29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

レディヘ曲の改作曲より、Jonny Greenwoodの演奏に注目

2014-10-31 19:14:17 | 音盤ノート
Steve Reich "Radio Rewrite" Nonesuch, 2014.

  現代音楽。米国の作曲家スティーヴ・ライヒの新録音で、旧作の新録二曲と新作一曲という構成となっている。

  初の録音となる'Radio Rewrite'(2012)はRadioheadの'Everything In Its Right Place'と'Jigsaw Falling Into Pieces'を改変した五楽章の作品である。しかし、レディヘファンはあまり期待していはいけない。主に参照されているのはコード進行である。メロディは分割されており、ときおり「らしい」フレーズが顔を出すぐらい。使用楽器やアンサンブル形態も、徹底的にいつもの(ここ10年くらいパターン化している)コテコテのライヒ節作品である。響きや音色の新しさを求めるポップの世界と、楽曲の構造を重視する芸術音楽はやはり違う。ただし、現代音楽の中ではかなり聴きやすい部類ではある。

  旧作の新録音の一つは、'Six Pianos'をカウンターポイントものに編曲し直した'Piano Counterpoint'。Vicky Chowというカナダ人ピアニストが8パート分をオーバーダブして演奏している。'Six Pianos'を聴いたことがあるならば、あの曲の別の表情が浮かび上がってきて興味深いはず。ただし、録音においてメインの旋律の音を大きくし過ぎているところは好みがわかれるかもしれない。音を線的に辿りやすくなったけれども、混沌とした音の中から突然主旋律が浮かび上がってくるという原曲の面白さは失われてしまっている。

  新録音のもう一つは'Electric Counterpoint’で、個人的にはこのアルバムの中で白眉であった。これをレディヘのJonny Greenwoodが演奏するのだが、Pat Metheny版(参考)の丸みを帯びたマイルドなタッチとまったく異なる、硬質で音の減衰時間の少ない響きがとても素晴らしい。楽器の機種もあるのだろう。いかにも「ただただ思い切って弦をはじいています」という、繊細さゼロの荒い響きが「ロックギター」を感じさせて味わい深い。正直に言ってかなり好きだ。ただし、この面白さはメセニーの演奏を聴いているからこそわかるものなのだが。

  というわけで、過去のライヒ録音を聴いている人にはあれこれ突っ込みどころがあって楽しめると思う。レディヘからライヒに入ろうという人に力強く推薦できるという感じではない。

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競争的環境に置かれた人間の生理と心理

2014-10-29 16:58:09 | 読書ノート
ポー・ブロンソン, アシュリー・メリーマン『競争の科学:賢く戦い、結果を出す』児島修訳, 実務教育出版, 2014.

  競争に対する生理的・心理的対応の科学の一般書、とした方が正確か。競争の適切な制度設計など社会学や経済学系のトピック以前の、それらの土台となる基礎的な人間生理を問題としている。著者は『間違いだらけの子育て』(参考)のコンビ。原書タイトルは"Top Dog"で2013年の出版。

  まずは、競争によって参加する個人のパフォーマンスは上るのか、という問題の答えだが、これが性格タイプによって良い方にも悪い方にも変わるという。およそ競争参加者のうち50%は成績を向上させ、25%は変わらず、残り25%はストレスで成績を下げるという。ただし、競争のストレスに弱いタイプも、勝負の回数を増やせばそれに慣れてゆき、最終的にはストレスに強いタイプに勝るようになるとも。ついでに、ストレスに弱いタイプが負けやすい一発勝負型の入試などはよろしくないとも加える。この他、「攻撃的」とされるテストステロンが実は自己評価を高めるために協力行動を促すこと、男はリスクテイクにおいて楽観的すぎる一方女性はリスクの見積もりが正確であること、ポジティヴシンキングは特に競争に有利な結果をもたらさず反省的な思考のほうが適切なこと、役割分担を明確にしたヒエラルヒーのあるチームの方が平等なチームより機能すること、スポーツにおける公正な競争が公正な民主主義を促すこと、などなどを論じている。

  競争的環境は25%の人々のパフォーマンスを下げる。ならば競争が無い方が良いのかというとそうではなく、競争を好む層が抜けてしまって結局は集団全体のパフォーマンスが下がってしまうという。では良い競争制度を設計する必要があるということになるが、本書には制度については明確に答えない。しかしヒントは与えてくれている。あと、邦訳に参考文献リストが無いのはマイナスポイント。引用された学者の主張が裏付けるがあるものなのか単なる自説なのかはっきりしない箇所がけっこうあったので。
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英シェフィールドについての勝手なイメージを植付けたバンド

2014-10-27 22:44:48 | 音盤ノート
Cabaret Voltaire "The Original Sound of Sheffield '83/'87 : Best of" Virgin, 2001.

  ロック。キャバレー・ボルテールと言えば1970年代後半から80年代初頭にかけての音響実験的なインダストリアル作品が代表作としてよく紹介される。しかし、その後のキャリアも長く1982年頃からEBM化して徐々にハウスユニットのようになって1994年になるまで活動していた。ただ、僕が洋楽を聴き始めた1980年代半ばにはもう創造的な時期が過ぎたグループとしてメディアに扱われていたように記憶する。これは、彼らの活動中期となる1983年のアルバム"The Crackdown"から1987年の"CODE"までの時期の12インチシングル集である。

  1980年代半ばのダンスフロア向けの打ち込みサウンドであり、古さもある。しかし、収録曲は12インチ対応の曲作りがなされており、反復ビートの単調かつ長尺の曲展開に様々なサンプリング音やらテープコラージュが挟まれ、飽きさせない。あと、ボーカルラインは冷徹な語り掛けのようで甘く流れないところも、今聴いてみてダサくは感じさせないところである。ハイライトは'Sensoria'で、確かWarp Recordsの創業者(?)がシェフィールドを代表する名曲だと推していたのをドキュメンタリー映画"Made In Sheffield"で観た記憶がある。原発やら廃工場やらを映したPVもなかなかスタイリッシュで、Youtubeで観賞できるみたいだ。

  ベスト盤ではあるがヴァージョン違いということもあって収録曲はオリジナルアルバムと重ならない。個人的には、この時期の彼らはこのベスト盤で十分だと考えているが、AllmusicGuideなんかを見ると初期もこの時期もあまり評価が変わらなかったりして意外である。なお、昨年末この1980年代中期のオリジナルアルバム3作がリマスターされて再発されていた。

  彼らについては特に好んで聴いていたわけではないが、昨日の学会の講演会で、恩師のT先生が1980年代半ばにシェフィールドに留学していたことをそのとき初めて知って思い出した次第。Human Leagueの出身地でもありWarpの創業地でもあるので、僕の中では電子音楽系の英国の拠点かのようにイメージしていた。冷たいインテリジェントな音楽を作る伝統があるというような。が、現地では全然そんなことはないようで、前任校でもシェフィールド出身だというネイティブの英語の先生がいたが、その彼がまず思い浮かべたのはメタルのDef Leppardで、キャバレーボルテールなんか知らねえとのことだった。今だとArctic Monkeysになるのか。
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無邪気な少年たちによる純粋培養のネオアコ

2014-10-24 15:07:26 | 音盤ノート
The Deddingtons "The Deddingtons" Cloudberry, 2012.

  ロック。ネオアコ/ギタポのカテゴリの真ん中に収まる音である。ボーカルは非常に柔和で、男臭さは感じさせない。かといって女性的というわけでもなく、「少年」的と形容するほかない。ギターもエフェクトをかけずに、綺麗にコードストロークやアルペジオを聴かせる。攻撃性はゼロ。またスミスのような屈折感がなく、C86の連中のようにヘロヘロしていない。汚れを知らない真っ直ぐなギターポップで、異性を知る前の無邪気な少年たちの姿が思い浮かぶ。聴き手の郷愁を誘う好演である。

  20年前の宅録インディーズ作品ということになるが、音質にはまったく問題が無い。録音はDATで8トラック使って行われたらしく、ギターとボーカルがオーバーダブされ、曲によってはリコーダーやチェロも加えられている。一曲だけキュアーのような曲(track.4)があるが、それだけ異色。他の曲の感触はスミスの"William, It Was Really Nothing"(参考)に近い。歌いまわしもモリッシーみたいになることがしばしば。冒頭の'Who I Want to Be'(メンバーのインタビューでは曲名が'Naively'とされている1))の下敷きも、キュアー('Just Like Heaven')であることは明らかだが、きちんとスミス風に処理されている。

  バンドのプロフィールは明らかでなく、謎だらけである。1990年代前半に英国ノッティンガムで短期間活動してすぐ解散したとのことだが、収録曲の録音年の記述がまったく無し。シングルすら発表された形跡が無く、最初にこのバンドを発掘してきた"The Sound of Leamington Spa Vol. 3"のコンパイラーはいったいどうやって音源を入手したのか。また録音状態が良すぎるし、楽曲の完成度も素人にしては高い。録音年を明記しなかったのは後から手を加えたからではないか?そもそもバンドが本当に存在したのか?YoutubeのPVで見られる少年たちはダミーだろ?といろいろ勘ぐってしまうほどのクオリティである。廃盤状態なのがもったいない。

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1) The Deddingtons Interview With Chris Morgan and Chris King / Tending The Pale Bloom
  http://palebloomsandbeyond.wordpress.com/2011/04/04/the-deddingtons-interview-with-chris-morgan-and-chris-king/
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あらためて容姿は重要だと説く身も蓋もない心理学書籍

2014-10-22 13:48:16 | 読書ノート
越智啓太『美人の正体:外見的魅力をめぐる心理学』実務教育出版, 2013.

  副題の通りで、容姿に関する諸研究を一般向けに噛み砕いて説明したものである。トピックを次にいくつか挙げよう。容姿の効果は持続的で「美人は三日で飽きる」なんてことはなく、また容姿が魅力的であれば性格も良い可能性が高く、加えて頭も良い可能性が高い。後者の原因は周囲の期待からくるピグマリオン効果である。他に、カップル同士は最終的に容姿が釣り合うようになることとその理由。これら以外の大半は魅力の定義の話で、ウェストヒップ比や平均顔などについて、統計データと進化心理学を使って説明するというもの。

  個人的には、魅力の定義についてのトピックは、進化心理学系の書籍を通じてすでに知っている説が多かった。一方で、それ以外の、容姿の効果についてのトピックは興味深かった。しかし、もう少し説明が欲しいところもあった。例えばセルフモニタリング傾向の高い人物はパートナーの容姿を高く望みがちということだが、その理由は他人の視線を気にするからだという。うーん、他人の視線を気にするタイプだからこそ身の丈にあったパートナーを望むという説明方法も可能なのだから、説得力に欠ける。こういう統計的有意差を説明する論理に十分な合理性がない印象である。

  ともあれ、下世話なテーマを科学的に料理する書籍の最初の一冊としては、読んでいて飽きのこない分かりやすいものとなっている。ただし、平均的な容姿かそれ以下の人にとってはいらいらするような事実(「バストの大きいウェイトレスはチップを多くもらえる」等)ばかりで、読んで救われるようなことは無い。覚悟して読もう。
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説得術のマニュアル。その方法は140個もある

2014-10-20 18:53:50 | 読書ノート
Susan Weinschenk『説得とヤル気の科学:最新心理学研究が解き明かす「その気にさせる」メカニズム』武舎広幸, 武舎るみ訳, オライリー・ジャパン, 2014.

  他人をやる気にさせたり、合意を引き出したりするための方法集。科学啓蒙書のようなタイトルだが、理論や実証研究の説明は最小限で、どちらかと言えばマニュアルである。内容は、チャルディーニ(参考)、カーネマン(参考)、アイエンガー(参考)、チクセントミハイ等に負っている。もちろん邦訳されていない科学研究への言及も多い。原著タイトルは"How To Get People To Do Stuff"で、2013年に出版されている。

  個人的には、相手から別のアイデンティティを引き出す戦略(第4章)や、熟達願望を刺激してその気にさせる戦略(第8章)が面白かった。前者は、相手に自身の自己イメージの枠内にある小さな部分を思い起こさせて、一貫性のある自己像を保たせつつその部分を概念的に拡大して再解釈させ、新たな行動を引き出すという高等テクニックである。後者は、報酬が金銭ではなく熟達願望そのものになるよう仕向ける方法についてだが、その気にさせた相手のモチベーションを維持させるために行う、説得者の反応を返すタイミングと言葉遣いがとても繊細であり、少々難しそうだ。

  全体としては気楽に使えるようなテクニックはごくわずかで、注意深く相手を観察して戦略を決め、よく考えて説得するという、多大な時間的関与や労力を要求するものが多い。実際に役に立つだろうが、時間やエネルギー面でのコストもかかるから、リターンをよく見極めて用いる必要があるだろう。あと、オライリーってプログラミングの専門の出版社だと思っていたけれど、こういう一般書籍も出しているのね。
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妊娠・出産に関する常識の読みやすい研究レビュー

2014-10-17 13:53:25 | 読書ノート
エミリー・オスター『お医者さんは教えてくれない妊娠・出産の常識ウソ・ホント』土方 奈美訳, 東洋経済新報, 2014.

  タイトル通り。経済学者である著者が、世間や医者が示す妊娠・出産にまつわる諸言説のの正しさ検証するべく関連する研究論文を漁って、客観的な状況はこう(たいていは「○○のリスクは○○○分の一」という形で示される)だと教えてくれる内容である。原著タイトルは"Expecting Better"。なお、この邦訳版は分娩時の麻酔などについて省略した抄訳である。

  内容は、妊娠中にどれくらい酒やコーヒーを摂取してよいかや、運動したほうがよいのか安静にしていたほうがよいのか、適切な体重管理、出生前診断や誘発分娩のリスクなどなどである。P126の「魚の許容度マトリックス」は魚をよく食べる日本人なら見ておいたほうがいいもので、水銀含有量とDHAの多寡で魚を分類した四象限の図となっている。それによれば、鮭やニシン・イワシはDHAが多くて水銀が少なくおすすめであり、ツナ缶はDHAが少なく水銀が多いので避けたほうがよいとのこと。ただし、毎日食べるわけでないならば神経質になる必要はないようだが。

  基本は研究レビューなのでサイモン・シンの『代替医療のトリック』(参考)の印象に近い。だが、あそこまで堅くはなく、著者自身が妊娠して女児を産んだ直近の経験を織り交ぜて記述していることもあって読みやすい。東洋経済新報社なのでたぶん『ヤバい妊娠・出産』というタイトルも考えたと想像するが、結局はソフトカバーの白とピンクを基調としたデザインとなって完全に女性向けにマーケティングされている。男性は手にとりにくいかも。
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グリッチ音が背後で聴こえるジャジーなハウス

2014-10-15 11:02:37 | 音盤ノート
Herbert "Bodily Functions" Studio !K7, 2001.

  エレクトロニカ。ムーディな打ち込み音をバックに女性ボーカルがけだるく歌うという、ジャジーな雰囲気のあるハウスである。Herbertは英国人ミュージシャンのMatthew Herbertの名義の一つ。シンセサイザーのプリセット音を嫌うという情報とミュージック・コンクレートからの影響という情報があったので、一曲がサンプリング音だけで構築されているのかと思いきや、そんなことは無かった。普通にピアノやベースなど様々な楽器の音が入る。シンセ音も。一応使用した楽器とサンプル音の元ネタが内ジャケットに印刷されているが、僕の老眼には字が細かすぎて読めない。

  どの曲もグリッチ音を散りばめながら緩めのテンポで進行する。しかし音色に関する実験は隠し味的で、全体としてはハウス的なリズムと女性ボーカルの旋律が印象に残るマイルドで聴きやすい作品と言える。特に'It's Only'を筆頭に良曲を擁した前半はとても良い。が、後半は、最後の'The Audience'を除くと、音の空白が多くなってちと退屈である。CD目いっぱいの72分収録する必要は無かったと思う。このパターンは前作にあたる"Around the House"(Phonography, 1998)でもそうだった。もしかしたら、本人は後半のこの隙間の多い音を聴いてほしいのだろうか。

  ネット情報だと評価が高すぎて何か前衛的なことをやっているかのように身構えてしまうが、普通に良質なジャズとハウスの混交音楽として聴ける。なお本作は2012年にAccidentalからリミックス曲など含めた二枚組十周年記念盤が発行されている。
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トリオ演奏だと軽く、カルテット演奏だと重く感じられる

2014-10-13 21:06:57 | 音盤ノート
Marcin Wasilewski Trio with Joakim Milder "Spark of Life" ECM, 2014.

  ジャズ。Wasilewski Trio名義の新作としては3年振り(参考)だが、今年はJacob Young作の客演(参考)としてすでにCDを出していた。本作にはいつものトリオにテナーサックスとしてJoakim Milderなるスウェーデン人奏者が加わっている。ECMには「ピアノトリオで数枚出したら編成に管楽器を加える」という規則でもあるのか。Tord GustavsenやJulia Hülsmannがこのパターンである。

  ただしサックスが参加しているのは全11曲中5曲だけ。予想される通りJan Garbarek系の、ロングトーンでトリオ演奏に味付けする程度の添え方で、激しいソロを期待するようなものではない。とはいえサックスの導入によって、このトリオに無かったヘヴィネスを付け加えることができており、奥行が増したように思う。テンポの速い曲におけるヴァシレフスキのソロはやや問題で、予想の範囲内というか、いまひとつスリリングに展開してくれない。これは前作でも薄々感じていたことだ。しかしながら、スローな曲におけるソロのリリカルさは相変わらずで、粉雪が舞うような弱いタッチは実に素晴らしい。

  オリジナル曲ほかKomeda, Sting, Hancockらの曲を採りあげているが、今回は自作曲の方が良いと思う。映画『ローズマリーの赤ちゃん』からの'Sleep Safe and Warm’はなかなかで、これはカルテット演奏。トリオによる'Message in a Bottle’はサビメロを再現しない編曲でちょっと懲り過ぎ。原曲がファンクである'Actual Proof'は、ピアノトリオでよく頑張ったという水準の演奏ではあるが、やはり原曲のほうが面白い。一方で自作の最初と最後の曲は琴線に触れる演奏で、とても叙情的である。トリオ演奏だと軽く、カルテット演奏だと重く感じられるのだが、後者に比べて前者の演奏にやや出来不出来が感じられる。とはいえ、全体的には優れたヨーロッパジャズであると評価できよう。
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字数制限のある文芸時評限定の「書評」論

2014-10-10 21:51:54 | 読書ノート
豊崎由美『ニッポンの書評』光文社新書, 光文社, 2011.

  大上段に構えたタイトルだが、扱っている範囲は日本にある書評のごく一部、文芸時評だけである。評価のためのスキルや方法が体系化されていないのは、対象がフィクションだからであろう。全体として説得力の無さを熱意でカバーしているような印象だった。そういうわけで内容に「共感」できるかどうかが問題である。個人的には、著者が良い書評として挙げる例文も特に良いと思わなかった。

  他にも同意できない点はいくつかある。まず著者は、読み手に届くように書籍を後押してやるのが役目だという。だが、僕が書評に期待するのは、全体を読む価値があるのか、またポイントとなる点はどこかできるだけ冷静に教示してくれることである。つまらない本に対して沈黙するのではなく、きちんと酷評してくれるほうが、僕にとってはありがたい書評家だ。その方がこちらは無駄な読書をしなくて済む。そういう点で、褒め書評しかしないプロの書評家よりもネットの匿名書評家の方がありがたいときもある。ネットのそれは玉石混交という話は百も承知。また、「その人にしか書けない」という書評を著者は称えるのだが、僕としては書評家の個性はあってもなくてもどっちでもいい。内容や評価を正確に伝える書評かどうかが第一に優先されるべきことで、それを損なう個性は不要だし、そこをクリアしているならば個性的であってもいい。

  やはりこのタイトルだったら、ノンフィクション系の書籍、特にモノグラフを基本に据えて論じるべきだったと思う。文芸時評は特殊だからである。モノグラフの場合、似たようなテーマの既刊書籍と比べた場合の、対象書籍のオリジナリティの判定が求められる。そして、そうした判定は読書経験を積み重ねればある程度可能である。新聞書評でもモノグラフを専門家に担当させるのはそういう理由だろう。一方で文芸時評は評者の文才と鑑識眼を問う「芸」であり、地道なトレーニングの積み重ねで到達できる境地ではないように思われる。いや、文学作品だって書評ならば本来優先されるべきは関連書籍との比較(どう範囲を採るかが問題だが)だろう。結局、思い付きによる名人芸が「書評」と堂々と銘打たれてしまうところに日本の書評の問題があると感じる。
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