29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

P-Vineシューゲイザー本二冊

2010-08-31 18:08:01 | 読書ノート
黒田隆憲監修『シューゲイザー・ディスク・ガイド』P‐Vine Books, ブルース・インターアクションズ, 2010.
マイク・マクゴニガル『My Bloody Valentine Loveless』P‐Vine Books, クッキーシーン 監修; 伊藤英嗣, 佐藤一道訳, ブルース・インターアクションズ, 2009.

  二つのシューゲイザー本はそれぞれ別の時期に入手したもの。僕は"Isn't Anything"も"Loveless"も現役で聴いた(参考)が、その後のこのジャンルのフォローについては熱心では無かった。二つとも、新奇さへの興味ではなく、追憶に浸るべく手に取った。

  高校時代、仲の良かった友人(♀)に"Loveless"を聴かせたら「雑音しか聴こえない」と言われたことがある。『シューゲイザー・ディスク・ガイド』では、そんな経験を持つ中年男の知らない新しいバンドがたくさん紹介されており、あらためてその影響力の強さを確認できる。「自分が青春時代に聴いた音楽はくだらないものではないんだ」という非生産的な感傷にひたることができてたいへん慰められた。でもこの歳になって今更新しいバンドを聴いたりしないだろうというのも本音。

 『My Bloody Valentine Loveless』は、Continuum社の"33 1/3"シリーズの一つの翻訳。録音方法や人間関係の話が中心で、つまらなくはないが、あまり音楽的な分析は無い。もう少し和声や音響について分析してくれることを期待していたが、それでは敷居が高くなりすぎるか? 機材については『シューゲイザー・ディスク・ガイド』の方が詳しい。"33 1/3"シリーズの他作品は翻訳されていないようだが、これと同レベルの内容ならば、翻訳して出版する際には高校生向けの装丁でかつもっと安値で出版した方がいいだろう。

  どちらの本にもミニマルミュージックからの影響については言及されている。しかし、ヴォーカルスタイルとしてはボサノヴァなんかに近いように考えているのだが、その指摘は無かった。
  
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涼しいというより冷たいギターにちょっとした情感

2010-08-30 08:44:43 | 音盤ノート
Ralph Towner "Old Friends, New Friends" ECM, 1979.

  Ralph Townerは米国出身の12弦ギターとクラシックギターの名手。この録音では、ギター以外にピアノとフレンチホルンの演奏も披露している。Townerのギターは巧みで美しいが、冷たく感情を見せないのが特徴。激しい演奏になってもパッションというものを感じさせず、熱気というものが無い。

  この録音でもTowner自身の演奏の印象は相変わらずだが、哀愁味あふれるトランペッター兼フリューゲルホーン奏者であるKenny Wheelerと、どう演奏しても情感を湛えてしまうDavid Darlingのチェロを添えることで、硬質一辺倒の印象を払拭している。特に、12弦ギターの流麗なアルペジオを背景にフリューゲルホーンとチェロが旋律を奏でる一曲目"New Moon"と、チェロの多重録音によるストリングスの上にギターソロを載せる"Beneath an Evening Sky"が秀逸。この二曲は孤独と寂寥を感じさせる名曲だろう。他の録音メンバーに、 Eddie Gomez (B)、Michael DiPasqua (Ds)がいる。
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1960年代の学生運動に対してはかなりシニカル(上巻)

2010-08-27 09:01:10 | 読書ノート
トニー・ジャット『ヨーロッパ戦後史(上):1945-1971』森本醇訳, みすず書房, 2008.

  著者は1948年生まれのユダヤ系英国人で、今夏8月6日に亡くなっている。A5版二段組みのページが1100ページ以上続く大作だが、飽きることなく読める。ただし、誰にでも気軽に読めるものでもない。登場する地名や人名についての簡単な理解──どこの国の所属かなど──には、高校レベルの世界史知識が求められる。まあ、面倒でなければ、地図や人名事典を片手に読めばいいだろう。

  記述は外交関係が中心。上巻を読んだ限りでは、第二次世界大戦による悲惨と崩壊から、復興して統一ヨーロッパが造り出されてゆくのを描くというのが基本線のようだ。上巻後半では、戦後に西独と仏が接近したことと、それに英国が微妙な距離を置いたことが、その後のEUでの主導権を決めてしまったとほのめかされる。また、ソ連に抑圧される東欧の惨状と、それを無視する西側(それでも共産主義を支持する西側インテリ)の姿も印象的である。

  外交の背景となる、当時の各国の内情の分析もかなり細かい。各国の政党の思想、その支持層がそのような階級なのか。さらに政党政治が、1960年代の農業からサービス中心経済への人口構成の変化によってどう影響を受けたか。また東欧各国の、共産化に至る前の微妙な歴史の違いが、国家運営にどう影響したか。加えて、政治や経済の話だけでなく、映画やポップミュージックまで目を配って時代の雰囲気を伝えている。

  一部を引用しよう。

  こうした未組織の、しかし広範な戦争恐怖や、ヨーロッパのエリートたちのあいだのアメリカ的文物に対するうさん臭い思いにつけ込もうと、スターリンは国際的な「平和運動」を開始した。一九四九年からスターリンの死まで、「平和」はソヴィエトの文化戦略の目玉だった。(中略)「平和運動」の傘の下、他の最前線組織もこぞってゴリ押ししたメッセージはこうだ──ソヴィエト連邦は平和の味方だが、アメリカ人(およびその仲間たる韓国、ユーゴスラヴィア、西ヨーロッパ各国政府)は戦争を企む一味である。(p.285-286)

  (テレビの映画の関係について──引用者)一九四〇年代・一九五〇年代の観客は何が上映されていようと機械的に各地の映画館に通っていたのに対し、今では魅力を感じた特定の作品だけを見に行くようになった。何でも「やっているもの」を見るという無作為的娯楽としては、テレビが映画に取って代わったのである。(p.445)

  (1960年代の学生運動について──引用者)「今や世界中のジャーナリストが君たちの尻をなめているが、……おれはごめんだね。君たちは甘ったれたのガキの顔をしている。おれは君たちの父親を憎むと同じように、君たちを憎む。……きのうヴァッレ・ジューリア通りで君たちが警官殴ったときも、おれが同情したのは警官のほうさ、彼らは貧乏人の息子たちだからな。」ピエル・パオロ・パゾリーニ(p.500)


  こんな調子である。
  
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「妄想」は結婚によくないよとのこと

2010-08-19 17:40:43 | 読書ノート
小倉千加子『結婚の才能』朝日新聞, 2010.

  雑誌連載記事を集めたエッセイ集。最近の日本の結婚についてあれこれ述べたもの。結婚の才能と恋愛の才能は別で、後者は結婚を邪魔するものとなるというのが基本的なテーマである。が、著者が集めてきたAさんやBさんのエピソードを近所の主婦の世間話のように楽しむというのが正しい読み方だろう。論証に納得いかない部分も多く、データの採り方がAERA的というか、エピソードが主であり、ちゃんとした調査をやっていない。そういう著者だと分かった上で読むと、切れを感じる指摘に出会うこともある。

  意外だったのは「あとがき」で結婚を奨めるかのような記述をしていること。“結婚に関してはいろいろ考える時代ではない。即実行に移すのがいい”(p.196)。同じ著者の前著『結婚の条件』(朝日新聞出版, 2003)では、結婚に対してかなりシニカルな立場を採っていた。だが、この本では、フェミニスト本にありがちな「男から解放されて一人で生きろ」というメッセージが感じられず、普通の女性読者たちに優しい。
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1960年代のインド風サイケデリック音楽の末裔

2010-08-17 22:43:28 | 音盤ノート
Steve Tibbetts "Natural Causes" ECM, 2010.

  チベットにはまったミネソタ在住米国人によるギターと打楽器による音楽。レーベルはECMだが、ジャズでもクラシックでもない、フォークまたはロックを通過した熱の無い瞑想的ワールドミュージックである。録音もオーヴァーダブを重ねており、即興性は無い。

  Tibbettsのアルバムには、アコースティックギターを中心に静謐な演奏を聴かせる系列の作品──"Northern Song"(ECM, 1982), "Big Map Idea"(ECM, 1989)──と、乱打されるパーカッションをバックにエレクトリックギターが暴虐を尽くす系列の作品──"Exploded View"(ECM, 1986), "The Fall of Us All"(ECM, 1994)[の前半]──がある。この"Natural Causes"は前者の系列に属する。多重録音されたアコースティックギターの演奏に、カリンバやスティールドラムの音色がミニマル的な印象を添えるアンビエントな作品である。「ヴァイオリン抜きの、静かに演奏するJohn Mclaughlinのshakti」と言われてもよくわからないだろうか?

  個人的には、暴力的に聴き手をねじ伏せる後者のエレクトリックギター作品の系列に大きな魅力を感じるが、これはこれでまた良い作品と言える。しかし、初めてこのアーティストを聴く人には、両者の要素がちょうどよくブレンドされた"Safe Journey"(ECM, 1984)をお薦めしたい。
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食事後会計と先会計のどっちがいいか

2010-08-15 23:31:05 | チラシの裏
  関東から静岡市に赴任した当初、静岡在住の知人に「市内でもっとも食事の美味しいお店はどこですか?」と尋ねたら、返ってきた答えは「大戸屋」だった。──彼女はチェーン店であることを知らなかったらしい。

  熱海にある「おとや」を除外すれば、静岡県内の大戸屋は静岡駅北口地下の一店舗のみである。ここの会計システムは関東の店舗に慣れた者にとっては変わっている。というか、食事後レシートをレジに出して会計するという、飲食店で見られる普通の会計システムである。一方、東京・神奈川にある僕の知っている店舗では、多くがレジで注文して同時に会計するというシステムだった(後会計のところもあったが)。

  現在のメニューの大戸屋ならば、たぶん後会計の方が具合がよいだろう。料理をゆっくり選べるし、追加注文をしやすい。普及当初は、独りで来店したサラリーマンまたはOLが店員との会話も少なく定食を食べて素早く去ってゆくところというイメージだったような気がする。だが、今はアルコールもコーヒーも備えて長時間滞在もあるという体制になっている。

  ところで先会計/後会計の違いは直営かフランチャイズの差なんだろうか?
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自由が嫌いだからといって他人に預けたりしないように

2010-08-12 21:05:58 | 読書ノート
原田泰『日本国の原則:自由と民主主義を問い直す』日本経済新聞, 2007.

  日本の近現代における経済発展を「自由」の視点から解釈する啓蒙書。著者は経済企画庁出身で現在民間シンクタンクに在籍。本書は2010年に日経ビジネス人文庫版が出版されている。

  著者の主張は単純で、自由があった時代に経済が発展して日本人は幸福になり、そうでない時代──第二次大戦前後──は経済が停滞して不幸になったという。なので、日本は将来も自由を原則とするよう求める。特に戦時中の日本軍の経営の不効率の指摘は細かく、白眉である。結局、官僚統制はうまくいかないのだと。また、著者は東アジア共同体や移民に反対している。

  細かい点についてその筋の専門家を納得させるものかどうかは僕にはわからないが、大筋では説得力のある議論が展開される。しかし、いまだ「小泉政権のせいで格差拡大」とか言っている人たちには届かないのだろうなあ。
  
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ニカから離れてヘヴィメタに傾くジャズギタリスト

2010-08-10 22:13:07 | 音盤ノート
Eivind Aarset & The Sonic Codex Orchestra "Live Extracts" Jazzland, 2010.

  Eivind Aarset(参考)の五作目。メールス・フェスティバルなどで録音された複数のライブ演奏を収録。曲によってメンバーに入れ替わりがあるが、基本は打楽器2名、ギター2名、ベース、管楽器の6人編成である。

  演奏は前作"Sonic Codex"(Jazzland, 2007)を踏襲しており、完全にロック化した重めのリズム隊の上で凶暴なギターが暴れるというもの。幽玄で地味な曲も含めて、とにかく重い。電子音はかつてほど目立つことなく、ロック的なカタルシスの方が前面に出ている。

  Aarsetは、デビュー当初はフューチャージャズ一派として、エレクトロニカのイディオムを即興演奏に採り込もうと試みていたが、ここにきてそんな取組みなど忘れてしまったかの様子。個人的には"Sonic Codex"路線は気に入っていない。そう考えていたところ、前回言及したMathias Eick(参考)を連れて9月に来日するとの情報1)が・・・。

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1) Tokyo Jazz 2010 / Schedule
  http://www.tokyo-jazz.com/jp/program/circuit0905.html#scheduleMain
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ノルウェー発正統派ジャズギター

2010-08-08 22:31:37 | 音盤ノート
Jacob Young "Sideways" ECM, 2007.
Jacob Young "Evening Falls" ECM, 2004.
Jacob Young "Glow" Curling Legs, 2001.

  ジャズ。ヤコブ・ヤングはノルウェー出身のギタリスト。同郷の世界的なギタリストにTerje RypdalとEivind Aarsetがいるが、彼らは「ジャズを名乗るロックギタリスト」という佇まいだった。ヤングは彼らに比べればジャズ的で、アコースティックギターの多用などフォークの影響も感じさせる。似たスタイルとして思い浮かぶのはPat Methenyである。リーダー作を五作発表しているが、そのうち二枚──"This Is You" (NOR-CD, 1995)と"Pieces 0f Time"(Curling Legs, 1997)──は未聴。近作三枚でその変化を辿ってみたい。

  まずは"Sideways"。Mathias Eick (trumpet)、Vidar Johansen (bass clarinet, tenor sax)、Mats Eilertsen (bass)、Jon Christensen (drums) による五重奏団。アコギによるアルペジオが印象的な楽曲が多くを占め、リラックスしたアトホームな演奏。ECMにありがちな厳しく冷たい感じはない。

  "Evening Falls"も上と同じ五重奏団。エレクトリック・ギターの単音弾きによる曲の方が目立つ。基本は"Sideways"と同じ「静かで渋く、少しの温かみ」という路線だが、緊張感のある激しい曲もわずかにあったりする。

  二作ともアンサブル重視の演奏で、ヤングが弾きまくったりする演奏ではない。どちらかというとギターは和音担当で、むしろMathias Eickの哀愁味あふれるソロの方が印象に残る(これが素晴らしい)。Mats Eilertsenのベースラインもかなり良い。

  "Glow"はECM移籍前の録音。Nils Petter Molvaer直系のトランペッターArve Henriksenらが参加しているが、基本は曲毎にメンバーが入れ替わる。アコギを使った現在と繋がるスタイルの曲から、Saxが明るく歌い上げるような楽曲や、打ち込みを使ったフューチャージャズがあり、バラエティに富んでいる。ECMがヤングのどのような可能性を排除したのかがよく分かる。逆に言えば、いろいろ出来て器用貧乏だったところを、アイヒャー御大が道を定めて集中できるようにしたということか。
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スカイフックになぜそんなにこだわるのか?

2010-08-05 09:12:24 | 読書ノート
ダニエル・C.デネット『ダーウィンの危険な思想:生命の意味と進化』山口泰司監訳, 青土社, 2001.

  ダーウィン進化論の含意を敷衍する書籍。著者は哲学者。700ページに及ぶ大著で、文章もあまりわかりやすいものではない。

  チョムスキー、スティーブン・J.グールド、ロジャー・ペンローズなどが論敵として採りあげられているが、環境か遺伝かという社会生物学論争味とはまた違った意味でである。著者は次の二種の議論、進化には高等生物に至る何らかの方向性がある、逆に、まったくの偶然で現状の生命に必然的な意味は無い、という両者を批判する。どちらも、現状の説明のために神(本書では「スカイフック」と呼ぶ)が介入する余地を残してしまうからである。しかし、進化論はそうした余地をまったく残さない理論であり、ダーウィンが想定したものを越えて強固になってきているという。

  簡単に言えば、科学者においてすら自らの議論に「神」を秘めてしまうことがあるだが、そうした思考を徹底的に叩く。とまあ、僕が理解した限りでは以上のような内容だった。日本の宗教文化にいてはよくわからない感覚かもしれない。
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