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米国通による米国映画のディティールを記号として読む本

2024-07-26 21:08:00 | 読書ノート
渡辺将人 『アメリカ映画の文化副読本』日経BP/日本経済新聞出版, 2024.

  米国映画における登場人物や場所の設定、小道具などから現代の米国文化を読み解くというもの。著者は慶應大学総合政策学部の准教授で、米国の選挙とメディアに詳しい。このブログでは別の著書『メディアが動かすアメリカ』をすでに採り上げたことがある。

  全体の章は、都市と地域、社交と恋愛、教育と学歴、信仰と対抗文化、人種と民族、政治と権力、職業とキャリアに分かれている。その中で、公共交通が貧弱なこと、日本人にはよくわからない大学入試システム、ウォーク系リベラルと労働者系リベラルの違い、同じ中華系でも台湾系・広東系と大陸系の対立があること、宗教がパートナー選択に強く影響すること、などなどが語られてゆく。挙げられる映画は1990年代から2010年代にかけて製作されたものが多く、ときおり1970年代以前のものも言及される。映画を観ていなくてもある程度わかるように書かれている。

  映画を通じて米国社会を知ることができる良書である。本書を読んだ後ならば、これまでより米国映画をより深いレベルで楽しめるだろう。だが、本書で与えられたあれこれの知識を知らなければよかった、と思わなくもない。今後は、画面に現れるさまざまな記号をきちんと読み解かねばならないと身構えて米国映画を観ることになるからだ。知識が無いことによって楽しむ、そういう娯楽への接し方が失われてしまった。
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