首藤若菜『雇用か賃金か:日本の選択』(筑摩選書), 筑摩書房, 2022.
新型コロナ禍における航空業界の労働力への対応から、日本の雇用について考えるという内容である。著者は立教大学の先生。景気変動に対応した人件費の調整方法として、英米では解雇による人員数の調整が主流で、一方で日本の場合(解雇が容易ではないので)労働時間の短縮か、またはボーナスカットなどの賃金の圧縮などの方法が取られやすい、というイメージがある。実際、航空業界の対応を比較すると、そのような傾向が見られたという。
米国の場合、レイオフの順序および景気回復後の復職順序が年功順になっているので、中高年の雇用が若者より相対的に守られている。あちらの労働組合は、中高年の利害を強く反映しているので、解雇よりも賃金水準を守ることの方を重視する傾向があるとのこと。解雇の容易さは「労働者の他産業への移動を促し、経済全体の構造転換を可能にする」ので、日本でも肯定的な論者がいる。しかし、航空業界では、需要が戻ったときにすぐに必要な人材を集めることができず(やはり訓練期間が必要なので)、欠航という結果をもたらして利益の損失を招いたとのこと。
日本の場合、労働時間の削減や新規採用の抑制によって、雇用が守られたように見える。しかしながら、正社員が守られる代わりに、契約社員や下請け業者は雇用契約を打ち切られている。すなわち中小企業や非正規雇用者の間では失業が出ている。また、彼らがやっていた業務を、別の仕事をやっていた正規雇用者を移動させてやらせることになり、仕事のミスマッチも起きている。このような日本の航空業界の例のほかヨーロッパの航空業者やデパート業界の話も少々ある。
以上。(労働時間の調整も含めての)賃金カットと雇用維持、どちらが良いかは一長一短であるというのが本書のトーンである。デパートから銀行のATM案内者に出向する50代男性の例は、良い話なのかそうでないのか僕にはよくわからない。いったん給与が上がってしまった中年男性の処遇というはいろいろ面倒くさいのだなあ、と我が身を省みさせる内容だった。
新型コロナ禍における航空業界の労働力への対応から、日本の雇用について考えるという内容である。著者は立教大学の先生。景気変動に対応した人件費の調整方法として、英米では解雇による人員数の調整が主流で、一方で日本の場合(解雇が容易ではないので)労働時間の短縮か、またはボーナスカットなどの賃金の圧縮などの方法が取られやすい、というイメージがある。実際、航空業界の対応を比較すると、そのような傾向が見られたという。
米国の場合、レイオフの順序および景気回復後の復職順序が年功順になっているので、中高年の雇用が若者より相対的に守られている。あちらの労働組合は、中高年の利害を強く反映しているので、解雇よりも賃金水準を守ることの方を重視する傾向があるとのこと。解雇の容易さは「労働者の他産業への移動を促し、経済全体の構造転換を可能にする」ので、日本でも肯定的な論者がいる。しかし、航空業界では、需要が戻ったときにすぐに必要な人材を集めることができず(やはり訓練期間が必要なので)、欠航という結果をもたらして利益の損失を招いたとのこと。
日本の場合、労働時間の削減や新規採用の抑制によって、雇用が守られたように見える。しかしながら、正社員が守られる代わりに、契約社員や下請け業者は雇用契約を打ち切られている。すなわち中小企業や非正規雇用者の間では失業が出ている。また、彼らがやっていた業務を、別の仕事をやっていた正規雇用者を移動させてやらせることになり、仕事のミスマッチも起きている。このような日本の航空業界の例のほかヨーロッパの航空業者やデパート業界の話も少々ある。
以上。(労働時間の調整も含めての)賃金カットと雇用維持、どちらが良いかは一長一短であるというのが本書のトーンである。デパートから銀行のATM案内者に出向する50代男性の例は、良い話なのかそうでないのか僕にはよくわからない。いったん給与が上がってしまった中年男性の処遇というはいろいろ面倒くさいのだなあ、と我が身を省みさせる内容だった。