えている
15の夜ーー
盗んだバイクで走り出す行き先も解からぬまま
暗い夜の帳(とばり)の中へ
誰にも縛られたくないと 逃げ込んだこの夜に
自由になれた気がした15の夜ーー♪
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バイクに初めて乗ったのは、私も15の夜でした。
尾崎の歌のような盗んだバイクではありませんが、ある晩、友人が
やってきて「乗ってみな」と赤いバイクを貸してくれた。
クラッチの操作もいい加減に、2速(セコンド)のギアのままで、
ずーと乗っていたのではないかと思いますが、とても爽快でした。
前橋の夜の“悲しき街角”を思う存分に走り回りました。
wa wa wa wa wonder~ を口ずさみながら・・
そうです。
自由になれた気がした15の夜でした。

この下宿の周辺の景色は、前橋の典型的な人情のある下町でした。
ここでの生活では、なんともいろいろな人との出会いがありました。
今と違って品物ごとに、専門のお店が並んでいました。
深夜になると、人恋しくなった近くの肉屋に勤める住み込みの店員
さん(18歳位)もよく遊びに来ました。若くして亡くなった俳優の
赤木 圭一郎(1939-1961 21才没)の大ファンで、
「おれも圭一郎のようにカッコ良く死にたい」
などと言っていました。四角い顔をした優しくて良い兄貴分でした。
ある時は、包丁で切ったと手に包帯をぐるぐる巻きにして痛々しく
やって現れた事もあります。仕事で生傷の絶えない彼を見て、もし
私が住み込みで働くなら危険な肉屋より、刃物を使わない八百屋派
だな、と思いました。“肉屋の圭一郎”は私の狭い部屋で横になって
いるときが一番気が休まるとも。疲れている彼を見て、私の下宿生活
以上に「住み込み生活」も大変なのだろうなと思いました。

豆腐屋の息子(20歳)ともよく話をしました。
その頃、ソ連が50メガトンの核実験を発表したころで、豆腐屋の
兄貴とは、日本の防衛論争になりました。武力に訴えるのは良くない
という私に、豆腐屋の彼は
「もし人からオメー(お前)は殴られてもは黙ってんのか、
ヤラれたらヤリ返すだんべ?」
「うん」
「そういうことだよ。核も武力も絶対必要だ」
ヤリ返すことにはうなずいたが、力と力では最後は解決しない、と
いうと、その“豆腐兄貴”は、こぶしを振って今にも私に殴りかかって
きそうな気配になりました。怖くなって
「わかった!」
と叫んで、この“論争”は私の負けでした。

下宿のH家には食卓前にテレビがあります。弘田三枝子の元気な歌声や
FBI映画「アンタッチャブル」の記憶があります。
ただH家のおばさんは、戦争映画や戦闘シーンがあると必ず
「チャンネルを換えて!」
と大きな声で命じました。先の大戦では、前橋の人達も空襲の被害に
遭いました。きっとおばさんも苦労されたのでしょう。それだけに戦争は
絶対にいけない、もうあのような(戦争)体験は二度とこりごり、という
強い庶民的な反戦感情をおばさんの言動から見ることができました。
(つづく)

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 尾崎豊 - 15の夜

コメント (6)
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