オーウェン・ジョーンズ『チャヴ:弱者を敵視する社会』依田卓巳訳, 海と月社, 2017.
現代英国階級事情。チャヴとは英国の下層階級の若者を指す言葉で、子だくさんで、公営住宅に暮らし、生活保護を受け、ジャージを着たまま外出し、働かないで昼間からドラッグとアルコールをやっている、というイメージらしい。ただし、著者は広めの定義でこの語を使っており、労働者階級全体をチャヴとみなして議論を進めている。オリジナルのChavs: The Demonization of the Working Class (Verso) は2011年刊で、邦訳には2012年版と2016年版の後書きが追加されている。
本書で著者は「チャヴは労働者階級のステレオタイプとして適切なイメージではない」という主張を展開している。残念ながら、この重要な論点で本書は議論が混乱している。というのは、チャヴとは一部のグループを指すものであって、そもそも英国で労働者階級全体を指すものとしては使用されていないのだから。これでは藁人形論法である。英国労働者階級の惨状とその原因を探る内容なのだから、そもそもチャヴをメインテーマであるかのように見せる必要などなかった。しかし、著者は注目をひくためにあえて戦略的にこの侮蔑語を用いているようにも見える。
この点を除けば「ここ30年で英国国内で格差が広がり、労働者階級の暮らしぶりが悪化していること」の良質なレポートとなっている。1979年に始まるサッチャーによる改革によって、労働組合が弱体化し、英国国内の工鉱業が壊滅した。1997年に労働党が政権に着くが、ブレアもゴードンも中流階級寄りのニューレイバーだった。彼らはメリトクラシーを奨励して労働者階級に対して中流への階級移動を煽った一方、低賃金の労働者や無職者を無能な者として無視した。結果、仕事もセイフティネットも失われて、希望を亡くした人々が下層に滞留している、と。
その処方箋だが、まずは団結して選挙で影響力を振るい、中流上層への課税率や法人税率を高めよ、という方向となる。そこまではいいのだが、最大の問題はどうやって英国で労働者階級向けの仕事を作り出すかである。仕事といっても、レジ打ちのような最低賃金すれすれで解雇も容易なものではなく、世帯を構えることのできる程度の収入のある長期に安定した仕事である。だが、これについては特にアイデアがない。どうしようもない、というのが本当のところだろうか。本書の範囲を超える難問とはいえ、彼らに経済的な自立の機会を持たせないままでは片手落ちである。というわけで、受け皿の無いままハードランディングな構造改革をしてはいけない、というのが日本への教訓かな。
現代英国階級事情。チャヴとは英国の下層階級の若者を指す言葉で、子だくさんで、公営住宅に暮らし、生活保護を受け、ジャージを着たまま外出し、働かないで昼間からドラッグとアルコールをやっている、というイメージらしい。ただし、著者は広めの定義でこの語を使っており、労働者階級全体をチャヴとみなして議論を進めている。オリジナルのChavs: The Demonization of the Working Class (Verso) は2011年刊で、邦訳には2012年版と2016年版の後書きが追加されている。
本書で著者は「チャヴは労働者階級のステレオタイプとして適切なイメージではない」という主張を展開している。残念ながら、この重要な論点で本書は議論が混乱している。というのは、チャヴとは一部のグループを指すものであって、そもそも英国で労働者階級全体を指すものとしては使用されていないのだから。これでは藁人形論法である。英国労働者階級の惨状とその原因を探る内容なのだから、そもそもチャヴをメインテーマであるかのように見せる必要などなかった。しかし、著者は注目をひくためにあえて戦略的にこの侮蔑語を用いているようにも見える。
この点を除けば「ここ30年で英国国内で格差が広がり、労働者階級の暮らしぶりが悪化していること」の良質なレポートとなっている。1979年に始まるサッチャーによる改革によって、労働組合が弱体化し、英国国内の工鉱業が壊滅した。1997年に労働党が政権に着くが、ブレアもゴードンも中流階級寄りのニューレイバーだった。彼らはメリトクラシーを奨励して労働者階級に対して中流への階級移動を煽った一方、低賃金の労働者や無職者を無能な者として無視した。結果、仕事もセイフティネットも失われて、希望を亡くした人々が下層に滞留している、と。
その処方箋だが、まずは団結して選挙で影響力を振るい、中流上層への課税率や法人税率を高めよ、という方向となる。そこまではいいのだが、最大の問題はどうやって英国で労働者階級向けの仕事を作り出すかである。仕事といっても、レジ打ちのような最低賃金すれすれで解雇も容易なものではなく、世帯を構えることのできる程度の収入のある長期に安定した仕事である。だが、これについては特にアイデアがない。どうしようもない、というのが本当のところだろうか。本書の範囲を超える難問とはいえ、彼らに経済的な自立の機会を持たせないままでは片手落ちである。というわけで、受け皿の無いままハードランディングな構造改革をしてはいけない、というのが日本への教訓かな。