先日29日、三田図書館・情報学会の研究大会のために慶應義塾大学に行ってきた。ただし、聴くだけの立場であり、お気楽な参加者にすぎない。今年の研究発表のうち、特に午後の最初のセッションの三つの発表はとても面白かったので、順に紹介しようと思う。
まず薬袋秀樹先生の「公共図書館の貸出が図書の販売に与える影響に関する議論の特徴」。パワポなしの原稿読み上げによる発表だったが、予稿に十分な記述があったのでよくわかった。出版社側の図書館批判をよく検討してみると、その主張の範囲はエンターテイメント小説の貸出に限られているという。しかしながら、図書館関係者側──松岡要、常与田良、田井郁久雄の三人が俎上に載せられている──による反論は問題を書籍一般に拡大しており、回答にズレがある。そして、小説に限れば、諸調査は「図書館による売上への影響を小さく見積もってもよい」という考えを必ずしも肯定するものではないことを示唆している、と。なるほど、これについては僕も挙げられた三氏と似たような現状認識(処方箋は別として)だったので、提起された問題をきちんと受け止めたい。
その次が安形輝先生ほかの「日本の公立図書館におけるマンガの所蔵状況」(これは焼肉図書館研究会案件ではない。念のため)。これはマンガは図書館に所蔵されているか、また所蔵されているのはどのようなマンガなのかについて、日本全国の図書館所蔵を調べた研究である。出版点数に比してマンガはあまり所蔵されていないという結果は予想できたことだが、「所蔵されているマンガは判型A5判の大人を対象としたものが多い」というのは意外だった。特に、ストーリーものではなく、小林よしのりや西原理恵子といったエッセイ系が相対的に多く所蔵されているとのこと。手塚治虫ではなかったのか。ちなみにもっとも多く所蔵されていた著者は"バラエティアートワークス"だという。知ってる?名著を漫画化した文庫版「まんがで読破シリーズ」のプロダクションといった方がよくわかるかもしれない。
三組めが上田修一先生の「大人も本をよまなくなったのか:1979年の2016年の調査の比較」。2016年のオリジナルの調査と、1979年の内閣府による調査を比較して、20歳以上の大人も読書しなくなっているのかについて検討している。読書冊数や読書の中身にはこだわらず、読者/不読者数をカウントして比較しているが、意外にも2016年において読者の割合は減っていないという結果となった。1979年の年齢階層別のデータは、年齢が上がるにつれて不読者となる傾向があることを示している。だが、2016年のデータでは50歳以下の各グループは軒並み読者率40%を示しており、以前にあった傾向は見られないという。「昔の大人がよく読んでいた」という一般に流布したそもそものイメージが幻想ではないか、という会場からの指摘も含めてなかなか啓発的だった。
以上。なお、同じセッションの最後の発表、筑波大の大学院生・松山麻珠氏の「表示媒体とインタラクションの組み合わせが誤りを探す読みに与える影響」はベストプレゼンテーション賞に選ばれている。あと、西川和先生が論文「英米における西洋古典籍の総合目録の作成規則の変遷とその理由」を理由に学会賞を受賞しているのだが、所属大学の営業がてら彼の所属を「慶應義塾大学大学院」ではなく敢えて文教大学非常勤講師と記したい。
まず薬袋秀樹先生の「公共図書館の貸出が図書の販売に与える影響に関する議論の特徴」。パワポなしの原稿読み上げによる発表だったが、予稿に十分な記述があったのでよくわかった。出版社側の図書館批判をよく検討してみると、その主張の範囲はエンターテイメント小説の貸出に限られているという。しかしながら、図書館関係者側──松岡要、常与田良、田井郁久雄の三人が俎上に載せられている──による反論は問題を書籍一般に拡大しており、回答にズレがある。そして、小説に限れば、諸調査は「図書館による売上への影響を小さく見積もってもよい」という考えを必ずしも肯定するものではないことを示唆している、と。なるほど、これについては僕も挙げられた三氏と似たような現状認識(処方箋は別として)だったので、提起された問題をきちんと受け止めたい。
その次が安形輝先生ほかの「日本の公立図書館におけるマンガの所蔵状況」(これは焼肉図書館研究会案件ではない。念のため)。これはマンガは図書館に所蔵されているか、また所蔵されているのはどのようなマンガなのかについて、日本全国の図書館所蔵を調べた研究である。出版点数に比してマンガはあまり所蔵されていないという結果は予想できたことだが、「所蔵されているマンガは判型A5判の大人を対象としたものが多い」というのは意外だった。特に、ストーリーものではなく、小林よしのりや西原理恵子といったエッセイ系が相対的に多く所蔵されているとのこと。手塚治虫ではなかったのか。ちなみにもっとも多く所蔵されていた著者は"バラエティアートワークス"だという。知ってる?名著を漫画化した文庫版「まんがで読破シリーズ」のプロダクションといった方がよくわかるかもしれない。
三組めが上田修一先生の「大人も本をよまなくなったのか:1979年の2016年の調査の比較」。2016年のオリジナルの調査と、1979年の内閣府による調査を比較して、20歳以上の大人も読書しなくなっているのかについて検討している。読書冊数や読書の中身にはこだわらず、読者/不読者数をカウントして比較しているが、意外にも2016年において読者の割合は減っていないという結果となった。1979年の年齢階層別のデータは、年齢が上がるにつれて不読者となる傾向があることを示している。だが、2016年のデータでは50歳以下の各グループは軒並み読者率40%を示しており、以前にあった傾向は見られないという。「昔の大人がよく読んでいた」という一般に流布したそもそものイメージが幻想ではないか、という会場からの指摘も含めてなかなか啓発的だった。
以上。なお、同じセッションの最後の発表、筑波大の大学院生・松山麻珠氏の「表示媒体とインタラクションの組み合わせが誤りを探す読みに与える影響」はベストプレゼンテーション賞に選ばれている。あと、西川和先生が論文「英米における西洋古典籍の総合目録の作成規則の変遷とその理由」を理由に学会賞を受賞しているのだが、所属大学の営業がてら彼の所属を「慶應義塾大学大学院」ではなく敢えて文教大学非常勤講師と記したい。