29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

事実を解説する文書を読む訓練

2008-06-23 09:45:41 | 図書館・情報学
 義務教育課程の国語で、生徒に「事実を解説する文書」を読む訓練を施してくれないだろうか?日常生活で、薬や電化製品の取扱い説明書に出会うことは多いはず。仕事に就けば職務規定だとか、業務マニュアルだとかを読まなければならないだろう。製品の仕様書や契約書を理解するにはある程度知識が必要だけど、それでも輪郭をつかめるぐらいの読解力があったほうがいい。

 教師としての僕の観察では、どの大学の学生もこの種の文書に慣れておらず、提示されても読まない・読めない傾向が見られる。一般に、司書資格課程をとる学生は、他の学生より読書家である。しかし、読んでいる本はほとんど小説など文学作品である。

 司書資格課程の講義で、検索システムのヘルプ画面や、『日本目録規則』や『日本十進分類法』に従って演習をさせようとしても、全然はかどらない。教員がそれらを一通り説明した後に演習に入ると、「さっきここに書いてあるって指示したじゃん」という箇所について学生が尋ねてくる。「ちゃんと読め」というと、節の頭からじっくり読み始める。ざっと読んで必要な部分だけを見つけるという読みのスタイルを知らない。

 学生諸君、君たちはプラモデルを作ったことがあるか? おじさんはガンダムのプラモデルで設計図などのマニュアルの読み方を覚えたぞ(たぶん)。

 最近では、コンピュータのマニュアルを筆頭に、駄目なマニュアルを批判することが多いみたいだ。僕としては、それと同時に、まともなマニュアルを読めない人々についても問題にして欲しいと思う。義務教育課程で、事実を解説する文書──たしかに無味乾燥で面白いものではないのだけれども──に慣れさせていないのだから、書けない・読めない人々が続出しても致し方ない。

 昔は商品やサービスの選択肢が少なかったのでそんな教育は必要無かったのだろう。しかし、今は選択肢が増えたのだから、消費者教育としてこの種の読解力の育成は急務である。画期的な商品が誕生しても、「わからないので買いません」では日本製品の質は向上しないだろうから。そういえばマニュアルが読めなくて工場を止めちゃった新入社員の話もどっかで聞いたな。
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ジャケ写で評価が落ちる?

2008-06-19 10:24:17 | 音盤ノート
Lonnie Liston Smith "Astral Traveling" Flying Dutchman rec.1973

 Rare Groove系のミュージシャンとして知られるLonnie Liston Smithだけれども、この最初のリーダー・アルバムはそのような印象を感じさせない。タブラを使ったリズムは細かいが、全然ファンキーではない。ソプラノ・サックスを中心に、ピアノを脇に配置した編成で、叙情的で美しい曲を奏でている。

 冒頭の"Astral Traveling"は、特に素晴らしく美しい。エレクトリック・ピアノを、星がキラリときらめく様に鳴らす(幼稚な表現で申し訳ない)彼のスタイルが存分に活かされている。もともとPharoah Sandersの"Thembi"(impulse)で披露されていた曲だが、Smith版のほうがメロディもリズムも輪郭がクリアになっている。

 もったいないのがジャケットの濃い写真。透明感あふれるこのアルバムの音と合っていない。Smithはこの後何度もジャケットに自分の姿を登場させるんだが、その垢抜けなさが彼の知名度と評価を低めているような気がする。
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文化への財政支援の帰結

2008-06-07 11:19:18 | 読書ノート
ハンス・アビング『金と芸術:なぜアーティストは貧乏なのか』山本和弘訳, グラムブックス, 2007.

 著者は、ヨーロッパを例に、政府の財政支援が多くの若者を芸術活動に引き寄せ、結果的に経済的に貧しくなるキャリアを選択させていると主張する。

 芸術への財政支援は、民間では需要されない量の芸術の生産活動を可能にし、さらに政府による権威を与える。芸術は、参加がしやすく、また社会的な威信も得られるという魅力的な人生の選択となっている。

 だが、成功するのは一握りの芸術家だけで、大半の芸術家は芸術以外の道で生活を成り立たせなければならない。二流以下の芸術家への支援は、長期的な芸術活動を可能にするというメリットがある一方で、芸術以外での職業のキャリア形成を阻害し、成功しなかった場合の人生を不幸にする。また、他の生産活動に回るべき労働力が、芸術分野に集中するのことは社会的に損害を与えるとも。

 以上が僕の見たポイント。図書館・情報学屋としては、広く「文化を財政的に支援することの帰結」として読んだ。

 ただ、日本の映画界のように、公的に支援されてないのに多くの人材が参入し、そして貧乏になっている世界もある。そういうわけで財政支援そのものよりも、社会的威信のほうが重要な契機なのではないかと思う1)。また、その威信を与える力は政府だけが握っているわけでもないようだ。

 しかし、金ではないとしたらなんのために威信を獲得しようとするのか? 進化心理学は「モテるため」と言ってるけど2)

-------------

1) ただし、経済的支援が無いことは、アーティストとしてのキャリアを早く諦めさせ、若いうちに別の職業に就くよう促す効果があることは重要なところ。
2) ジェフリー・F.ミラー『恋人選びの心:性淘汰と人間性の進化』長谷川眞理子訳, 岩波書店, 2002.
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輸入盤を買って後悔

2008-06-06 13:24:00 | 音盤ノート
Bebel Gilberto "Momento" Ziriguiboom, 2007.

 個人的なBebel Gilbertoの法則。1.輸入盤屋で輸入盤新作を見つけて購入。2.その後に同じ輸入盤店にいくと日本盤が出ていることを知る。3.日本盤に輸入盤未収録のボーナストラックが収録されていることを知る。4.最初から日本盤を買えば良かったと悔やむ。──今回もはまりました。

 アルバムのほうはいつもどおりで、つまり高い水準。この人が低音で囁くように歌うときは、迫力があって好きだ。
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暗黒音楽研究・その1

2008-06-03 18:56:25 | 音盤ノート
Wayne Shorter "Odyssey of Iska" BlueNote rec.1970

 Shorterのキャリアでは、Weather Report参加前の、BlueNote最後の録音となる。暗い。そして素晴らしい。ネクラ音楽ファンなら必聴。特に最後の"Joy"は、完璧にダークかつヘヴィで、個人的に好きな曲だ。

 最初の三曲は、リズムを廃したアブストラクトな曲で、ヴィブラフォンが明滅する星のごとく闇夜にかすかな光を与える中、Shorterのソプラノ・サックスが肝試しのこんにゃくのように肌をなでる。四曲目は静かなボサノバで、アルバム中唯一、叙情性を感じさせる曲だ、暗いけど。五曲目の"Joy"は、地を這うようなベースラインのモード曲で、暗くそして熱く盛り上がる。

 アルバム全体が、聞き手をして闇夜の空を見上げさせ、そして地底に落とすという構成となっている。まさに暗黒音楽の教科書である。かつて僕は"暗黒音楽研究"というサイトを運営していたことがあった。とにかく暗い音楽CDを紹介する主旨のものである。すでに更新を止めているが、今なら筆頭にこの作品を取り上げたいと思う。

 ところで5年ほど前に新宿のディスクユニオンで買ったこのCD。たしか中古で1000円弱の価格だった。それが本日付けのAmazonの中古市場で10,000円以上の価格になっている!! Yahoo!のオークションでも5000円程度の値が付くようだ。ふつうの金融商品よりよっぽどいい投資対象である。売る気はないけどね。
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