29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

平等社会の短所と長所を指摘して、それらすべてを受容れる

2012-04-30 13:25:09 | 読書ノート
トクヴィル『アメリカのデモクラシー』松本礼二訳, 岩波文庫, 岩波書店, 2005-2008.

 19世紀前半のフランス貴族によるアメリカ合衆国の社会についての哲学的エッセイ。原著第一巻は1835年、第二巻は1840年の発行である。第一巻にあたる部分はエピソードが具体的で面白いが、第二巻は抽象的になり読むのがやや辛い。

 平等社会がどのような気風をうむのかについての考察は鋭い。しかし、古典なので、新情報満載のページを興味をもって読み進めるというわけにはいかない。積読を繰り返していたので、僕も読了するのに5年かかった。現在のアメリカ社会を答えとしながら、当たっているところと外れているところを考えてゆくことでなんとか読み終えることができた次第。

 邦訳は、井伊玄太郎訳で講談社学術文庫から『アメリカの民主政治』というタイトルですでにある。だが、評判によれば、この岩波版の訳ほうが日本語としてこなれているようである。岩波訳がわかりやすいということは珍しいことである。
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流浪のベーシストによる孤独かつ虚無的な四重奏

2012-04-27 11:41:20 | 音盤ノート
Gary Peacock "Voices" CBS/Sony, 1971.

  ジャズ。ピーコックが日本に滞在していた頃の録音で、菊地雅章・富樫雅彦・村上寛がサイドメンである。ベースとピアノに打楽器二台という編成だが、打楽器隊は控え目で基本ピアノトリオである。「ところどころ激しくなるけれども熱くはならないクールな新主流派ジャズ」というのが適切な表現となるだろう。

  全曲ピーコックのオリジナルで、直前までやっていたはずのフリージャズの面影の少ない、割とまとまった曲ばかりである。最初の‘Ishi’は、ベースによる印象的なフレーズから始まるドラマチックな作品。次の‘Bonsho’は重いベースラインが特徴的なスローバラード。‘Hollows’はエレクトリックピアノを配したテンポの速い4ビート曲。続く"Voices from the Past"は後のリーダー作"Voices from the Past: Paradigm"(ECM, 1981)でも再演されている曲で、黄昏たメロディを持ったスローな曲。‘Requiem’は菊地雅章によるソロの旋律が美しいバラード。最後の‘Ae. Ay.’も高速の4ビート曲でエレピによる演奏で、この曲だけフリー的混沌を見せる。

  ベース中心の重量感のある演奏であり、サイドメンの音数も少なめ。暗くて重たく、虚空に対して音を出しているかのような寒々しさがある。四人による演奏とはいえ、ピーコックのモノローグにしか聴こえないくらい強烈にカラーが統一されている。
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すぐれた論理的文章術の指南書だが、あくまでもビジネス仕様

2012-04-25 09:17:33 | 読書ノート
高杉尚孝『論理表現力:ロジカル・シンキング&ライティング』日本経済新聞, 2012.

  文章読本であるが、出てくる事例はビジネスマン向け。上司または顧客を説得するのに効果的な文章術や構成を教授するという内容である。報告書の構成法だけでなく、パワーポイント等を使ったプレゼンテーション向けの構成法もわずかながら紹介されている。著者は、外資に勤務経験のある、フリーのコンサルタントであるとのこと。

  ビジネス書のカテゴリに入る本としてはかなり分析的で、メッセージの種類を記述・評価・規範に三分割することから始まる。続いて、日本語の助詞について分析し、パラグラフ概念を理解させ、結論付けは要約化であると喝破し、報告書の筋立てを原状回復型・潜在型・理想追求型の三種に分けるという順序で進む。さらに、結論先行型の構成で書くよう勧め、説得力を高めるために注意すべき点を指摘して終わる。加えて、アンカリングなど行動経済学の知見も交えたテクニック紹介もなされている。

  論理的文章構成というテーマに限っては、数多ある大学生向けのレポート執筆法の書籍よりずっと詳細で優れている。ここには引用の表示方法等の作法の話が無いだけである。しかし、扱う事例が「企業業績のためにどうのこうの」といったビジネスマン向けであり、学生にはしっくりこないかもしれない。
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日本版・英国版・米国版、それぞれ同じタイトルで収録作品が異なる。

2012-04-23 20:36:19 | 映像ノート
DVD "Cinema 16 : European Short Films" Warp Films / Beat Records, 2007.

  短編ヨーロッパ映画16作品のアンソロジー。基本1990年代以降の作品中心だが、古いところではダリとブニュエルによる『アンダルシアの犬』やゴダール『男の子の名前はみんなパトリックっていうの』も収録している。ヤン・シュヴァンクマイエルの『ジャバウォッキー』も1970年代か。あとは、クリストファー・ノーラン、マシュー・カソヴィッツ、ラース・フォン・トリアー、スティーブン・ダルドリーほか中堅から若手の監督の初期短編作品である。

  タイトルにはヨーロッパとあるが、16作品中7作品と英国人作家の作品が多い。作品を選択したのが英国の会社だからだろうと思うかもしれないが、調べてみると英国と日本では収録作品が異なる。英国版では、そもそも"European Short Films"と"British Short Films"という二つのDVDが発売されている。前者にゴダール作品、後者にダルドリー作品が収録されているという具合である。日本版"European Short Films"は両者からセレクトした上に、すでに著作権フリーになっている『アンダルシアの犬』を敢えて入れたというものである。米国版も両者からだが、いくつかは日本版と異なり、かつ『アンダルシアの犬』は収録されていない。

  いったい、なぜ国によってこのように収録作品が異なっていいるのだろうか? 著作権のため? それとも日本人向けのマーケティングの結果なのか? また『アンダルシアの犬』は500円の廉価DVDで気安く手に入る作品なので、収録のありがたみは薄い。コンパイルの方針について、どこかで断っておいてほしいところである。
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報告書からエッセイまでターゲットの広い文章読本

2012-04-20 11:16:22 | 読書ノート
野内良三『日本語作文術:伝わる文章を書くために』中公新書, 中央公論, 2010.

  誤読されない、意味が正確に読者に伝わる文章を書くための指南書。一応、「はじめに」では実用文について取り上げるとことわってはいる。だが、「伝わる文章」ならばジャンルを問わず、論文・報告書だけでなく、軽いエッセイや小説における描写もその範囲に含まれている。良く言えば応用範囲の広い文章読本である。

  日本語に関する興味深い指摘もある。日本語は、特にことわりが無い場合、自動的に「私」が見たこと聞いたことを述べることになる主観的言語であるという。続けて“評判の悪い「読み書き」の外国語教育は日本語力養成の役割を陰ながら果たしていた(中略)。いや、日本語力だけでなく、思考力養成の役割も果たしていたのである”(p.85)と指摘する。抽象的な概念が主語に来ることが多いヨーロッパ語の訳読は日本語表現を豊かにしていたのである。

  ただし、「はじめに」で実用文志向を標榜しながら、事例に文学者の文章が多いのが気になるところである。また、オノマトペや慣用句など定型表現の使用を勧めているのだが、それらは観察したことの描写には優れていても、抽象的な内容を伝える文章には向いていないと言える。仕事や学業で執筆するような報告書や論文にはやや主観的すぎるかまたは冗長なのである。この点で、著者の言う「実用文」の範囲が広すぎ、大学や仕事の文書で苦労している人には必要十分な内容ではないという印象である。

  とはいえ、文レベルだけでなく、段落や論証のための構成に気が配られており、大学生が最初に読む文章読本としては良いかもしれない。
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筋肉質の変拍子暗黒ファンク、日本語ラップは余計

2012-04-18 21:54:16 | 音盤ノート
DCPRG "Second Report from Iron Mountain USA" Impulse!, 2012.

  クラブ・ジャズ。"Alter War in Tokyo"(参考)に続く復活DCPRGのImpulse!二作目となる。今作は日本語ラップを大々的にフィーチュアしており、好みが分かれそうだ。僕は駄目な方だった。

  DCPRGのP-Vine時代は、電化マイルスを念頭におきつつも、金管部門に厚みがあってジャズオーケストラ的な面を持っていた。コンセプトも、1970年代後半のフュージョン風の洗練を感じさせるところがあった。しかし、このアルバムは混沌一辺倒で、ゴリゴリの変拍子ファンクが続く。全体として、糖分ゼロの、ずいぶん筋肉質な音楽になってしまっている。さらにImpulse!期は金管を減らしているため、オーケストラ的な優雅さが失われ、編成も1970年代前半の電化マイルス組に近づいた。

  意図した変化なのだろうけど‘構造 1 (現代呪術の構造)’や‘ホーチミン市のミラーボール’のような美しい曲をもっと交えてほしいところ。さらに、個々のソリストのレベルは高いので、ラップなんかに出番を与えず、彼らにもっとアドリブ演奏をさせてスペースを埋めるべきだった。日本語ラップは詩がわかるとけっこう恥ずかしいものがあって、聴く方が辛い。
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「わびさび」と言えば聞こえはいいけれども、オリジナル曲だけだと辛い

2012-04-16 00:17:24 | 音盤ノート
菊地雅章 "Sunrise" ECM, 2012.

  フリージャズにカテゴライズされるべきピアノトリオ作品。ベースはThomas Morgan, ドラムは昨年亡くなったPaul Motianで、2009年9月のニューヨーク録音。菊地自身によるライナーノーツでモチアンの死が嘆かれ、ブックレットにはメンバー三人の写真と同時にモチアンの単独写真が掲載されている。さながら「ポールモチアン追悼アルバム」のようである。

  それにしても隙間だらけの音である。菊地雅章といえばそういうスタイルなのだが、彼の過去のトリオ“Tethered Moon”の方はスタンダードなどメロディのある曲にも取り組むので、まだ楽しんで聴ける。本作はメンバー三人のフリーインプロばかりで、ちょっと辛い。ベースもドラムも大胆に絡んでこないし、かなりインパクトに欠ける。

 リズム感もメロディも希薄なこのアルバムを、個人的に何度も聴き返すことは無いと思う。だが、記念すべき日本人初のECMリーダー録音として、大切にCDの棚に飾っておくことにしよう。昨年発売されたNew Seriesの細川俊夫"Landscapes"のほうが先じゃないかって? あれは2009年の10月録音だから。
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携帯電話をガラケーからスマホに換えて三週間

2012-04-13 13:12:54 | チラシの裏
  NTTドコモのmovaを8年ほど使ってきたのだが、今年3月にサービス終了になった。昨年半ばぐらいからたびたびFOMAへの変更キャンペーンのチラシが送られてきていたのだが、変更は終了ギリギリの先月になってしまった。しようがないのでスマホに換えたのだが、あまり使いこなせていない。

  自宅と職場のインターネット環境に特に不満はなく、外出先でネットを見たいと思わないので、個人的にはガラケーで十分だった。しかし、ドコモのチラシの付録になっていた乗換え割引券は、スマホしか割引しないものになっていた。それを使えば端末相当分が実質タダになるというのでスマホにしたのだが…。

  結局スマホに換えても、電話とメールと、目覚まし時計にしか使用していない。ドコモの店員によると「スマホはネット接続が中心的機能」とのことだったが、僕の新携帯はその点で活躍することは無さそうである。カメラも不要。むしろ、movaに付いていたゲームで、時折することのあったテトリスを気楽にすることができない点に、一抹の寂しさを感じている。
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問題意識は共用できるも、あまり有効に思えない概念を使用

2012-04-11 16:33:57 | 読書ノート
バリー・シュワルツ『なぜ選ぶたびに後悔するのか:「選択の自由」の落とし穴』瑞穂のりこ訳, ランダムハウス講談社, 2004.

  選択をめぐる心理学の一般向けエッセイ。今なら行動経済学としてもいいかもしれない。選択への不満をコントロールするためのアドバイスもあり、ポジティブ心理学の装いもある。内容は、選択肢があることによって満足度が下がる、選択肢が多すぎると逆に選択できなくなる等、アイエンガーの書籍と共通する(参考)。

  アイエンガーの書籍に劣る点があるとすれば、マキシマイザーとサティスファイサーというあまり有効に見えない概念を使ってしまったところだろう。著者によれば、前者は「効用を最大化するために選択肢をくまなく調べつくす」タイプだが、後者は「選択にエネルギーを注がず、そこそこの効用を得られればよしとする」タイプである。誰にでも、それぞれの面があるというのだが…。

  しかし、本書の焦点は完全にマキシマイザーなのだから、この面をコントロールする話にサティスファイサーを持ち出す意味はあまり無いように思える。生活におけるいくつかの領域のなかで、なぜ人は一部の領域でマキシマイザーになってしまうのか、この点に答えて欲しいところだった。
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素晴らしい演奏なのに、録音が悪い上にデータに手抜き

2012-04-10 15:24:43 | 音盤ノート
Steve Kuhn "Childhood is Forever" BYG, 1969.

  ジャズ。ピアノのキューンと、まだアコースティック・ベースを弾いていた頃のSteve Swallowと、イタリア人ドラマーAldo Romanoによるトリオである。1969年のパリ録音で、1998年にドイツのレーベルCharlyからCD化されている。

  コンセプトは前作"Watch What Happens"(参考)と同様で、非オリジナル曲ばかりをモーダルに演奏するというもの。曲目は‘The Night Has A Thousand Eyes',‘Spring Can Really Hang You Up the Most',‘Baubles, Bangles and Beads',‘The Meaning Of The Blues',‘All That's Left Is To Say Goodbye',‘I Waited For You',‘Eiderdown'である。最後の曲はスティーブ・スワロウのオリジナル曲。

  演奏のクオリティは高く、内容に申し分は無い。キューンのファンなら何の不満もないだろう。だが、録音状態が悪いのが難点。ピアノの音はくぐもっているし、ベースはよく聴こえない。また、曲名表記がいい加減で、2曲目と5曲目は省略表記で、ちゃんとした曲名になっていない。こうした、レコード会社の愛情を感じられない扱いが哀れを感じさせる作品である。
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