岩田規久男『そもそも株式会社とは』ちくま新書, 筑摩書房, 2007.
次のニュースを聞いて、以前読んだこの本のことを思い出した。
この本の著者は、株主による企業統治を擁護する論陣を張っている。従業員らによる統治よりも、効率的な資源配分を実現する可能性が高いからである。否定的にみられがちだった1980年代の米国におけるM&Aの(意外な?)評価や、従業員主権論の検討を重ねて議論を展開している。
この本が書かれた2007年当時の日本は、株主の発言力が高い企業文化ではまだなく、その兆しが見え始めた頃だった。ではその後、株主の力は増したか、というとそういう印象は無い。わが国の大臣が嫌悪するほど、日本の企業で株主が横暴を極めているようには見えない。むしろ司法では「もの言う株主」は排除され、経営者の優位が確立されたかのようである。
第四章2節では、従業員の会社への強いコミットメントの問題も指摘されている。そこでの指摘に付け加えることがあるとすれば、従業員主権論でメリットを得るのは正規雇用者だけであり、非正規雇用者にはその恩恵は及ばないということだろう。大竹文雄先生の次のような議論もある。
日本企業のガバナンスの問題を株主の行動に帰するのは偏った見方だ。日本政府がその問題点について冷静に把握してくれることを願いたい。
-----------
1) ロイター 2009/02/24
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK024028320090224
2) 大竹文雄 "矛盾なのだろうか?" 2008/12/23
http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2008/12/post-a191.html
次のニュースを聞いて、以前読んだこの本のことを思い出した。
[東京 24日 ロイター]与謝野馨財務・金融・経済財政担当相は24日午前の衆院財務金融委員会で、企業業績の悪化によって労働者の雇用環境が悪化しているにもかかわらず、企業が配当維持など株主を優先しているとの指摘に対し、「一時期、会社は株主のものという誤った考えが広まった。会社は株主のものという考え方は私にはなじまない」と語った。同相は「会社のステークホルダー(利害関係者)は株主だけでなく、従業員、経営者、お得意さま、下請けなど。株主はステークホルダーのうちの1人だ」と述べた。佐々木憲昭委員(共産)の質問に答えた。1)
この本の著者は、株主による企業統治を擁護する論陣を張っている。従業員らによる統治よりも、効率的な資源配分を実現する可能性が高いからである。否定的にみられがちだった1980年代の米国におけるM&Aの(意外な?)評価や、従業員主権論の検討を重ねて議論を展開している。
この本が書かれた2007年当時の日本は、株主の発言力が高い企業文化ではまだなく、その兆しが見え始めた頃だった。ではその後、株主の力は増したか、というとそういう印象は無い。わが国の大臣が嫌悪するほど、日本の企業で株主が横暴を極めているようには見えない。むしろ司法では「もの言う株主」は排除され、経営者の優位が確立されたかのようである。
第四章2節では、従業員の会社への強いコミットメントの問題も指摘されている。そこでの指摘に付け加えることがあるとすれば、従業員主権論でメリットを得るのは正規雇用者だけであり、非正規雇用者にはその恩恵は及ばないということだろう。大竹文雄先生の次のような議論もある。
株主からの不満が出るような行動を日本企業がとっている理由には、正社員による従業員主権のモデルで解釈するのが一つの方法だろう。従業員主権の企業は、株価最大化をするのではなく、正社員一人あたり所得の最大化を目的とする。(中略)そこで、正社員にとっての選択は、非正規従業員の増加によって企業を成長させ、非正規労働者の賃金を抑えておくことで、正社員一人あたり所得を増加させる、というものになる。おまけに、景気変動による所得変動リスクや解雇リスクも小さくすることができる。それこそ、日本の大企業と組合が選んできたことではないのだろうか。2)
日本企業のガバナンスの問題を株主の行動に帰するのは偏った見方だ。日本政府がその問題点について冷静に把握してくれることを願いたい。
-----------
1) ロイター 2009/02/24
http://jp.reuters.com/article/stocksNews/idJPnTK024028320090224
2) 大竹文雄 "矛盾なのだろうか?" 2008/12/23
http://ohtake.cocolog-nifty.com/ohtake/2008/12/post-a191.html