本川裕『統計データが語る日本人の大きな誤解』日経プレミアシリーズ, 日本経済新聞社, 2013.
多国間比較とパネルデータで現代日本社会および日本人の実像に迫ろうという内容。著者はインターネットサイト「社会実情データ図録」(外部リンク)の主宰者。あのサイトの膨大なデータのうちいくつかをピックアップしてまとめあげた新書版がこれである。データはグラフと表が中心で読みやすい。挙げられているトピックを列挙すると、経済規模、技術力、貧富の差、政府の大きさ、公共事業、仕事におけるストレス、労働時間、余暇、自殺率、食生活、寿司、食の安全に対する意識、医療費、肥満度、曖昧さ、近代的な倫理観、儒教的倫理の残存度、幸福感の男女差である。最後の章は統計データの正しい読み方についてである。
マスメディアへの普段からの接し方によっては新しい知見が多いかもしれない。だが、社会科学系のトピック──「他国と比較すると日本の貧富の差はそれほど大きくない」「日本は小さな政府である」「日本の医療システムは効率的」──についてはどこかで聞いてすでに知っているという人も少なくないと思われる。でもちゃんとデータで確認できるというのは意義のあることであり、その点で本書の価値はある。個人的には次のことを指摘したデータが面白かった。「日本人は長時間労働をしても大きなストレスを感じていない」「若い日本人女性は痩せつつある」「たいていの国には読書の頻度に男女差があるのに、儒教国では男性も多く読みその差が小さい」。「そうなる理由は?」と問いたいところだが、著者による推論がさらりと述べられているものの、深入りはしていない。これは別の誰かが検証すべきことなんだろう。
「言われているほど日本は酷い社会というわけではない」というのが全体の印象であり著者も狙ったところのようだ。しかし、読者を安心させるばかりで刺激に欠ける感もある。データを見て初めて分かる「意外な問題点」の指摘などもあったらもっとインパクトを得ることができたかもしれない。
多国間比較とパネルデータで現代日本社会および日本人の実像に迫ろうという内容。著者はインターネットサイト「社会実情データ図録」(外部リンク)の主宰者。あのサイトの膨大なデータのうちいくつかをピックアップしてまとめあげた新書版がこれである。データはグラフと表が中心で読みやすい。挙げられているトピックを列挙すると、経済規模、技術力、貧富の差、政府の大きさ、公共事業、仕事におけるストレス、労働時間、余暇、自殺率、食生活、寿司、食の安全に対する意識、医療費、肥満度、曖昧さ、近代的な倫理観、儒教的倫理の残存度、幸福感の男女差である。最後の章は統計データの正しい読み方についてである。
マスメディアへの普段からの接し方によっては新しい知見が多いかもしれない。だが、社会科学系のトピック──「他国と比較すると日本の貧富の差はそれほど大きくない」「日本は小さな政府である」「日本の医療システムは効率的」──についてはどこかで聞いてすでに知っているという人も少なくないと思われる。でもちゃんとデータで確認できるというのは意義のあることであり、その点で本書の価値はある。個人的には次のことを指摘したデータが面白かった。「日本人は長時間労働をしても大きなストレスを感じていない」「若い日本人女性は痩せつつある」「たいていの国には読書の頻度に男女差があるのに、儒教国では男性も多く読みその差が小さい」。「そうなる理由は?」と問いたいところだが、著者による推論がさらりと述べられているものの、深入りはしていない。これは別の誰かが検証すべきことなんだろう。
「言われているほど日本は酷い社会というわけではない」というのが全体の印象であり著者も狙ったところのようだ。しかし、読者を安心させるばかりで刺激に欠ける感もある。データを見て初めて分かる「意外な問題点」の指摘などもあったらもっとインパクトを得ることができたかもしれない。