29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

ジャレットらしい名演だが、率いていたバンドとはコンセプトの異なる演奏

2015-12-30 11:20:50 | 音盤ノート
Keith Jarrett "Death and the Flower" Impulse!, 1975.

  ジャズ。キース・ジャレットのAmerican Quartet──Dewey Redman, Charlie Haden, Paul Motian──時代の録音で、ジャレットはピアノを弾くだけでなく、ソプラノ・サックスやフルートも吹き、打楽器も叩く。日本盤は『生と死の幻想』というタイトルでけっこうな人気盤となっているが、米国ではそれほど評価が高くない作品である(Allmusic Guideを見よ)。

  沈痛で美麗な楽曲が3曲収録されており、ソロピアノからジャレットに入門したという人にはジャストフィットする作品である。ちなみ僕がそう。うなり声もあげないし。特にタイトル曲の後半は、その激情をストレートにぶつけてくる疾走感溢れる好演であり、聴く方としては「恥ずかしい。でも好き」と受け留めたくなる。ヘイデンのベースもこれら暗く美しい楽曲にぴったりで、2曲目などは葬式の雰囲気とはこう作るものだと教えてくれているようだ。一方でこのアルバムは、このバンドの実験的で尖った面や、ルーズでアーシーな感覚を欠いており、評価が分裂するのはこのあたりが理由だろう。

  すでに何度も再発されており、今年も"Backhand" (1974)とカップリングされて"Impulse! 2-on-1 series"として再発された。昔話をすれば、1990年代にはAmerican QuartetのImpulse盤は最初の三枚以外まだCD化されておらず、しかたなく中古LPを集めたものだ。しかし、未CD化作品は軒並みフリージャズであった。このアルバムやECM盤のような繊細な演奏を期待していたので気に入らず、結局売り払ってしまった。なので気をつけよう。
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高価だがカラー図版が美しい図書館史入門書

2015-12-28 10:57:58 | 読書ノート
スチュアート・A.P.マレー『図説図書館の歴史』日暮雅通訳, 原書房, 2011.

  世界の図書館史の入門書。A5版で4,200円とやや高価であるが、カラー図版が多いためであって、専門家向けというわけではない。高校生でも読めるレベルである。原書はThe Library: An Illustrated History (Skyhorse Pub, 2009.)。著者についてはよく知らないが、歴史やスポーツの本を主に書いているライターのようだ。

  内容は、古代ニネヴェの図書館から始まって、ギリシア・ローマの図書館、西洋中世の教会附属図書館、ルネサンス期以降の王侯貴族および大商人の個人蔵書、ソーシャル・ライブラリー、公共図書館と展開するオーソドックスな流れを押さえている。加えて、中国やイスラムにおける図書館の記述も豊富なところが特徴だろう。日本についての言及も少しあるが、それほど重きを置かれていない。

  読んでみると、愛書家が称えられている一方で、略奪によって歴史的に重要な蔵書の形成がなされたという殺伐とした事実もわかる。あと、火事で消失した蔵書の話もけっこう多い。付録として、世界の代表的な図書館──主に各国の国立図書館の紹介で、日本からは国立国会図書館のみ──の紹介がある。総じて、貴重な本や研究用の本を集めている図書館が重視されているようだ。

  以上、今さらながら積読本だったので読んでみた。なお、序文を書いているテキサス大学のドナルド・G・デイヴィス,Jr.って、ALAの幹部でありながらCIPAに関する裁判でその証言が「図書館はパブリックフォーラムではない」という判断の論拠に使われた人だな。
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スローテンポでの幽玄なピアノとアップテンポでのいつもと違うソロが混在

2015-12-25 08:02:17 | 音盤ノート
Marc Copland Trio "Paradiso", Soul Note, 1997.

  ジャズ。ピアニストとして再デビューして7年目となる1995年の、比較的初期のマーク・コープランドの録音で、ベースにゲイリー・ピーコック、ドラムにビリー・ハートという編成。収録曲は6曲がオリジナル('Billy's Bounce'という紛らわしい曲名のものがある)で、残りがパーカー作'Bloomdido'、スタンダード曲の'Lover Man'と'Taking a Chance on Love'という構成である。

  コープランドはすでに静謐かつ叙情的なメロディに少々気持ち悪い和音をかぶせるというスタイルを確立している。ただし、テンポを上げる曲になると、和音少な目の単線的なソロとなる瞬間があり、ごく普通のジャズピアニストに堕してしまう。やはりスローな曲な方が彼のピアノの魅力を引き立たせる。バッキングも、底堅いものより薄く添えるようなタイプの方が、地に足の着かない非現実的な彼のピアノと良く似合う。キャリア初期の本作では、大方路線は決まっているのだけれども、自分の引き出しの多さを見せるためにいろいろ試みたというところだろうか。

  というわけで、聴く方が求めていないプレイがあって冗長に感じられる作品である。新人のピアノ・トリオ作品として聴けば、才気の感じられる面白い作品ということになるだろう。けれども、もはやジャズファンはコープランドにビバップ曲を期待しないだろう。発行当初と今現在では、評価が分かれる作品である。
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音響研究の嚆矢の邦訳、まず訳者解説を読むべき

2015-12-23 09:51:43 | 読書ノート
ジョナサン・スターン『聞こえくる過去:音響再生産の文化的起源』中川克志, 金子智太郎, 谷口文和訳, インスクリプト, 2015.

  メディア論のカテゴリに入る本ではあるけれども、音響研究という領域を新たに開拓したという位置付けがなされているらしい。原書はThe audible past: cultural origins of sound reproduction (Duke University Press, 2003)。音を機械で再現・増幅・記録する装置が、どのようなニーズや発想の下に造られたかというのを記す内容で、19世紀の聴く側の構えについての細かい検証が記述の中心となっている。

  メディア論によくあるような「レコードの登場で世界が変わりました」というのとはまったく異なるアプローチが採られている。音を周波数という形で視覚化する、医者が聴診器を使って分析的に音を聴く、電信の信号音を聴いて意味を読み取る、という19世紀に普及した先行技術を通じて、合理的に音を聴くという構えがもたらされ、それが電話・ラジオ・レコードと適用されていったのだという。ただし電話・ラジオ・レコードの受容も複線的であり、19世紀から20世紀初頭にかけて、今あるような使われ方以外の使われ方が想像され、また実際使われていたのだということが示される。例えば、電話は音楽用、ラジオは個別コミュニケーション用、レコードは家族の声や民族誌用というように。

  研究書であり、けっこう韜晦な文体で、しかも長い(A5版で600頁弱)ので、スラスラ読める本ではない。その面白さを理解するには、ある程度メディア論について知っておいたほうがいい。が、実を言うと、ウォルター・オングとかマクルーハンを少しかじったことのある僕でも、最初は何が新しいのか分からなかった(吉見俊哉を分かり難くしているだけ、とか思ってしまった)。なので、本書の意義を丁寧かつわかりやすく説明してくれる訳者解説を最初に読んでから、本文に取り組むことをお勧めする。
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当時最新だったブラジル音楽をラウンジ音楽化する

2015-12-21 09:25:09 | 音盤ノート
Paul Desmond "From the Hot Afternoon" CTI, 1969.

  ジャズ。米西海岸の白人アルトサックス奏者ポール・デズモンドのCTI録音二作目。前作同様、優雅なオーケストラを従えた機能的なラウンジ音楽としてパッケージされている。個人的には、RCA時代のようなスカスカした音を出す小編成での演奏よりも、厚いバッキングのこの時代の方が好みである。

  全曲Edu LoboまたはMilton Nascimento作で構成されているのが本作のポイントで、ボサノバ以降の新しいブラジル音楽の力を借りてエキゾチックな風味を加えた作品である。とはいえAirto Moreiraを中心としたリズム隊はボサノバのイメージの枠内の演奏に終始しているけれども。演奏ではギタリストとしてエドゥ・ロボ自身が3曲ほど参加しており、うち2曲で新妻のワンダ・サーとデュエットして歌を聴かせてくれる。各曲は入念に作りこまれているので集中して聴いても楽しめる。同時に、強く自己主張してこないのでBGM的に聞き流しても気持ち良い。

  2000年にVerveからリイシューされたCDにはオリジナル10曲に加えてボーナトラック6曲が収録されている。ボートラはすべて小コンボでの演奏で、歌もなし(CTIはマスターテイクが決まったらそれにだけオーケストラを後から被せたようだ)。いずれもデズモンドのソロのクオリティの高さがわかる好演である。
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中高年ならば少しばかり太っていたほうが長寿だ、と

2015-12-18 09:22:24 | 読書ノート
村上宣寛『あざむかれる知性:本や論文はどこまで正しいか』ちくま新書, 筑摩書房, 2015.

  コンセプトのわかり難い本で、最初の60頁ほどはSTAP細胞をまくらにした科学論、残りの150頁ほどは、ダイエット、長寿、仕事の採用、幸福感に関する現段階での科学的結論を紹介するもの。全体に通底するのは「システマティック・レビュー」による検証だが、背景に隠れてしまっており、主題的にはまとまりがなく感じられる。まえがきによれば、他の出版社で出版するつもりだったのにそこでは意図が理解されずボツにされたという。しかし、提供されている情報はとても興味深い。

  システマティック・レビューとは複数の科学論文をメタ分析してより正確で総合的な結論を得る手法。本書は、上記の4つの領域におけるレビューを読んで紹介するというもので、著者本人がレビューしているわけではない。その中身は「ダイエットの成否はカロリー摂取に尽きる。タンパク質は無関係」「睡眠時間7時間の人がもっとも長寿」「仕事のできる人とは一般知能の高い人だからそういう人を選ぶべし。面接は無駄というより有害」「ポジティブ心理学は疑似科学」などである。因果関係の判定で示された数値を挙げながら、ぶっきらぼうに断言してゆく著者の書きぶりが小気味良い。

  ただし、この情報量で新書だと、説明が端折られすぎていてそこが不満である。初期人類は肉食よりも草食だったとか、水生類人猿説だとかが唐突に出てきたりするのが、あまり深められることなく次のトピックに進んでしまう。また、レビューに使われているメタ分析の方法についてももう少し詳しく書いてほしかった。採用の話は、著者の前著とあまり変わっていないような気がする。とまあ問題はあるのだが、手っ取り早く最新の科学的知見が得られるというメリットは大きい。
  
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新しいことをやっているが、気づかれないままとなる可能性大

2015-12-16 13:45:41 | 音盤ノート
Food "This Is Not a Miracle" ECM, 2015.

  フューチャージャズの流れを組む実験ジャズ。Thomas Strønen とIain Ballamy というコンビに、前作から引き続いてChristian Fenneszが加わったトリオ作品である。今作ではフェネスが大活躍しており、ギターからグリッチ音、フィードバックノイズ音まで曲に多彩な味付けを施している。彼のサポートがとても良いだけに、却って主の二人のなんともあっさりした感覚がもったいないと感じる作品である。バルミーはもうちょい癖のある演奏をできないのか、とか、ストローネンはもう少し濃くて味のある曲を書けないのか、とかそういう思いがつのる。プロデュースはストローネン本人だが、外の人に任せてみるべきだったと思う。

  とはいえ、これをジャズといえるならば新機軸と言えるのではないだろうか。ジャズというジャンルでは、アドリブ開拓第一、次に曲の構造の工夫という優先順位がある。一方、ジャズへの新しいサウンドの導入という試みは昔からごくたまにあるものの、どちらかと言えばあまり盛んなほうではないだろう。本作におけるシューゲイズ風ノイズからグリッチ系の音を散りばめる工夫は、僕の知っている限りではかつて無かったものだ。せっかくの新機軸なのだから、もうちょい大胆かつ派手にやってほしかった。本作では地味すぎて、気づかれないまま継承されない可能性が高い。将来大御所ジャズミュージシャンがフェネスを起用する、なんてことは起こらないかな。

  
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日本にいながら英語を学ぶ場合、あまり幼すぎてもよくない、と

2015-12-14 12:05:20 | 読書ノート
バトラー後藤裕子『英語学習は早いほど良いのか』岩波新書, 岩波書店, 2015.

  第二言語習得についての研究報告。難しい内容ではないけれども、書き方がレビュー論文的であり、丹念に議論を追う必要がある。前半は言語習得の臨界期説の検証である。特に、移住によって母語とは別の言語環境に置かれてしまったケースにおける、移住先の言語の習得を扱っている。言語の習熟度をどう定義するかやそれをどう測定するかというこまごまとした議論が続き、結論として、はっきりとした臨界期は確定されていないけれども、年齢が上がると習熟度は落ちるという一般的な傾向があることが示される。

  では、やはり英語学習は子どもが幼いうちに始めたほうがいいのか。後半はこのような見方に対するどんでん返しとなっている。日本人の日本における英語学習のような、母語環境下での第二言語習得と、移住のようなまったく新たな言語環境に置かれるケースとは全然違う、と。前者のような、日常では母語を使い一日数時間だけ外国語学習するという状況においては、結局は学習時間と効率がものを言う。そしてそのような状況下では、幼児期よりももっと遅い時期(10歳ぐらい)の方が、第二言語を効率的に習得できるとのことだ。

  というわけで、早期英語教育には懐疑的な論調となっている。ただこの場合の「早期」は「幼児期」という意味で、小学校高学年における英語教育導入に反対というわけではないようだ。親にとっては、就学前の子どもを英語塾に通わせても、それほどよい投資にはならない可能性が高いということがわかってためになる。
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更新停止のまま消失していた29lib本館HPが新たに開設された

2015-12-11 13:09:58 | チラシの裏
  長らく更新停止状態のままだった「焼肉図書館研究会」旧HPだが、いつのまにかこの世から消えてしまい、その活動をごくたまに伝えるネット情報源は当ブログだけになっていた(すでにFacebookに別館があるものの内容の多くは焼肉パーティの写真である)。だが、今週初頭にメンバーから突如新HP作成の話が持ち上がり、今月の9日水曜に披露されたのが下記である。

  焼肉図書館研究会 http://www.nikulib.org/

  ページの下のほうにある「焼肉図書館研究会公式サイトについて:なぜいま復活したのか」によると、“先日、対外的な交渉を行うさいに、メンバーの一人が「焼肉図書館研究会」と言う名前を出すことができず、「図書館蔵書研究会」と名乗ってしまいました。そのときに、公式サイトさえあれば、堂々と名乗れるのに・・・と忸怩たる思いでした”。この事件を契機に、新HPの作成が企図された、と。えーと、この事件を引き起こしてしまったのは僕です。

  とある団体からデータの提供を依頼するという交渉の席での話。相手は初対面で、しかも組織の偉い人たち。こっちはお願いする立場。もしかしたら問題はないかもしれないけれど、人によっては「ふざけている」と受け取られる可能性もある。その可能性を考えると、依頼文書に「焼肉図書館研究会」と銘打つ度胸がありませんでした。メンバーの皆様、すいません。

  そもそもアンダーグラウンドに活動するつもりで適当に付けた名前だった。半分ギャグでもあった。それが「私が焼肉図書館研究会会員です」と、人前で堂々と名乗るようなものになるとは…。それもこれも、この若気の至りがなぜか10年以上も続いてしまい、メンバーもそれなりにキャリアを重ねてそこそこ目立つようになってしまったためである。メンバー全員齢40を越え、もはや焼肉のような脂っこいものよりも焼き魚のようなさっぱりしたものを食べたいという境地に至っている。でも、ここまで来たらもうとことん行くしかない、のか?
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前作から軌道修正してロック路線に立ち返るも、ちとマンネリ感あり

2015-12-09 08:39:33 | 音盤ノート
Eivind Aarset "I.E." Jazzland, 2015.

  ジャズのコーナーに置かれるだろう作品だが、ポストロックといったほうが音の感触に近い。かつて「フューチャージャズ」と呼ばれるムーブメントがあったが、その一角を占めたノルウェーのギタリスト、アイヴィン・オールセットの新作。

  あまり情報が無いのだが、聴いてみると、アンビエントかつ実験的だった前作を、ロック的だった前々作の上にまぶしてみたような作品であることがわかる。ほとんどの曲は、最初幽玄にはじまり、だんだん音数が増え、最後はギターがノイジーになってドラムが爆音で打ち鳴らされて終わる、というパターンである。メタル丸出しの曲もある。サウンド面でかつてほどの新しさを感じないのが辛いところ。作曲のバリエーションも無くて、一本調子で飽きる。前作はマンネリ打破の試みだったはずだが、結局元のさやに収まってしまったという印象だ。

  もうこの人はこの路線でずっとやってゆくのだろうか。彼が好んで演奏する曲はへヴィな曲ばかりで、聴く方は陰鬱な気分にさせられることが多い。しかし、代表作の"Light Extracts"の場合はサウンドにちょっとした軽みがあってそれが魅力だった。最近の作品はとことんダークになり、今作も70分以上その雰囲気が続いて辛い。
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