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図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

最近の米国における日本産マンガの普及について雑感・その2

2021-05-16 16:13:17 | 図書館・情報学
  前回の続き。ニューヨーク公共図書館ブログに掲載されたマンガ紹介記事のリンク集を作ってみた。30点ある記事あるうちの2つを除いたすべてをAmanda Paganという著者が書いている。もちろん日本の公共図書館でもマンガをある程度は所蔵している。とはいえ、いまだ公式HPで堂々とお勧めするというものとはみなされていない。日本では少年週刊誌連載中のシリーズを所蔵しない(とはいえ未完結作品の所蔵を見ないというわけでもない)だろうけれども、あちらはお構いなしの様子。『監獄学園』を勧める日本の公共図書館というのも想像できないが、あちらはエロシーンがあろうがBLだろうがレーティング表示をしっかりしておけば所蔵OKという考えみたいだ(とはいえ米国でも積極的には所蔵されないだろうが)。

  こういうのを見ると日本の図書館は保守的だという認識に陥りがちだ。が、しかし、日本の公共図書館がマンガ提供に積極的でなかったというおかげで、日本でマンガが商業的に栄えたという可能性もある(もちろん無関係であるという可能性もあって、因果関係はよくわからない)。マンガをどこかでアーカイブしておく必要性については同意するものの、その話と広く無料でアクセスできるようにするという話は別である。マンガの図書館所蔵をめぐる議論は昔からあるものの、日本の出版における主力商品を公共図書館が需要に応じてただで提供してしまうことにたいする躊躇は強い。それが、現時点でマンガ所蔵に積極的になれない大きな理由となっているだろう。しかし、米国の公共図書館は出版社のことは気にしないんだね。

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by Amanda Pagan

April Fools Comedy Special! Our Favorite Funny Manga! (March 30 2018)
  https://www.nypl.org/blog/2018/03/29/top-7-comedy-manga-anime-april-fools

A Beginner's Guide to Manga (December 27 2018)
  https://www.nypl.org/blog/2018/12/27/beginners-guide-manga

A Beginner's Guide to Science Fiction (January 2 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/01/02/beginners-guide-science-fiction

Manga Monday Picks: Shonen Jump Classics (January 10 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/01/10/manga-monday-picks-shonen-jump-classics

Manga for Middle Schoolers: Guide and Recommendations (February 4 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/02/04/manga-recommendations-middle-schoolers

Everybody Say Love: Romance Manga (February 12 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/02/12/manga-love-stories-best

Manga Monday Picks: Shojo Beat Favorites (February 19 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/02/19/manga-monday-recommendations-shojo-beat

A Beginner's Guide to Mecha (April 4 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/04/04/beginners-guide-mecha-manga-anime

A Beginner's Guide to LGBTQ+ Manga (June 17 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/06/17/beginners-guide-lgbtq-manga

A Beginner's Guide to Isekai (July 15 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/07/15/beginners-guide-isekai-manga

Get Your Head in the Game! Sports and Game-Based Manga Recommendations (July 24 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/07/24/game-based-manga-recommendations

Nom-Nom November: Food and Cooking Manga (November 25 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/11/25/food-related-manga

End of the World as We Know It: Apocalyptic, Post-Apocalyptic, and Dystopian Worlds (December 19 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/12/19/apocalyptic-post-apocalyptic-dystopian-worlds
  
A Look Back: The Most Loved Books of 2019 by Mid-Manhattan Librarians (January 14 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/01/07/mid-manhattan-librarian-book-recs

A Beginner's Guide to Manga 2: Manga Fewer than Ten Volumes (January 23 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/01/23/beginners-guide-manga-2-manga-less-ten-volumes

Award-Winning Manga 1: General Category (September 8 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/09/08/award-winning-manga-general-category

Award-Winning Manga 2: Shojo Category (September 18 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/09/18/award-winning-shojo-manga

Award-Winning Manga 3: Shonen Category (October 22 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/10/22/award-winning-manga-shonen-category

A Beginner's Guide to Manga Classics (Novemver 3 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/11/03/beginners-guide-manga-classics

Blast from the Past: Historical Fiction Manga (Novemver 13 2020)
  https://www.nypl.org/blog/2020/11/13/blast-past-historical-fiction-manga

Manga for Days: Manga 25 Volumes or Fewer for Teens (March 12 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/03/12/manga-days-manga-25-volumes-or-fewer-teens

Art and War: World War II Graphic Novels (March 23 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/03/23/art-war-wwii-graphic-novels

Manga for Days: Manga 25 Volumes or Fewer for Adults (March 25 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/03/25/manga-days-manga-25-volumes-or-fewer-adults

A Feast for Fans: Manga of Epic Proportions (April 13 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/04/13/feast-fans-manga-epic-proportions

Jump on the Bandwagon: New and Ongoing Manga To Get Excited About (April 30 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/04/30/ongoing-manga-get-excited-about

Beginner's Guide to Manga 3: Genres and Subgenres (May 4 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/05/04/beginners-guide-manga-3-genres-and-subgenres

Battle Manga! All-Out Fight to the Finish! (May 7 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/05/07/battle-manga-all-out-fight-finish

Beauties and Beasts: Monster Manga (May 12 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/05/12/beauties-and-beasts-monster-manga

by Joe Pascullo
Dystopian Manga You Need To Read (February 6 2019)
  https://www.nypl.org/blog/2019/02/06/best-dystopian-manga

by Keiko Sugimoto
On the Bookshelf: Classic Manga Series to Revisit (April 1 2021)
  https://www.nypl.org/blog/2021/04/01/classic-manga-series
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学校図書館における貸出記録の目的外利用

2018-07-05 13:42:39 | 図書館・情報学
  「炎上しているらしいが、三郷市の彦郷小学校は称賛されるべき」の続き。昨日、都留文の日向良和先生フェイスブック記事のぶら下がりで、新出(@dellganov)氏と議論した話の続きをここに書く。極論めいており、書いている本人も納得してはいない。思考実験として読んでほしい。

  前のエントリでは、情報漏洩を基準にすると、学校図書館と学校の間に境界線を引くことはおかしいとして彦郷小学校の件への「図書館の自由に関する宣言」の適用を退けた。しかし、目的外利用によるある種のプライバシーの侵害があることが指摘された。図書室における本の貸借の管理を目的とした貸出記録であるのに、それを先生が読書指導に転用するのは、「自己情報コントロール権」を侵しているということになる。

  これはなるほどと思った。貸出記録に基づいた読書指導を、個人情報の目的外使用として批判することは妥当であるように思える。論点がいくつかある中で、唯一スジのよい批判に思える。しかし、同時にこの論理は重大な帰結ももたらす。先生による貸出記録の目的外使用が禁止されるならば、司書教諭や学校司書によるそれも禁止されなけれならない、という。児童の「自己情報コントロール権」は、学校図書館の運営者による読書指導に対しても制約をもたらすと考えられる。

  「先生には目的外利用を認めず、学校司書や司書教諭には認める」ということがダブルスタンダードとならない、そのような論理はあるのだろうか。目的外利用を正当化できる基準は、児童生徒の同意があるかどうかだ(「自己情報コントロール権」に対して本人の同意以外の基準があるのだろうか)。おそらく明示的な手続きを採っている学校図書館は少ないだろう。ならばまずは、児童と学校図書館との間に暗黙の合意を想定するというのが抜け道として考えられる。学校図書館の貸出記録が読書指導に使用されることについて、入学時点で合意があると見なす、などだ。しかしながら、まったく同じ論理で児童と学校との間の合意の想定も可能であろう。したがって、これは図書室の管理者と一般教員の間を区別する理論を提供しない。結局、暗黙の合意の想定は、形式的な手続きを踏んでいないので苦しい。

  むしろ一般教師と学校図書館の運営担当の間に優劣をつけるよりも、単純に「司書教諭や学校司書による、児童の同意のない貸出記録に基づいた読書指導を禁止する」方が、論理的に一貫している。禁止をデフォルトとしても、それはサービスの高度化を妨げる弊害があるものの、他の読書振興策も採ることができるので、司書教諭や司書の業務に対して致命的な制約を課すことはないはずだ。仮に禁止がデフォルトで、その後貸出記録に基づいた読書指導をしたいとしても、そういった指導をはじめるのにそれほどコストがかかるようには思えない。その旨を事前にアナウンスするなどなんらかの同意を得た形をとればよいだけだからだ。そのようなアナウンスをすると図書室利用者が少なくなる可能性もあるが、それはプライバシー保護とのトレードオフであり仕方がない。

  禁止のデフォルト化はやりすぎだと感じられるかもしれない。それを可能にする別の解釈は、「学校において貸出記録はそもそも読書指導に使用される情報源として位置付けられるのが常識的であり、目的外利用の際に児童生徒の同意など必要ない」、というスタンスを採ることである。このとき貸出記録とは、教育的関心から隠されるべきプライバシーではなく、教育上の観察対象であるということだ。これならば、貸出記録をもとにした児童への同意なき読書指導を続けることができる。しかし、このような見方がどの程度支持を受けるのだろうか。僕にはよくわからない。

  いずれにせよ、学校図書館と学校の間、あるいは一般の教員と司書教諭・学校司書の間に児童のプライバシーをめぐる境界がある、というわけではないことだ。一般教員に当てはまるならば司書教諭や学校司書にも当てはまり、学校に当てはまるならば学校図書館にも当てはまるという話である。児童の人権からアプローチするならば、学校そのものだけでなく、学校図書館の運営に従事する教職員の活動も制限されることになる。しかし、必ずそうなってしまうのだろうか。現時点でのアドバイスできることは、学校側は「学校図書館の貸出記録は読書指導の参考にされることがありうる」とアナウンスしておくことだ。
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炎上しているらしいが、三郷市の彦郷小学校は称賛されるべき

2018-07-03 16:12:20 | 図書館・情報学
  三郷市の学校図書館についての紹介記事が炎上しているらしい。僕にも首を突っ込ませてほしい。発端はハウスコムが運営するサイトLivin Enterteinmentの記事「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校」で、同小学校は児童の学校図書館利用履歴のわかるデータベースを作って読書指導に利用しているという1)。記事は同小学校を読書教育を成功に導いた美談として採りあげている。だが、この話がプライバシーの保護をうたう「図書館の自由に関する宣言」に触れるということでネット上で批判されて炎上し、キャリコネニュースを通じて校長が謝罪する顛末となっている2)

  まず断っておくと、僕は「図書館の自由」の適用対象に学校図書館を含めることは妥当ではないと考えている。別件でそれについて述べた。しかし、疑問に感じたのは、今回の話はそもそも「図書館の自由」案件なのだろうか、ということである。

  学校図書館にとって学校の先生は、「図書館の自由に関する宣言」でいうところの「外部」なのか?読書指導のために貸出履歴が先生に知られることはプライバシーの侵害ということになるのだろうか。そうは考えられない。読書指導は学校図書館の運営の一環であり、したがって彼らは内部の人たちだと言える。また通常、成績などの児童生徒の個人情報は、学習指導が利用目的であるならば学内では共有可能な扱いとなっていることだろう。学校図書館の利用記録が、そうした個人情報とは異なる扱いを受けるべき特別な情報だとみなすことはできない。いったい、どのような実害があるというのか。しかも利用記録のデータは学校図書館の範囲内であって、家庭での読書を対象としていない。このデータが学外に漏れたら問題となるのは間違いないけれども、学内で先生たちに指導目的で開示されるというのは正当だと思える。

  なお、キャリコネニュースによれば、彦郷小学校側は児童の学校図書館の利用回数と読書ジャンルを把握しているだけで、読んだ書籍のタイトルを把握しているわけではないとのことである。これで安心なのだろうか?いや、そうじゃないだろう。それぞれの児童に合わせた綿密な読書指導を試みるならば、読んだタイトルまで教師が把握しておいたほうが良いはずである。ジャンルとか利用回数だけでは適切な推薦などできないだろう。データベース化しているならば、成績などとも連動させて分析できるはずだ。データが活用されて学力向上のためにより効果的な読書指導が展開されていくのは、学校図書館にとって望ましい話である。

  もう一つ別の論点があった。「大人による読書指導がキモい」という話だ。僕も中二のとき、親から吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を読むよう薦められて「ケっ」と思ったクチだ。親が買ってきた岩波文庫版は、しばらく積読にしてその後こっそりと売り払った。中身は読んでないので何も言えないが、メッセージ性に溢れた本を我が子に読ませようとするという親の振る舞いが、説教の別バージョンのように感じられて嫌だったのだ。なので直感的には読書指導に反発したくなるのはよくわかる。

  しかし、そうだからと言って親や教師は読書指導をやめるべき、ということにはならないだろう。子どもに本が紹介される機会などたくさんあるわけで、友達先輩知人の誰それから、twitterでフォローしている有名人から、目にしたドラマや映画の原作から、Amazonのレコメンドからなどなど。親や教師のように権力上の関係がないから反発を呼びにくいけれども、それらだって子どもを特定の読書へ導こうとする行為であって、趣味嗜好やイデオロギーに介入しようとしているということには変わりない。親や教師だけそれを控えるべきだということにはならないだろう。それが子どもの側の反発を呼び起こすならば、効果的な方法でなかった、というだけのことだ。先生がやるより機械にやらせるほうが「主体的な選択」がなされたかのように感じられてよろしいというなら、推薦をAI化するというのもありだろう。みんな喜んでAmazonのレコメンド商品を買っているのだし。
  
  というわけで、これは称賛されるべき案件だろう。学校図書館が当の学校の教育と無関係な聖域であるかのようにみなすのは、学校図書館を学校にとって面倒くさい存在にするだけなので、やめたほうがいい。というかやめてくれ。図書館が忌避されるようになるだけである。的外れな理論で成功している読書指導を殴りつけることは、その学校の児童にとって不幸な話でしかない。個人的に見聞きした範囲では、校長先生が学校図書館に関心を持ってくれて、担任の先生が個別児童の読書指導をしてくれるなんて、全国的にみればけっこうまれなことである。学校図書館への無関心こそ、読書に価値を置く人たちが避けたいことのはずだ。

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1) Livin Enterteinment 「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校」 (2018.6.29)
  http://media.housecom.jp/misato/

2) キャリコネニュース 「三郷市の小学校の読書促進策に批判殺到「担任が児童の読んだ本を把握し個別指導」って本当?」 (2018.7.2)
  http://media.housecom.jp/misato/
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文教大の司書資格課程専任教員の公募について

2018-05-15 08:22:20 | 図書館・情報学
  現在JREC-INに文教大学の司書資格課程専任教員の公募が出ている。僕の後任者の公募ということになる。採用を決めるのは中の人であり、部外者となった人間は沈黙するというのが正しい振舞いなのかもしれない。しかし、五年前に文教大学に採用された際に「定年まで頑張ります」と大見得を切りながら、今や脱走兵となってしまった僕である。文教大に対しては懺悔の気持ちがあり、贖罪のために十分な応募者が集まるようこのブログで宣伝をしておきたい。それと個人的にこの件で問合せを受けたりもするので、公平を期すのとミスマッチを防ぐためという理由で応募者に情報提供もしておきたい。

  文教大学の司書資格課程は2013年に出来たばかりで、今年で6年目となる。教育学部の影響が非常に強くて、同じ越谷キャンパスにある文学部と人間科学部にも教職志望者が多い。教師以外の多様な進路に卒業生を送り出したいと文学部は長年考えていて、それで司書資格課程が設置されたと聞いている。司書課程は文学部と人間科学部の学生のみ受けることができ、その学生数は一学年おおよそ50~60人、必修科目は2年次~3年次に取得するようカリキュラムが組まれている。専任教員になるとゼミを含めて半期6~8コマを持つ(昨年度僕は6.5コマ持った)。担当者としては、課程に何か変更があったときの対文科省の手続き(事務と共同で)や、非常勤講師を手配することも重要な仕事である。なお同大学に司書教諭課程もあるが、教育学部の管轄なので関知しない(ここ重要。ただし非常勤講師探しを頼まれることはある)。

  所属は文学部の英米語英米文学科となる。なので「英語研究基礎演習」なる初年次教育科目を教えることになる。僕もこの授業を担当したが、日米の小学校を比較した論文を使いながら、レポートの書き方やらプレゼンのやり方を教授した。特に英語を教えたりはしていない。司書資格課程の授業を持つことを考えると、そうたくさん英文科の授業を持つことはできない。英文科所属教員としての身の処し方は考えなければならないところで、学科の授業を持たない分、裏方仕事で貢献する必要がでてくる。個人的には学科の仕事は一応こなしてきたと思うけれども、もっとやるべきだったかもしれない。このほか委員会がある。その負担は所属する委員会次第だが、司書課程の担当者ということになると学部教務委員になるのは確実だろう。

  で、公募である。公募は研究業績と経歴で高スペックなものが勝つ、ただそれだけである(もちろん例外はある。ちなみに文教大は本命不在のガチ公募である)。すなわち他の応募者との相対評価で決まる。しかしながら、自分以外のいったい誰が応募するのかはわからないはずだ。ならば、イチかバチかで応募してみるのはよいと思う。もしかしたら面接にこぎつけることができるかもしれない。なお今年度、図書館情報学分野ですでに多くの異動・新規採用があったので、来年度着任のこの公募にずば抜けたスペックの応募者はいないのではないか、と個人的には予想している。幸運を祈る。
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早稲田大学での日本図書館情報学会

2018-05-13 10:39:58 | 図書館・情報学
  日本図書館情報学会の研究集会があったので会場の早稲田大学に行ってきた。僕が早稲田大学を訪れるのは学生時代以来で、20年以上前の学園祭でのこと。まだ学園祭を革マル派が仕切っていた頃で、入場にあたってパンフレットを千円で買わされた記憶がある(このパンフ代が彼らの資金源になっていた。今は革マル派は排除されている)。植木等の『日本一のホラ吹き男』で出てくる1960年代のキャンパスと、僕がみた1990年代のキャンパスはあまり変わらないという印象だった。今回訪れたら少々様変わりしていて、昔ながらの教室棟と、高層ビルなど新しい建物が混在していた。立て看板も少なくなっていた気がする。

  学会での仕事は司会(公式)と異動のあいさつ(非公式)である。中央大の小山先生とのペアでの司会だった。彼は数年前まで日大の文理学部にいたので、僕の前任者ということになる。暇なときに「なぜ日大をお辞めになったのですか」と尋ねようと考えていたのだが、そのような機会がくることはなかった。ただし、こういう恐ろしいことを聞く前に彼ともう少し親しくなっておく必要があるかもしれない。今回の学会は来場者が多くて盛況で、かなりの数の知人に会うことができた。早い時間帯で予想していたよりも多くの人にあいさつしたので、午後の進んだ時間にお会いした田村先生や上田先生に渡す名刺が無くなってしまった。不覚である。

  発表では尚絅大学の桑原芳哉氏の「日本の公共図書館は何館か:統計調査の差異に関する考察」が面白かった。2015年のJLAの『日本の図書館』と文科省の社会教育調査の間に存する全国図書館数のズレを問題にする内容で、二つの調査結果を比較しながらどこで漏れまたは過記載が起こっているかを検証していく。カウント方法、定義の問題、回答ミスなどを指摘しながら、最終的に発表者なりの推計値を出してきれいに締めくくっていた。細かい数値は忘れてしまったのだけれども、3300館以上にはなるらしい。

  今回、夫婦で学会に来ている、というケースもけっこう見かけた。独身者には「発想を変えれば学会だってデートに使える」とアドバイスできるかもしれない。いやまあ、会場内で夫婦二人でいるところを見せたりしないので、あちらもそれなりに気を遣ってはいるみたいではある。
  
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金額と冊数でみた古書市場の規模

2017-12-18 20:42:43 | 図書館・情報学
  古書市場の規模について調べてみた。環境省は古書を「リユース書籍」と定義して、三年に一度市場調査を行っている(『平成27年リユースの市場動向調査結果(暫定版)』)。それによれば2015年の「リユース書籍」の市場の規模は787億円である。リサイクル通信では、2016年の「リユース書籍」の市場の規模は995億円と見積もられている(『中古市場データブック2017』)。出版科学研究所に従うと、2016年の新刊市場の規模は1兆5,220億円とされる(『2017年版出版指標年報』)から、金額で見れば古書市場は新刊市場のおよそ5%~6%の大きさとなる。

  金額でみた場合の古書市場の規模は小さい。冊数ではどうか。ブックオフの2013年の販売部数は2億7,525万冊と報じられている1)。2016年の数値は不明だけれども、同年も2013年と同程度であると仮定する。ブックオフの古書市場におけるシェアが53.9%と見積もられている(『中古市場データブック2017』ただし金額ベース)ことをもとに推計すると、古書市場全体で年間およそ5億1千万冊の販売部数があることになる。出版科学研究所によれば,2016年の推定販売部数は6億1,769万冊である(『2017年版出版指標年報』)。したがって,販売部数を基準としたとき,古書市場は新刊市場のおよそ83%の規模となる。ブックオフ単体でも44%となる。

  けれども,これは高めの見積もりだ。というのも、単価の高い書籍を扱う従来の古書店がまだ多く存在しているし、また古書市場の数値には雑誌が含められているからである。これらを考慮すると、古書市場全体の書籍の実際の販売部数はもっと少なくなるはずであり、新刊市場に対する規模もこれより低くなるはずである。それでも、新刊市場にとって無視できない大きさであることは確かだろう。

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1) 新文化「ブックオフ,2013年の販売冊数は2億7525万点」『新文化HP』, 2014/1/27.
  http://www.shinbunka.co.jp/news2014/01/140127-02.htm
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川口・金澤論文「公共図書館によるクラウディングアウト効果と公共貸与権」について

2017-12-07 20:16:33 | 図書館・情報学
  図書館関係者の間で話題となっている川口・金澤論文1)を読んでみた。まず「やっと出たか、図書館所蔵と新刊売上の負の相関」というのが第一印象。図書館関係者の間では十年前から論争があったけれども、小規模なデータを使った議論が多くて決定打が無かった。今年になって、経済学者の浅井澄子(明治大学)と貫名貴洋(広島経済大学)がそれぞれ関連する論考2)3)を発表していて、図書館の貸出と売上の低下の間の因果関係を否定していた。「やはり図書館の影響はないのかな」と関係者──僕も含めて──も思い始めていたところだった。それが年末に出たこの論文で覆されたわけで、その衝撃は大きい。

  浅井・貫名ともにタイトル間の違いを考慮しないマクロデータを使っての検証だったが、川口・金澤論文は、個別のタイトルの所蔵数と販売冊数を突き合わせるという、ミクロデータを使っての検証である。2017年の4月から7月の毎月の、自治体単位での所蔵と売上数をデータとして回帰分析をかけている。自治体規模、発行後の時間経過による売り上げ減少の影響も統制されている、その結果、需要の多い書籍の売上は図書館所蔵によって妨げられるということが明らかになった。ベストセラー本の場合、もし図書館所蔵がゼロならば売上は50%も増えるという。ただし、需要の少ない書籍に対する図書館所蔵の影響は明らかではなく、貸出の影響もはっきりしていない。

  ありそうでなかなか確認できなかった「図書館の影響」を数字で裏付けたという点で、これはめちゃくちゃ意義の大きい論文だろう。出版産業の損害をどう補償するかという議論も再燃しそうである。需要の高い書籍に限って図書館の影響がみられるはずと予想していた薬袋先生は正しかったわけだ(参考)。

  ただし、である。採用されたモデルだと、図書館の影響の値は大きく出過ぎてしまうように見える。というのも、古書の販売も、新刊の売上に影響する要因として考慮すべきだからである。古書の供給数もまた発売後だんだんと増えていくので、図書館所蔵と正の相関関係を持っているだろう。そうすると、投入された独立変数「所蔵数」は、実際の図書館所蔵数と古書供給数を含んだ指標となってしまっている可能性がある。民間による古書販売は「クラウディングアウト」の定義から外れるもので、これはきちんと分離されるべきものだ。個人的には古書店による新刊の売上への影響はそこそこあると考えるので、まだまだ議論は尽きないだろう。

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1) Kohei Kawaguchi / Kyogo Kanazawa "Crowding-Out Effects of Public Libraries and the Public Lending Right" SSRN, 2017.
http://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3082016

2) 浅井澄子 "公共図書館の貸出と販売との関係" 『InfoCom review』(68), 2017.
http://ci.nii.ac.jp/naid/40021105065

3) 貫名貴洋 "図書館貸出冊数が書籍販売金額に与える影響の計量分析の一考察" 『マス・コミュニケーション研究』 90(0), 2017.
http://ci.nii.ac.jp/naid/130006153884
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「文庫本貸出し禁止論」に持っていかれた図書館大会

2017-10-13 22:18:23 | 図書館・情報学
  第103回全国図書館大会に行ってきた。会場は代々木公園のオリンピックセンター。僕は出版流通委員会の委員なので、午前に当委員会主催の分科会の運営、午後に書協主催の分科会のお手伝いをした。午前の分科会は、運営委員ながら僕が登壇して基調報告者となった。昨年の日本図書館情報学会にて安形輝(亜細亜大)が発表した「公立図書館における図書購入の実態」を、今度は図書館員向けに説明するというものである。書籍購入時の割引率など、金の話だ。一応名刺を交換した間柄の人も含めて、僕が話を聞くことができた人たちの名を以下に挙げるけれども、「内輪の話」感を避けるために敬称略で記すのを許していただきたい。

  出版流通委員会として、これまで出版社の話ばかり聞いてきた──特に書協との関係を重視してきた──のだが、そういえば小売書店と図書館との関係を議論したことがなかった、ということでこの企画となった。僕以外の登壇者は高島瑞雄(日本書店商業組合連合会)、田中伸哉(白河市立図書館長)、永江朗(日本文藝家協会理事)である。論点を明確にするために「出版社がつぶれたら図書館は困るが(地域の)小売書店がつぶれてもそれほどではない」というスタンスで僕は議論した。このため、コスパ至上主義者かのような反感をもった聴講者もいたかもしれない。図書館への納入をめぐっては、ひとくちに「小売」といっても、本社が東京にあるような大手業者と地元の零細な小売書店とでは対立があるようだ。図書館は後者とどう関わっていくべきか。すぐに答えが出る話ではなかったけれども、まずは小売書店が、出版社とは異なる独自の利害を持った存在として、はじめて議論の俎上に上がったということ、これが重要だろう。

  午後は書協主催の分科会で、持谷寿夫(みすず書房社長)、根本彰(慶應義塾大学)、松井清人(文藝春秋社社長)、岡本厚(岩波書店社長)という登壇者である。特に論点を決めず、図書館関係者と出版関係者が言いたいことを言ってお互いを知る、という方向感の企画である。前日に、文春社長が「文庫本の貸出し禁止を求める」内容の報告をするということで、すでにニュースになっていた。というわけで、会場には複数の新聞社のみならず、TBSとNHKのテレビカメラまで入っていた。文春社長の弁によれば前日のそれは意図的なリークではないとのことだが、ちと怪しい気がする。今日の話は夜にはNHKのニュースになっていて──ただしラジオで確認した──、翌日の新聞にも出るだろうから、これは彼の狙い通りなんだろう。この提案の中身はさておいて、話題の作り方が非常に「上手い」と思う。この件で我らが出版流通委員会委員長・瀬島健二郎(文化学園大学)がNHKのテレビインタビューを受けていたが、どう使われたのだろうか。テレビを見て知っている人がいたら教えてほしい。

  毎年ルーティンでやっていることではあるものの、今回の大会は個人的には楽しいものだった。登壇したり、昼食時に議論したり、話題の分科会に参加できたということもある。なかでも特に、僕が学生時代からいくつかその著書を読んできた、永江朗と同席できたことが喜ばしいことだった。
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『日本図書館情報学会誌』の書評担当から降りました

2017-07-01 14:00:35 | 図書館・情報学
  『日本図書館情報学会誌』の63巻2号が発行された。今号から編集委員会のメンバーが大幅に入れ替わり、昨季から継続しているのが僕だけとなった。ただし、昨年度後期から本務校の仕事が忙しくなってしまったこともあって、これまでやってきた書評担当から外れさせてもらい、一介の投稿論文担当委員となっている。僕が書評担当者だった時に執筆依頼をお引き受けいただいた書評執筆者の方々、および書評記事の充実のために尽力していただいた三浦前編集委員長には、この場を借りてお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。

  学会誌の編集業務は、投稿論文の査読の仲介がメインであり「待ち」が中心の仕事だ。そのなかで、書評コーナーは担当者側で評書や評者を選ぶことができるので、「編集をやっている」感があって充実度は高いと思う。僕なんかは「この先生はこの本をどう読むのだろう」と考えるだけで楽しい。残念ながら、現在の編集委員会には書評担当が置かれておらず、荻原新編集委員長が書評を企画している。そうなった理由は前任者の僕がやり過ぎてしまい、誰も後を継ぎたがらなかったからだとのこと。本当に申し訳ありません。書評コーナーに張り付いて企画を練る人がいないので、今後の学会誌の書評数は以前の2-3本に戻ります。

  なお『日本図書館情報学会誌』は、依頼書評だけでなく投稿書評も受けつけている。実際に年に1-2本の書評の投稿がある。編集委員会による審査によって掲載の可否が決まるので、査読論文に比べれば通りやすい。ただし、断ることもある。たいていは評書が扱う領域が学会誌と合っていないというのが理由である。一応、投稿規定があって、特に掲載の対象となる評書の範囲には微妙なところがあるので、よくわからないならば事前に編集委員会に問い合わせたほうがいいだろう。また掲載される・されないは別として、編集委員の記名でコメントが返ってくるので、査読回答書ほどへコまされることはないよ。是非。
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京都市が寄贈図書を廃棄してしまった件について

2017-04-28 23:52:00 | 図書館・情報学
  またタケヲか、と思ったら別のタケオだった。昨日、京都市が寄贈された桑原武夫の蔵書を捨てしまったというニュースが目に入った。

  桑原武夫氏の蔵書1万冊廃棄 京都の図書館、市職員処分 / 京都新聞 2017.4.27
 (前略)故桑原武夫氏(1904~88年)の遺族が京都市に寄贈した同氏の蔵書1万421冊を2015年、当時、市右京中央図書館副館長だった女性職員(57)が無断で廃棄していたことが27日、分かった。市教育委員会は同日、女性を減給6カ月(10分の1)の懲戒処分とした。
  http://www.kyoto-np.co.jp/local/article/20170427000086

  担当者が懲戒となるとはけっこうな大事である。気になったのは、いくつかのニュース媒体で「無断で」の廃棄ということが強調されていた点。文面をいちいち上げないけれども、遺族の了解をえていないのが問題であるかのように書いているところがあった。記事のいずれも京都市教育委員会の発表をもとにしているようだから、委員会がそう説明したのだろうか。

  しかし、条件の付かない通常の寄贈ならば、蔵書の所有権は京都市側に移っていたはず。なので、除籍(いわゆる廃棄)の規定通りに処分していれば、寄贈者側の同意が無くても手続き上の問題はなく、担当者は懲戒にはされなかっただろう。ならば寄贈時に「処分する際には遺族の同意が必要」という契約があったか、または廃棄が市の規定を外れた判断だったかのどちらかである。ニュース記事のいくつかでは上司に相談しなかった点も問題とされており、おそらく「規定外の廃棄の判断であり、かつ担当者にそのようなケースでの廃棄を判断する権限が無かった」ということだ推測する。その意味で「無断」だったのだ。

  というわけで、この件での懲戒は「通常の手続きからの逸脱」に対して下されたものであるだろう。この話と、何らかの「価値」がある(かもしれない)図書を廃棄してしまったという話は別の話だ。手続き上正当ならば、図書館は「価値」のある本も廃棄できるのだ。また一方、廃棄された図書に価値があったとして、それらを公共図書館が所有し続けるべきか、という話も別の話である。のだが、これらの話は長くなるのでここでお終いにする。
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