29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

軟弱優男ボーカルにMPBとエレクトロ少々

2017-10-29 20:46:36 | 音盤ノート
Arto Lindsay "Cuidado Madame" P-Vine, 2017.

  ブラジル音楽の要素とエレクトロニクス要素をブレンドさせたアダルト・コンテンポラリー(と敢えてカテゴライズしてみる)である。元DNAという肩書が付くと身構えてしまうかもしれないが、Michael Franksとかが好きな人も気に入るのではないだろうか。少々実験的だけれどもけっこう楽しめる範囲にあるサウンドであり、その上を軟弱男性ボーカルがゆったり歌うという内容である。

  1996年の"Mundo Civiliazdo"については以前書いた。その後4作を経ての13年ぶりの新作ということだが、以前の路線を踏襲しており、大きな変化はない。しかし、エレクトロニクス面は洗練されていて、繊細に刻んだりグリッチ音を聴かせたりと多彩になっている。時折「ガチャガチャ」というだけの、DNA以来のノンチューニングのギターの音も入るが、あくまでも薬味程度。リズムはけっこう複雑で、そこが実験的に感じるところである。ボーカルは柔和で優しく、口数も少なめ。全体としては押しつけがましさがなく、受け入れやすいだろう。

  邦題は「ケアフル・マダム」で、日本盤には1曲ボートラが付いている。ボートラは良曲だが「アルバムが終わった感」のある曲の後に出てきてしまい、曲順としては不満が残る。なお、発表時期は、日本ではP-Vineから1月に、米国ではNorthern Spyから4月にである。日本先行発売とはいえ、なぜこう期間が空くのだろうか。米国ではCD市場が壊滅していて、レーベル探しに難航したということか。
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ECM産のWindham Hill的アコギ音楽

2017-10-26 22:08:20 | 音盤ノート
Dominic Miller "Silent Light" ECM, 2017.

  ジャズ。なんだけど、メインはアコギソロで薄いパーカッションが少々という編成。Windham Hillあたりのニューエイジ音楽に感覚が近い。Stingのバンドに所属しているとのことだが、個人的にStingに興味がないので全然知らなかった。ソロ作品もすでに何枚か出しているようだが、ECMからの発行ということで目に留まった。

  おそらくクラシックギターを弾いているのに、曲のせいかスチール弦のフォークギターを弾いているかのように錯覚してしまう瞬間がある。なんとなく音色が鋭い。ECMにはRalph Townerというアコギの名手がいるが、Townerほど冷たい印象はない。けれども温かいかと言えばそうでもない。アルゼンチン出身ということでラテンのモード感を期待したが、そうした要素もまったく感じない。とにかく清涼であり、アメリカのフォーク/カントリー系の延長線上にある器楽曲、という印象である。巧いし曲も悪くないのだが、強い印象には欠ける。

  ただし、この全体的な味付けの薄さは繰り返し聴くのには向いているかもしれない。流しっぱなしにしていても耳障りとならず、BGMとしての機能性は高いと言える。William Ackermanあたりが好きな人には向いているだろう。
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生得的能力が平等という思想は格差肯定論につながる

2017-10-23 22:02:39 | 読書ノート
大竹文雄『競争社会の歩き方:自分の「強み」を見つけるには』中公新書, 中央公論, 2017.

  経済学および行動経済学。『競争と公平感』の続編。一応、価格戦略、落語と小説にみられる経済学的思考、感情と経済行動、競争観と制度設計、格差、の五つの大きなカテゴリがあるが、その中はさらに細かく節に分割されていて、節間に相互に繋がりがない。全体として小ネタ集といったところだろう。

  口調は相変わらず穏やかだが、さらりととんでもない知見を示すのが著者の特徴。本書も同様。「人間の生まれつきの能力は平等。子供にはみんな平等にポテンシャルがある」などという教育を受けてきた子どもは、結果としての学力差や所得の差を努力の差であるとみなす傾向があるという。「敗者とは怠け者のこと」と考えるようになるのだ。このほか、「他店価格対抗とは価格競争回避の戦略である」「ストレスにさらされ続けるとリスク回避的になる」「姉を持った男性は競争を嫌う」などのトピックが面白いものだった。

  中でも最も驚いた話は、日本の個人の所得額。日本の所得のトップ10%は年収580万円以上、上位1%は1270万円以上という記述がある。少なすぎる。世帯の中央値だと420万円ぐらいだというのは知っていた。だが、無所得の人を含めて個人所得の分布を測ってみると著者の言うようになるらしい。日本での格差論って、みんながどんどん貧乏になってゆくのに金持ちになる人はまれ、みたいな社会での話なのか。
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容姿でユダヤ性を主張するトランペット奏者

2017-10-20 22:13:36 | 音盤ノート
Avishai Cohen "Cross My Palm With Silver" ECM, 2017.

  ジャズ。このアヴィシャイ・コーエンはイスラエルのテルアビブ出身のトランペット奏者。同名異人のベース奏者もいて、おそらくそちらのほうが有名だろう。面長で強面なのがベース奏者のほうで、髭面でいかにもユダヤ人という容姿なのがこちらのトランペット奏者である。

  トランペットに加えて、ベース、ピアノ、ドラムの四重奏編成での演奏。第二期マイルス・デイビス五重奏団の枯れた味わいと、Kenny Wheelerのような浮遊感がある。かすかな叙情感もあるが、どちらかと言えば辛口だ。ECMのジャズ作品としては比較的手堅くまとまった演奏だろう、後半に盛り上げてみせる曲もある。たまにアブストラクトな雰囲気になる瞬間もあるが、弛緩することなく緊張感を保っている。非常に優れた内容であり、アルバムの長さが38分と短いのがもったいないぐらい。

  しかし、図書館学研究者として内容よりもベース奏者との識別の方が気になってしまう。"Avishai Cohen"で検索をかけると、Allmusic.comでは振分けページが表示されるので、典拠コントロールがなされているのがわかる。Discogs.comはトランぺッターのほうをAvishai E. Cohenと記載することで区別している。Wikipedeiaは楽器名を補記していた。Amazonは特に対応なしだった。どちらも作品数がそれほど多くないのでアルバムを見分けるのは苦ではない。悲惨なのはSax奏者のBill Evansで、その検索結果表示における埋もれっぷりには同情を禁じえないところだ。
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えっ!?現在の米国の教育ってそうなの?と驚かされる

2017-10-18 17:58:12 | 読書ノート
キャシー・ハーシュ=パセック, ロバータ・ミシュニック・ゴリンコフ『科学が教える、子育て成功への道:強いココロと柔らかいアタマを持つ「超」一流の子を育てる』今井むつみ, 市川力訳, 扶桑社, 2017.

  新たな教育評価基準を提言する書。米国の教育は詰め込みに偏っており、社会に出てから必要なスキルを育成していないと批判する。これに対して、著者らは、6Csのスキル──コラボレーション、コミュニケーション、コンテンツ、クリティカルシンキング、クリエイティブイノベーション、コンフィデンス──を育成・評価するよう学校のプログラムを変えるべきだと主張する。本書はその6Csを解説する一般向けの書籍である。原書はBecoming brilliant : What science tells us about raising successful children (APA LifeTools, 2016)である。

  邦題タイトルでうたうほどの「科学的」な裏付けの説明はなくて、冒頭から6Csが重要だという議論が展開されて、すぐに六つのスキルの個別の説明にはいる。いったいどこからこの六つは出てきたのか。背景には著者らの膨大な研究があるはずで、彼らの主張を信用しないわけではないのだが、それでも読者がタイトルから期待するような内容とは異なった記述となっているとは言える。個々のスキルはそれぞれ4段階に分けられ、達成度を評価できるようになっている。例えば、コンフィデンスすなわち自信は、レベル1「根拠なき自信を抱く」、レベル2「自分の実力を相対的に見極める」、レベル3「新しい取り組みのリスクを計算する」、レベル4「熟慮した上で失敗に怯まず挑戦し続ける」というぐあい。家庭においてすぐにでも実践できるようなアドバイスとなっている。

  議論の方向自体には異論がないのだが、繰り返される「暗記偏重・テスト至上主義の米国教育」批判に関しては、僕らが聞いてきた米国式教育のイメージと違っていて面食らう。米国の学校って、コンテンツ軽視で、クリティカルシンキングとクリエイティブイノベーションを育む教育をやってきたのではなかったのか。まだまだ足りないということだろうか。また、米国の強さは、バランスのとれた人材を活躍させることにではなくて、人格的に偏っていても特殊能力さえあれば抜擢されるということにあるような気がする。しかし、本書の提言はコラボが重視されていて、あまり「米国的」ではないようにも感じる。僕の米国の教育と選抜システムに対するイメージが偏っているのかもしれない。
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性表現の忌避感情は階級差別を起源とするとのこと

2017-10-16 14:16:12 | 読書ノート
白田秀彰『性表現規制の文化史』亜紀書房, 2017.

  カバーが漫画家の山本直樹のイラストで、そこからなんとなく日本でのエロ表現規制についての本だと思い込んでいたのだが、読んでみると古代ギリシアまでさかのぼるかなり射程の広い議論が展開されていた。著者は法政大学の先生である。わかりやすくて面白い良書である。

  そもそもなぜ性表現は規制されるべきなのか。著者はヨーロッパの歴史を検討して、性道徳を身に付けているかどうかを階級の分断線とする、上流階級の視線が起源だと考える。財産の相続にとって父系の保証が重要だったため、上流階級には規範に従った性行動が求められた。一方、庶民はそうでないために「性が乱れている」とみなされた。こうした見方とキリスト教の純血主義が合体してブルジョワ市民にも受け継がれ、性が忌避されるべきものとして隠蔽されるようになった。

  しかし近代に至ると、下層階級にも「主体性」を認めるようになって、「性の自己決定権」なる概念が普及し、ポルノグラフィが許されるようになる。その解法は20世紀後半を通じて進んだ。ただし、青少年にはそのような決定権が無いとみなされているがために、子どもによるポルノグラフィへの接触は禁じられたままとなっている。

  以上が大ざっぱな流れ。日本の話は最後の章にまとめられているが、あまり立ち入ったものではない。個人的な疑問としては、たとえば日本の『桃太郎』が、「桃を食べて元気になったおじいさんとおばあさんから生まれた…」という話から、性的知識を抜きにしてわかるようにした「桃から生まれた…」というように早い段階で改作されているわけで、規制をヨーロッパ起源の話にしていいのかというのがある。全体的に、持説をきちんとした論証で裏付けるようなものではなく、まずは議論を提起することを目的とした書籍、と考えた方がいいだろう。
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「文庫本貸出し禁止論」に持っていかれた図書館大会

2017-10-13 22:18:23 | 図書館・情報学
  第103回全国図書館大会に行ってきた。会場は代々木公園のオリンピックセンター。僕は出版流通委員会の委員なので、午前に当委員会主催の分科会の運営、午後に書協主催の分科会のお手伝いをした。午前の分科会は、運営委員ながら僕が登壇して基調報告者となった。昨年の日本図書館情報学会にて安形輝(亜細亜大)が発表した「公立図書館における図書購入の実態」を、今度は図書館員向けに説明するというものである。書籍購入時の割引率など、金の話だ。一応名刺を交換した間柄の人も含めて、僕が話を聞くことができた人たちの名を以下に挙げるけれども、「内輪の話」感を避けるために敬称略で記すのを許していただきたい。

  出版流通委員会として、これまで出版社の話ばかり聞いてきた──特に書協との関係を重視してきた──のだが、そういえば小売書店と図書館との関係を議論したことがなかった、ということでこの企画となった。僕以外の登壇者は高島瑞雄(日本書店商業組合連合会)、田中伸哉(白河市立図書館長)、永江朗(日本文藝家協会理事)である。論点を明確にするために「出版社がつぶれたら図書館は困るが(地域の)小売書店がつぶれてもそれほどではない」というスタンスで僕は議論した。このため、コスパ至上主義者かのような反感をもった聴講者もいたかもしれない。図書館への納入をめぐっては、ひとくちに「小売」といっても、本社が東京にあるような大手業者と地元の零細な小売書店とでは対立があるようだ。図書館は後者とどう関わっていくべきか。すぐに答えが出る話ではなかったけれども、まずは小売書店が、出版社とは異なる独自の利害を持った存在として、はじめて議論の俎上に上がったということ、これが重要だろう。

  午後は書協主催の分科会で、持谷寿夫(みすず書房社長)、根本彰(慶應義塾大学)、松井清人(文藝春秋社社長)、岡本厚(岩波書店社長)という登壇者である。特に論点を決めず、図書館関係者と出版関係者が言いたいことを言ってお互いを知る、という方向感の企画である。前日に、文春社長が「文庫本の貸出し禁止を求める」内容の報告をするということで、すでにニュースになっていた。というわけで、会場には複数の新聞社のみならず、TBSとNHKのテレビカメラまで入っていた。文春社長の弁によれば前日のそれは意図的なリークではないとのことだが、ちと怪しい気がする。今日の話は夜にはNHKのニュースになっていて──ただしラジオで確認した──、翌日の新聞にも出るだろうから、これは彼の狙い通りなんだろう。この提案の中身はさておいて、話題の作り方が非常に「上手い」と思う。この件で我らが出版流通委員会委員長・瀬島健二郎(文化学園大学)がNHKのテレビインタビューを受けていたが、どう使われたのだろうか。テレビを見て知っている人がいたら教えてほしい。

  毎年ルーティンでやっていることではあるものの、今回の大会は個人的には楽しいものだった。登壇したり、昼食時に議論したり、話題の分科会に参加できたということもある。なかでも特に、僕が学生時代からいくつかその著書を読んできた、永江朗と同席できたことが喜ばしいことだった。
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個人の体質は腸の中にいる細菌が決めている、と

2017-10-06 13:06:03 | 読書ノート
ティム・スペクター『ダイエットの科学:「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』熊谷玲美訳, 白揚社, 2017.

  食事制限によるダイエット法の効果について議論しつつ、さまざまな食材・栄養素の体への影響を探ってゆくという一般向け書籍。著者は双子研究で知られる英国の学者で、『双子の遺伝子』(ダイヤモンド社, 2014)などの邦訳がある。原書はThe Diet Myth: The Real Science Behind What We Eat (Weidenfeld & Nicolson, 2015)である。

  食べても太らない人がいるのはなぜか。肥満になるかや成人病になるかは結局は個人差だという。その個人差を決めているのが遺伝と腸内細菌であり、本書では後者が強調されている。腸に達した食べ物を分解するのは、酵素などの体内の分泌物だけでなく、腸内細菌も関わっているからだ。健康のためにはできるだけ多様な細菌を保持したほうがよい。そのため、いろいろな食材を食べるべしという。ただし細菌の餌となるらしい野菜を多めにしたほうがよく、偏食や「特定の○○を食べないダイエット、あるいは××だけを食べるダイエット」は止めておきなさい、と。一卵性双生児でも、腸内細菌が異なれば性格も太りやすさも変わってくる、ともある。

  基本的な主張は以上で、あとはトランス脂肪酸、糖分、カフェイン、アルコール、サプリメント、などなどが体にどう作用するのか、という話である。はっきりと「身体に悪い」と書かれている食材(サプリメントや糖分の採りすぎ)もあるが、作用がよくわかっていないものも多くて、「それはあなたの腸内細菌次第です」という形の結論が多い。たとえば、牛乳は体を大きくするかどうかについては「きちんとした科学的検証はないのだけれども、牛乳をよく飲むオランダ人の身長は高いのだから、効果はあるんじゃね、たぶん」という感じである。薬として使う抗生物質は腸内細菌を死滅させるのでよろしくない、とも。

  仰天するのは、腸内細菌を手っ取り早く多様にする方法。他人の便をカプセルに入れて飲むんだって。そこまでするかだが、毎日大量に野菜を摂取することや、毎日運動を続けることに比べればコストの安いダイエット法なのかもしれない。ただし、個々の腸内細菌の働きや、その種間の相互作用についてはよくわかっておらず、どういう効果が出るかについて単純な予測はできないようで。ちなみに、ミルクチョコレートは糖分が多くてよくないが、ビターチョコレートはポリフェノールが多くて良いらしい。甘党としては救われる記述である。
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1968年のビル・エバンス発掘音源その2

2017-10-03 22:07:09 | 音盤ノート
Bill Evans "Another Time : The Hilversum Concert" Resonance Records, 2017.

  ジャズ。"Some Other Time"に続く、ResonanceによるBill Evansの発掘音源である。今回はオランダのヒルフェルスムなる土地で行われたコンサートのライブ録音である。"At the Montreux Jazz Festival"(Verve, 1968)の一週間後の演奏となる。録音は現地のラジオ局だとのこと。

  ライブ録音だけあって、スタジオ盤の"Some Other Time"と比べると活き活きとしている。特にJack Dejohnetteのドラムはアイデア豊かで、見違えるようだ。ただし、リラックス感のある演奏であり、もう少し緊張感がほしいと思わないでもない。その点では"At the Montreux Jazz Festival"に軍配があがる。だが、Dejohnette在籍時の貴重な録音として、Evansファンならば楽しめると思う。録音状態もよいし。けれども入門者向けではない。

  いつものことながらResonanceのブックレットは充実している。本作ではなぜかSteve Kuhnへのインタビューが掲載されている。Eddie GomezとDejohnetteへのインタビューもあり、ロンドンのRonnie Scott's Jazz Clubでの一か月にわたる演奏がトリオの最好調期だったと二人とも回想する。ただし、録音は残されていないとのこと。うーむ残念。誰かが海賊録音していて、いつか日の目を見ることを期待したい。
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