ベン・アンセル『政治はなぜ失敗するのか:5つの罠からの脱出』 砂原庸介監訳, 飛鳥新社, 422p.
政治学。民主主義、平等、連帯、安全、繁栄、それぞれの目標を追求する際に立ちはだかる構造的な困難について議論している。著者はオックスフォード大学の政治学者で、原書はWhy Politics Fails: The Five Traps of the Modern World & How to Escape Them (Penguin, 2023) である。
民主主義においては民意を適切に表現することができないこと(文中では「民意などない」と断言されている)が困難としてある。平等においては機会の平等と結果の平等がトレードオフとなること、連帯においては自己負担なしに他人の負担によるセーフティネットにタダ乗りしようとすること、安全においては安全を守るための制約から自分だけ自由であろうとすること、繁栄においては長期的利益ではなく長期的には失敗となる短期的利益を求めてしまうこと、これらが困難としてあるという。
さらに政治はこれら困難に取り組むのに失敗してきた。近年では、政治そのものを問題視し、政治を回避することによって、困難を解決しようという議論が現れている。市場やテクノロジーによる解決である。しかし、異なる選好を調整する手段として政治を回避することはできない。と著者は断言する。実現不可能な政治の回避を目指すよりも、まずは政治を信頼できるものにして、公平さと未来の透明さを確保することが重要だと説く。そのためには、政治家が約束を守り、社会的合意を蓄積してゆくことが必要であるという。ただし、成功するかどうかは保証されていない。
以上のように記すと、何やら心構え論のようで退屈な印象を受けるかもしれない。要は政治から簡単に逃れることはできないということである。以上のような大筋の議論のなか、トピックとして、政権交代によって新たに政権を握った対抗勢力に反故にされない政策導入の仕方について論じられており(筆者の専門らしい)、そこが興味深い。例えば貧困層を特定する福祉政策は(他の社会層の無関心や反対たのめ)持続が難しくなることが多いという。このため中流層もカバーする政策としたほうが望ましいとする。こういうディティールを読むべき本だろう。
政治学。民主主義、平等、連帯、安全、繁栄、それぞれの目標を追求する際に立ちはだかる構造的な困難について議論している。著者はオックスフォード大学の政治学者で、原書はWhy Politics Fails: The Five Traps of the Modern World & How to Escape Them (Penguin, 2023) である。
民主主義においては民意を適切に表現することができないこと(文中では「民意などない」と断言されている)が困難としてある。平等においては機会の平等と結果の平等がトレードオフとなること、連帯においては自己負担なしに他人の負担によるセーフティネットにタダ乗りしようとすること、安全においては安全を守るための制約から自分だけ自由であろうとすること、繁栄においては長期的利益ではなく長期的には失敗となる短期的利益を求めてしまうこと、これらが困難としてあるという。
さらに政治はこれら困難に取り組むのに失敗してきた。近年では、政治そのものを問題視し、政治を回避することによって、困難を解決しようという議論が現れている。市場やテクノロジーによる解決である。しかし、異なる選好を調整する手段として政治を回避することはできない。と著者は断言する。実現不可能な政治の回避を目指すよりも、まずは政治を信頼できるものにして、公平さと未来の透明さを確保することが重要だと説く。そのためには、政治家が約束を守り、社会的合意を蓄積してゆくことが必要であるという。ただし、成功するかどうかは保証されていない。
以上のように記すと、何やら心構え論のようで退屈な印象を受けるかもしれない。要は政治から簡単に逃れることはできないということである。以上のような大筋の議論のなか、トピックとして、政権交代によって新たに政権を握った対抗勢力に反故にされない政策導入の仕方について論じられており(筆者の専門らしい)、そこが興味深い。例えば貧困層を特定する福祉政策は(他の社会層の無関心や反対たのめ)持続が難しくなることが多いという。このため中流層もカバーする政策としたほうが望ましいとする。こういうディティールを読むべき本だろう。