29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

非モンド的な無国籍情緒を感じさせる

2010-07-29 14:57:41 | 音盤ノート
Charlie Haden, Jan Garbarek, Egberto Gismonti "Magico" ECM, 1980.

  ベース、サックス、ギターまたはピアノというトリオでのセッション。おなじトリオで半年後に"Folk Songs"(ECM, 1981)を録音している(共に1979年録音)。どちらも熱くなる場面は皆無、奏者相互の関係も冷たいままだったろうと思わせる。とはいえ、"Folk Songs"の方が曲にややスピード感があり、切迫した印象を与える。こちら"Magico"の方が緊張感が薄く、ゆったりとしている。

  1,2,4曲目はアコースティック・ギターによるアルペジオを使った曲で、フォルクローレ風の進行に、Garbarekの孤独を感じさせるサックスが絡むというもの。いかがわしさの無い無国籍情緒感がある。3,5曲目ではピアノがゆったりと奏でられ、スイングしないヨーロッパ風室内楽ジャズになる。いずれにせよ二つのコード楽器を操るGismontiの印象が強く、彼のアルバムと言って良いかもしれない。とはいえ、一番心に残るのはHaden作の3曲目"Silence"である。
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語り口に丁寧ながら攻撃的という癖あり

2010-07-27 11:17:08 | 読書ノート
藻谷浩介『デフレの正体:経済は「人口の波」で動く』角川Oneテーマ21, 角川書店, 2010.

  労働力人口の減少が日本のデフレの原因と説く書籍。労働力人口のピークだったのは1996年。それ以降、該当人口が増えた沖縄を除いて、減ったほとんどの県で小売のここ販売額は落ちているという。現役世代の頭数が減って消費が減る一方、増えたのは高齢者であり、彼らはお金を使わず貯蓄に回す。その結果、デフレに陥っているのだとする。ここまでは説得力があった。

  ただ、著者が言うほど、デフレをの原因を人口減とすることが、一般に看過されてきたとは考えられない。労働力人口減少に伴って需給ギャップが起こることを2004年のベストセラー『「人口減少経済」の新しい公式』1)はすでに指摘している。

  著者が提案する処方箋は、国内消費を刺激しようというもの。高齢者から若年層への所得移転、女性の労働力化、外国人観光者数を増やす、などミクロなものである。金融政策は効かないという。そうだろうか? 政策を具体的に考えると、インフレを起こすより特に導入しやすい案というわけでもないような気がする。

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1)松谷明彦『「人口減少経済」の新しい公式』日本経済新聞社, 2004.
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アドリブ部分で弾くメロディーが事前に決まっているジャズ

2010-07-24 09:27:19 | 音盤ノート
Mike Nock "Ondas" ECM, 1982.

  ピアノトリオ。Mike Nockはニュージランド出身で1940年生まれのピアニスト。キャリアを通じての録音も少なく、ECMでの録音はこれ一枚のみ。このアルバムではEddie Gomez(b)とJon Christensen(d)が参加しているが、二人ともバッキングに徹しておりあまり絡んでこない。

  最初の四曲はスローテンポで、最後の五曲目が少しだけ早くなる。ほとんどの曲は、ゆったりとした変化の少ない伴奏を作り、そこにまたゆっくりとした叙情的なメロディをのっけるというもの。ソロ部分は事前に記譜されているのではないかと思えるぐらい洗練されており、危なげがない。Bill EvansだとかSteve Kuhnだとかジャズピアニストの名前を挙げる以前に、Windham HillのGeorge Winstonにもっとも近い演奏である。あそこまで甘く流れないけれども。

  この人のピアノトリオ盤は、他に"Not We But One"(Naxos 1996)を聴いてことがあるが、アドリブ部分はもっとジャズ的だった。本アルバムにはジャズ的なスリルは皆無だが、これはこれで美しく完成度が高い作品である。
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冷遇され続けるピアノトリオ名盤

2010-07-22 10:49:02 | 音盤ノート
Richie Beirach "Elm" ECM, 1979.

  George Mraz(b)とJack Dejohnette(d)がバックを支えるピアノトリオ。。素人の僕の耳では、Beirachのピアノは「明るくないChick Corea」という感じなのだが、どうなんだろうか? メロディより和音に凝った演奏である。最近のECM作品には無いバトル演奏が繰り広げらているのが特徴で、特にDejohnetteの手数の多いドラミングが聴きどころ。3曲目と5曲目のような耽美的な演奏もあるが、2曲目と4曲目のような壮絶なインタープレイの曲の印象の方が強い。

  この録音は2000年に日本盤CDとしてのみリイシューとされている。稲岡邦彌『ECMの真実』1)によれば、Beirachが御大アイヒャーと喧嘩して、以来Beirach参加作品は本家ECMのカタログから外されているのだとか。Liebmanの"Lookout Farm"(参照)がCD化されないのも彼が参加しているためだと思われる。それにしても、かなりのクオリティを持った作品群がLPのままというのももったいない。(この作品のLPも個人的に持っていたが、大学時代の友人に貸したままになっている。CD化されて取り返す気が無くなってしまった。)

  ちなみに、ジャケット上のファーストネームは"Richard"となっているが、"Richie"とした方が通りが良いようだ。本CDの日本盤のオビでも"リッチー・バイラーク"となっているし、米Wikipediaでも"Richie Beirach"で項目が立てられている。

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1) 稲岡邦彌『ECMの真実』河出書房新社, 2001.
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日本人による進化心理学関連書籍の特徴

2010-07-20 09:07:17 | 読書ノート
石川幹人『だまされ上手が生き残る:入門!進化心理学』光文社新書, 光文社, 2010.

  副題どおり進化心理学の入門書。遺伝と協力行動の関係、性による配偶パターンの違い、サバンナ仮説など、基本的な考えが通覧できる。後半に出てくる意識や言語に関する議論は、もう少し説明が必要だと感じるところだが、新書ではぎりぎりの紙幅なのだろう。あとがきで薦められている本──長谷川夫妻の『進化と人間行動』、ピンカーやデネット──をすでに読んでしまっている人には食い足りかもしれない。けれども、初学者にとっては、竹内久美子の著作からこの分野に入るよりは良いのだろう、きっと。

  気になった点は、この分野の書籍が多くの項を割いている「環境決定論=社会学的思考に対する批判」がまったくないこと。翻訳書では、お約束のように社会学批判の記述があっていささかウンザリさせられる。だが、この分野の日本人の著作はそういう部分があまりない。竹内久美子の著作がそう。英米では、いまだ進化論は宗教的にもアカデミズムにおいても「危険な思想」なのだろう。しかし、日本では軽く四方山話のように扱っても不謹慎とは思われないという状況で、英米でのようなインパクトは無いようだ。
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社会民主主義とファシズムとの近さ

2010-07-17 11:51:52 | 読書ノート
井上寿一『日中戦争下の日本』選書メチエ, 講談社, 2007.

  日中戦争時の日本の大衆について政治思想の視点から描いた歴史書。投稿誌や日記などを材料にしている。戦争は、当時の下層階級──労働者・農民・女性──の地位を向上させることが期待されたという。そして、実際彼らの地位は、戦時中に他の層と比べて相対的に向上した(ただし、それ以上に国全体が戦争でダメージを受けたわけだが)。だからこそ、戦争は支持されたのだとする。

  本書を読んで、最近の歴史研究はかなりマルクス主義を克服したのだなという感慨をもった。一昔前の図式では、戦争支持は資本主義・自由主義勢力で、反対は共産主義・社民主義勢力だった。後者は帝国主義となる動機を持たないので戦争を起こさないとされてきた。一般の日本人大衆は資本家と軍部にだまされた被害者たちとされてきたのだった。

  本書や佐藤卓己『言論統制』1)は、一般化したマルクス主義的解釈とは逆のハイエク流の解釈で、社民主義的な思想をファシズムに近いものとして扱っている。軍隊が共感したのは、自由主義ではなく社民主義だった。都市的な消費社会の嫌悪、経済発展の恩恵に与れない層に同情する平等指向、この二つが、自由の抑圧と道徳の過剰な圧しつけを生んだ。軍は資本主義と結託したのではなく、大衆の側と結託したのである。とはいえ日本の自由主義は敢然とその風潮に抵抗できたわけではないのが情けないところ。鍛えるべきは自由主義ということなのだろう。

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1) 佐藤卓己『言論統制:情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』中公新書, 中央公論新社, 2004.
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男女の読書の違い

2010-07-15 12:10:39 | 読書ノート
レナード・サックス『男の子の脳、女の子の脳:こんなにちがう見え方、聞こえ方、学び方』谷川漣訳, 草思社, 2006.

  男女の心や能力の違いについて述べた一般書籍で、著者は米国の医師。あとがきによれば日本人にもわかりやすい部分のみ訳出した抄訳である。査読を受けたさまざまな論文を主張の根拠としているというのだが、文献リストが付いていないのが残念。原書にも無いのだろうか?

  図書館・情報学を専攻する者として興味深かったのは次の点。読書の好みにも男女差があり、男の子はアクションものやノンフィクションを好み、女の子は登場人物の心理を分析できるフィクションを好むというもの。

  確かにそのような印象はある。しかしながら、絵本や児童文学の世界は繊細な女性的世界で、「敵を力づくで倒す」ようなテーマは漫画やアニメの方に多い。おそらく、男の子にとって、図書館や学校で見る児童書は退屈なものだろう。力の誇示は暴力を助長するとして児童向け書籍の世界から排除されてきたために、結果的に男の子は活字から離れてしまう傾向にあるのではないだろうか?
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オーソドックスで柔らかく暖かいECM録音

2010-07-13 14:21:31 | 音盤ノート
Stefano Bollani "Stone in the Water" ECM, 2009.

  ジャズ。Bollaniはすでにイタリアの若手ピアニストとしてはビッグネームで、日本のレコード会社Venusにも録音がある。このアルバムはECMでの最初のトリオ録音。北欧系のリズム隊Jesper Bodilsen(bs)、Morten Lund(dr)を従えての録音としては三作目となる。

  ECM録音らしく静謐な室内楽的ピアノジャズだが、このレーベルのピアノ作品にありがちな硬質な叙情感とは違う。アットホームというわけでもない。フレーズにかすかな甘さと暖かみ、柔らかさ、それと遊び心を感じる演奏である。また、ECMによくあるリズムが抽象的になる演奏も少なく、ぎりぎりの線でまとめられている──4ビートは無いけれども。もう少し大胆に演奏してもいいのかなとも思うが、全体としてはかなり良い線をいっていると言える。

  しかし、この路線がECMで受け入れらOKならば、Enrico Pieranunziのトリオ録音も是非お願いしたいところ。Keith Jarrettのトリオはこの路線でOKなのに。
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能力開発機会についての大規模調査結果

2010-07-10 12:18:46 | 読書ノート
佐藤博樹編著『働くことと学ぶこと:能力開発と人材活用』ミネルヴァ書房, 2010.

  日本企業での能力開発についての論文集。女性や非正規雇用者の能力開発、OJTやOffJTの就業・収入への効果、最初の就業後三年間の能力開発機会のその後のキャリアへの影響などを調べている。計量分析満載の研究書籍で、一般の人向けではない。

  次の二つの点は興味深い。まず、被正規雇用者でも、正規雇用者と同程度かそれ以上の能力開発機会を持つことのできる職場があるということ。そして、能力開発機会を持つことはその後のキャリアにプラスに影響する。この二つの知見からは、就職活動がうまくいかなかった学生に対して、非正規雇用でも良いから、能力開発機会のある職場でしばらく働きなさいというアドバイスをしたくなるだろう。

  しかし、オチもある。そうした機会は、いつも人手の足りず締切に追われるような職場ではなく、先輩が後輩を指導する余裕のある職場に多くあるらしい。そのような職場はどこにあるのかというと、第7章によれば「規模の大きな企業」ということである。非正規雇用になるにしても、大企業で雇われた方が得だということなのだった。
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論理的な議論のための概念と例題の二冊

2010-07-08 11:14:58 | 読書ノート
福澤一吉『議論のレッスン』生活人新書, NHK出版, 2002.
福澤一吉『議論のルール』NHKブックス, NHK出版, 2010.

  議論の構造についての書籍二冊。著者は、議論を論理的にするために「主張-根拠-論拠」という型式で展開せよと説く。この型式を、その発案者にちなんでトゥルーミン・モデルというらしい。それぞれの要素が明示されないと、建設的な議論は展開できないとのこと。

 『議論のレッスン』はそのモデルについてわかりやすく解説した新書版。概念の定義だけでなく、例題・練習問題も整備されており実用的である。ロングセラーとなっているようで、刷を重ねている。

 『議論のルール』は、大学研究者が登場するテレビ討論や、国会での質疑を題材に、その論理展開を添削するというもの。結果、日本のエリート層の議論スキルの低さが浮き彫りにされる。多くの人はそれにすでに気付いているのかもしれないが、具体的に何が足りないのかはっきりさせるところがポイントである。そして、指摘された問題点から議論のルールを構築してゆく。

  それぞれの主張は明確であり理解が難しいということはない。ただし、概念を理解したり、他人の誤りの指摘を読むだけで、議論スキルが身に付くというわけでもない。なので、著者には野矢茂樹『論理トレーニング』並みのトゥルーミン・モデル独習問題集を作って頂きたいと願う。
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