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明智光秀の動機はいまだ謎である、と

2018-06-19 22:01:05 | 読書ノート
呉座勇一『陰謀の日本中世史』角川新書, KADOKAWA, 2018.

  ベストセラー『応仁の乱』に続く呉座先生の新著。歴史解釈の領域で時折現われてくる陰謀論を、実証研究と合理的な推論でいちいち論破してゆくという内容である。扱われるのは、平清盛の登場、源頼朝と義経の確執、鎌倉幕府のごたごた、建武の新政から室町幕府成立、日野富子、本能寺の変、徳川家康などである。

  陰謀論にはパターンがあるという。「結果から逆算した推測」というもので、最終的に得をした人物が敵を陥れるためにはかりごとを仕掛けたかのようにみなしてしまうのである。例えば、室町幕府の成立。足利尊氏が最初から野心に突き動かされて行動していたかのよう考えてしまうと、彼の行動はまるで一貫性がなく精神の病を抱えているかのように見える。このような解釈は合理的ではない。足利尊氏は「そもそも幕府を作る野心を持っていなかった」と考えればすべてつじつまがあう。室町幕府の設立は彼の当初からの目標ではなく、戦乱を経て結果的にそうなっただけであるのだ。

  本書では徳川家康の評価も変わる。家康が石田三成に挙兵させるためにわざわざ会津の上杉討伐に向かったという話は知っていた。フィクションで繰り返し描かれる「狸親父」のイメージのせいだろう。だが、大阪城で第一人者として政治をコントロールできていた人物が、一か八かの戦闘勝負に賭けるという、そんなリスクの高い選択をするわけがないと著者はいう。上杉討伐は家康の慢心が原因であり、石田三成の挙兵は想定外だった。ただし、危機が起こった後の対応において臨機応変で「敵よりミスが少なかった」点が、関ケ原における家康の勝因だという。
  
  というわけで相変わらず面白い。『一揆の原理』『戦争の日本中世史』で見られた「煽り」気味の主張を提示するのは避けられており、『応仁の乱』と同様の落ち着いた筆致となっている。歴史上の偉人たちはすべてを見通していたわけではなく、限られた情報と資源をもとに決断を積み重ねていき、それが歴史になっていった、著者が言いたいことはそういうことだろう。
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