高須次郎『出版権をめぐる攻防:二〇一四年著作権法改正と出版の危機』論創社, 2023.
2014年の著作権法改正で「出版権」の範囲が拡大し、(権利者の許諾によって)出版社にも認められるようになった。本書は、この改正に至るまでの大手出版社と小出版社、著作権者、文科省、国会議員間の駆け引きを描いたものである。著者は『出版の崩壊とアマゾン』の人。著者自身も改正著作権法の議論の当事者である。
2014年改正以前の著作権法においては、インターネット上に流布された海賊版を廃するのに、出版社は訴える根拠を有していなかった。電子的複製の海賊版に対抗できる権利は著作権者に帰属しており、権利者の管轄だったからだ。しかし、日本の著作権者すなわち著作者は、権利保護に割く時間もエネルギーもないことが多く、また海外の動向に弱い。このため、紙の書籍のスキャン画像の違法アップロードが放置されたままとなり、紙版の売上にダメージを与える可能性がある。このことが出版社の間で危惧され、出版社自身で対抗措置をとることができる権利が求められた。
きっかけは2000年代末のグーグルによる書籍の電子化プロジェクトである。無許諾のままグーグルに全スキャンされた書籍に対して、出版社としての利害を主張しようにも、出版社は法的に権利者ではなく「和解」案の中にも入れない、という状態だった。また当時、取引条件のよろしくないアマゾンが電子書籍のプラットフォームを握りつつあり、出版社側がアマゾンに対抗できる権利を持つ必要性も認識されていた。
上のような背景から、国の後押しによって関係団体による協議が行われことになる。その過程で、著作権者と出版社の間、また大手出版社と小出版社の間で利害の対立があらわになってくる。著作権者はもともとあった権利を出版社に譲りたくないし、大手出版社は小出版社に対する優位を失いたくない。後者の関係は分かりにくいかもしれないが、もともとは小出版社発行であった著作物を大手出版社が文庫シリーズに加えたいとき、出版権が設定されていると面倒な許諾が必要になってしまうからである。このように、関係団体間で齟齬もあったが、なんとかまとめられたのが2014年の改正著作権法ということになる。小出版社として(そして大手出版社にとっても)100%満足できるものでもないが、出版権は設定された。ようやく出版社として電子出版の世界に乗り出す準備が整えられた。
以上が話の要点である。電子出版における出版社の権利という当初の目的が、各種団体・論者の利害によって微妙に歪められてゆくさまが描かれている。論点も微妙に変化してゆくため、理解が追い付かなくなる箇所もある。というわけで読みやすいとはいえないものの、この間の議論の行方を丹念に記録した貴重なドキュメントだろう。
2014年の著作権法改正で「出版権」の範囲が拡大し、(権利者の許諾によって)出版社にも認められるようになった。本書は、この改正に至るまでの大手出版社と小出版社、著作権者、文科省、国会議員間の駆け引きを描いたものである。著者は『出版の崩壊とアマゾン』の人。著者自身も改正著作権法の議論の当事者である。
2014年改正以前の著作権法においては、インターネット上に流布された海賊版を廃するのに、出版社は訴える根拠を有していなかった。電子的複製の海賊版に対抗できる権利は著作権者に帰属しており、権利者の管轄だったからだ。しかし、日本の著作権者すなわち著作者は、権利保護に割く時間もエネルギーもないことが多く、また海外の動向に弱い。このため、紙の書籍のスキャン画像の違法アップロードが放置されたままとなり、紙版の売上にダメージを与える可能性がある。このことが出版社の間で危惧され、出版社自身で対抗措置をとることができる権利が求められた。
きっかけは2000年代末のグーグルによる書籍の電子化プロジェクトである。無許諾のままグーグルに全スキャンされた書籍に対して、出版社としての利害を主張しようにも、出版社は法的に権利者ではなく「和解」案の中にも入れない、という状態だった。また当時、取引条件のよろしくないアマゾンが電子書籍のプラットフォームを握りつつあり、出版社側がアマゾンに対抗できる権利を持つ必要性も認識されていた。
上のような背景から、国の後押しによって関係団体による協議が行われことになる。その過程で、著作権者と出版社の間、また大手出版社と小出版社の間で利害の対立があらわになってくる。著作権者はもともとあった権利を出版社に譲りたくないし、大手出版社は小出版社に対する優位を失いたくない。後者の関係は分かりにくいかもしれないが、もともとは小出版社発行であった著作物を大手出版社が文庫シリーズに加えたいとき、出版権が設定されていると面倒な許諾が必要になってしまうからである。このように、関係団体間で齟齬もあったが、なんとかまとめられたのが2014年の改正著作権法ということになる。小出版社として(そして大手出版社にとっても)100%満足できるものでもないが、出版権は設定された。ようやく出版社として電子出版の世界に乗り出す準備が整えられた。
以上が話の要点である。電子出版における出版社の権利という当初の目的が、各種団体・論者の利害によって微妙に歪められてゆくさまが描かれている。論点も微妙に変化してゆくため、理解が追い付かなくなる箇所もある。というわけで読みやすいとはいえないものの、この間の議論の行方を丹念に記録した貴重なドキュメントだろう。