パーサ・ダスグプタ『一冊でわかる経済学』植田和弘, 山口臨太郎, 中村裕子訳, 岩波書店, 2008.
経済学の入門書となってはいるが、特に貧困と地球環境への関心が強い小著である。発展途上国出身(著者はダッカ生まれ)の経済学者の視点から、経済の成り立ちと仕組み・問題について記したものだからである。アフリカの農村のような分業化が不十分な共同体の観察から始めて、取引の基盤となる信頼の成立や合理的な分配について思索をめぐらしており、かなり独自な構成となっている。
7章の「持続可能な経済発展」は特に興味深い。“2004年に著名な経済学者8人がコペンハーゲンに招かれ、世界共同体が500億ドルを5年間で使うとしたときの最も有効な使い方について助言を求められた”というのは、ロンボルグによる会議1)のことだろう。別の著作(参考)で、現在の地球環境の危機は深刻とは言えず、その対策に費用を注ぎ込むぐらいならば、貧困者をもっと豊かにするプロジェクトに投資したほうがよいと、ロンボルグは主張している。しかし、ダスグプタによれば、既存の経済統計は自然資源の経済への貢献を十分反映しておらず、それらが破壊されてGDPや人間開発指標の成長とは無関係に生活が悪化するという可能性があることを指摘する。そこで自然資源を考慮した指標を作り、地域別に試算を出している(p.170の表2)。それによれば、1970年から2000年にかけて英米はプラスに、中東・アフリカはマイナスになる。後者は一人あたりGDPが増えていても「持続可能ではない」経済発展をしているということになる。試算方法については議論が残るし、投資すべき分野を具体的に順位付ける議論でもないが、有効で生産的な反論だろう。
他に、科学的知識を作り出す制度と技術を発展させる制度の論理の違い(5章)や、小麦をつくる地域と水稲をつくる地域を比較すると、田植えに女性労働力が必要となるため、後者の地域のほうが比較的女性の地位が高い(p.128)という指摘は面白かった。というわけで貧困や環境問題に対する関心には十分答える内容である。
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1) ビョルン・ロンボルグ『五〇〇億ドルでできること』小林紀子訳, バジリコ, 2008.
経済学の入門書となってはいるが、特に貧困と地球環境への関心が強い小著である。発展途上国出身(著者はダッカ生まれ)の経済学者の視点から、経済の成り立ちと仕組み・問題について記したものだからである。アフリカの農村のような分業化が不十分な共同体の観察から始めて、取引の基盤となる信頼の成立や合理的な分配について思索をめぐらしており、かなり独自な構成となっている。
7章の「持続可能な経済発展」は特に興味深い。“2004年に著名な経済学者8人がコペンハーゲンに招かれ、世界共同体が500億ドルを5年間で使うとしたときの最も有効な使い方について助言を求められた”というのは、ロンボルグによる会議1)のことだろう。別の著作(参考)で、現在の地球環境の危機は深刻とは言えず、その対策に費用を注ぎ込むぐらいならば、貧困者をもっと豊かにするプロジェクトに投資したほうがよいと、ロンボルグは主張している。しかし、ダスグプタによれば、既存の経済統計は自然資源の経済への貢献を十分反映しておらず、それらが破壊されてGDPや人間開発指標の成長とは無関係に生活が悪化するという可能性があることを指摘する。そこで自然資源を考慮した指標を作り、地域別に試算を出している(p.170の表2)。それによれば、1970年から2000年にかけて英米はプラスに、中東・アフリカはマイナスになる。後者は一人あたりGDPが増えていても「持続可能ではない」経済発展をしているということになる。試算方法については議論が残るし、投資すべき分野を具体的に順位付ける議論でもないが、有効で生産的な反論だろう。
他に、科学的知識を作り出す制度と技術を発展させる制度の論理の違い(5章)や、小麦をつくる地域と水稲をつくる地域を比較すると、田植えに女性労働力が必要となるため、後者の地域のほうが比較的女性の地位が高い(p.128)という指摘は面白かった。というわけで貧困や環境問題に対する関心には十分答える内容である。
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1) ビョルン・ロンボルグ『五〇〇億ドルでできること』小林紀子訳, バジリコ, 2008.