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炎上しているらしいが、三郷市の彦郷小学校は称賛されるべき

2018-07-03 16:12:20 | 図書館・情報学
  三郷市の学校図書館についての紹介記事が炎上しているらしい。僕にも首を突っ込ませてほしい。発端はハウスコムが運営するサイトLivin Enterteinmentの記事「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校」で、同小学校は児童の学校図書館利用履歴のわかるデータベースを作って読書指導に利用しているという1)。記事は同小学校を読書教育を成功に導いた美談として採りあげている。だが、この話がプライバシーの保護をうたう「図書館の自由に関する宣言」に触れるということでネット上で批判されて炎上し、キャリコネニュースを通じて校長が謝罪する顛末となっている2)

  まず断っておくと、僕は「図書館の自由」の適用対象に学校図書館を含めることは妥当ではないと考えている。別件でそれについて述べた。しかし、疑問に感じたのは、今回の話はそもそも「図書館の自由」案件なのだろうか、ということである。

  学校図書館にとって学校の先生は、「図書館の自由に関する宣言」でいうところの「外部」なのか?読書指導のために貸出履歴が先生に知られることはプライバシーの侵害ということになるのだろうか。そうは考えられない。読書指導は学校図書館の運営の一環であり、したがって彼らは内部の人たちだと言える。また通常、成績などの児童生徒の個人情報は、学習指導が利用目的であるならば学内では共有可能な扱いとなっていることだろう。学校図書館の利用記録が、そうした個人情報とは異なる扱いを受けるべき特別な情報だとみなすことはできない。いったい、どのような実害があるというのか。しかも利用記録のデータは学校図書館の範囲内であって、家庭での読書を対象としていない。このデータが学外に漏れたら問題となるのは間違いないけれども、学内で先生たちに指導目的で開示されるというのは正当だと思える。

  なお、キャリコネニュースによれば、彦郷小学校側は児童の学校図書館の利用回数と読書ジャンルを把握しているだけで、読んだ書籍のタイトルを把握しているわけではないとのことである。これで安心なのだろうか?いや、そうじゃないだろう。それぞれの児童に合わせた綿密な読書指導を試みるならば、読んだタイトルまで教師が把握しておいたほうが良いはずである。ジャンルとか利用回数だけでは適切な推薦などできないだろう。データベース化しているならば、成績などとも連動させて分析できるはずだ。データが活用されて学力向上のためにより効果的な読書指導が展開されていくのは、学校図書館にとって望ましい話である。

  もう一つ別の論点があった。「大人による読書指導がキモい」という話だ。僕も中二のとき、親から吉野源三郎の『君たちはどう生きるか』を読むよう薦められて「ケっ」と思ったクチだ。親が買ってきた岩波文庫版は、しばらく積読にしてその後こっそりと売り払った。中身は読んでないので何も言えないが、メッセージ性に溢れた本を我が子に読ませようとするという親の振る舞いが、説教の別バージョンのように感じられて嫌だったのだ。なので直感的には読書指導に反発したくなるのはよくわかる。

  しかし、そうだからと言って親や教師は読書指導をやめるべき、ということにはならないだろう。子どもに本が紹介される機会などたくさんあるわけで、友達先輩知人の誰それから、twitterでフォローしている有名人から、目にしたドラマや映画の原作から、Amazonのレコメンドからなどなど。親や教師のように権力上の関係がないから反発を呼びにくいけれども、それらだって子どもを特定の読書へ導こうとする行為であって、趣味嗜好やイデオロギーに介入しようとしているということには変わりない。親や教師だけそれを控えるべきだということにはならないだろう。それが子どもの側の反発を呼び起こすならば、効果的な方法でなかった、というだけのことだ。先生がやるより機械にやらせるほうが「主体的な選択」がなされたかのように感じられてよろしいというなら、推薦をAI化するというのもありだろう。みんな喜んでAmazonのレコメンド商品を買っているのだし。
  
  というわけで、これは称賛されるべき案件だろう。学校図書館が当の学校の教育と無関係な聖域であるかのようにみなすのは、学校図書館を学校にとって面倒くさい存在にするだけなので、やめたほうがいい。というかやめてくれ。図書館が忌避されるようになるだけである。的外れな理論で成功している読書指導を殴りつけることは、その学校の児童にとって不幸な話でしかない。個人的に見聞きした範囲では、校長先生が学校図書館に関心を持ってくれて、担任の先生が個別児童の読書指導をしてくれるなんて、全国的にみればけっこうまれなことである。学校図書館への無関心こそ、読書に価値を置く人たちが避けたいことのはずだ。

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1) Livin Enterteinment 「1年間で1人あたり142冊もの本を読む埼玉県三郷市立彦郷小学校」 (2018.6.29)
  http://media.housecom.jp/misato/

2) キャリコネニュース 「三郷市の小学校の読書促進策に批判殺到「担任が児童の読んだ本を把握し個別指導」って本当?」 (2018.7.2)
  http://media.housecom.jp/misato/
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