森岡正博『生まれてこないほうが良かったのか? :生命の哲学へ! 』(筑摩選書), 筑摩書房, 2020.
哲学。反出生主義を手掛かりに、誕生肯定の哲学および生命の哲学の構想を示すという内容で、タイトルにある問いに対してはっきりとした結論が出ているわけではない。そうではなく、問いを変化させることで回答の方向を変えてゆくプロセス自体を見せる本である。哲学的営みそのものを読ませるわけだ。著者は早稲田大学の先生で『草食系男子の恋愛学』(メディアファクトリー, 2008)を書いた人である。
反出生主義の一つの主張は「苦痛があるから存在しないほうがよい」というものである。ここから「苦痛を感じる存在は絶滅してしまったほうが世界は善なる状態になる」という帰結が導かれる。はたしてそこまで言えるのか。そもそもの前提は正しいのだろうか。反出生主義自体は根が深くて、古代哲学にまでさかのぼることができる。というわけで本書は、ゲーテの『ファウスト』をまくらにして、古代ギリシア哲学、ショーペンハウアー、古代インド哲学、仏教、ニーチェと辿ってゆき、先人がこの問題をどう解決してきたかを探ってゆくという構成である。
しかし、俎上にあげられている輪廻転生や永遠回帰を世界観として持つこれら思想が参考になるのか、という疑問は避けられない。その論理が「現在の人格で経験している人生がつらいから」というものではなく、「苦痛のあるこの世界に何度も生まれ落ちることを忌避する」という形の反出生主義だからだ。「生まれ変わりが起こる」という前提を受け容れない人のほうが多いだろう。このような難点はあるものの、それぞれの哲学や思想が苦痛に対して「生き方」としてどのような解決を目指したのかについては興味深いところが多い。例えば、自殺を積極的に肯定する考え方ではないようだ(ただし絶対ダメだというわけでもない)。
以上。生き方を直接指南するような「正統な」哲学は近年なかなか無かったものなので、新鮮さを感じた。アカデミックな世界では、分析哲学や哲学史が主流だからね。また、仏教がいかに洗練された思想なのかがよくわかった。続編もあるとのことなので、期待して待ちたい。
哲学。反出生主義を手掛かりに、誕生肯定の哲学および生命の哲学の構想を示すという内容で、タイトルにある問いに対してはっきりとした結論が出ているわけではない。そうではなく、問いを変化させることで回答の方向を変えてゆくプロセス自体を見せる本である。哲学的営みそのものを読ませるわけだ。著者は早稲田大学の先生で『草食系男子の恋愛学』(メディアファクトリー, 2008)を書いた人である。
反出生主義の一つの主張は「苦痛があるから存在しないほうがよい」というものである。ここから「苦痛を感じる存在は絶滅してしまったほうが世界は善なる状態になる」という帰結が導かれる。はたしてそこまで言えるのか。そもそもの前提は正しいのだろうか。反出生主義自体は根が深くて、古代哲学にまでさかのぼることができる。というわけで本書は、ゲーテの『ファウスト』をまくらにして、古代ギリシア哲学、ショーペンハウアー、古代インド哲学、仏教、ニーチェと辿ってゆき、先人がこの問題をどう解決してきたかを探ってゆくという構成である。
しかし、俎上にあげられている輪廻転生や永遠回帰を世界観として持つこれら思想が参考になるのか、という疑問は避けられない。その論理が「現在の人格で経験している人生がつらいから」というものではなく、「苦痛のあるこの世界に何度も生まれ落ちることを忌避する」という形の反出生主義だからだ。「生まれ変わりが起こる」という前提を受け容れない人のほうが多いだろう。このような難点はあるものの、それぞれの哲学や思想が苦痛に対して「生き方」としてどのような解決を目指したのかについては興味深いところが多い。例えば、自殺を積極的に肯定する考え方ではないようだ(ただし絶対ダメだというわけでもない)。
以上。生き方を直接指南するような「正統な」哲学は近年なかなか無かったものなので、新鮮さを感じた。アカデミックな世界では、分析哲学や哲学史が主流だからね。また、仏教がいかに洗練された思想なのかがよくわかった。続編もあるとのことなので、期待して待ちたい。