29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

米国在住中国人による英語小説。娘が無愛想なのは父のせい、と

2017-09-30 12:57:22 | 読書ノート
イーユン・リー『千年の祈り』新潮クレスト・ブックス, 篠森ゆりこ訳, 新潮社, 2007.

  父娘関係エントリ第三弾。同僚の米国文学者である森本奈理先生に教えてもらったのがこれ。中国出身の女性作家で、米国に移住して英語で作品を書いているとのこと。本作はデビュー短編集で、影のある繊細な人間関係を描く内容である。10編ある短編のうち、表題作が父娘小説となる。この短編のみについてコメントしたい。

  ロケット工学者だという父は、米国に行って離れて暮らしている娘がいる。妻とは死別しているようだ。娘夫婦が離婚したのをきっかけに、娘を慰めようと父は渡米して会いにゆくのだが、娘は父を避けて会話にも応じない。娘が仕事で家にいない日中、父は公園へ行って、よく会うイラン出身の婦人と、片言の英語(と通じない母国語)を使って米国での暮らしについて語らう、という内容。父娘のすれ違いの描写から、娘の離婚の原因、娘の少女時代の冷たい家庭の雰囲気、父の秘密と徐々に読者に知らされてゆくという展開となる。

  一見、古い父と新しい娘のカルチャーギャップの話のように見せかけておきながら、実のところ娘の冷たさおよび彼女の離婚の究極の原因は昔の父の振る舞い(といっても仕事の問題)のせいであったという話。「子どもがこうなのは親がああだから」という責任転嫁の思想が感じられて、親としては嫌な話だ。父としては言い分もあるのだが、最終的な和解もなく、父娘は心を通わせることがない。結局、育児の失敗のツケは老後に巡ってくるということのようだが、そういう話として解釈してもいいものだろうか。女性が読むと印象は異なるのかもしれない。
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父の過剰な愛情表現はウザいものであると

2017-09-25 15:44:56 | 読書ノート
中山順司『お父さんがキモい理由を説明するね:父と娘がガチでトークしました』泰文堂, 2014.

  前回記したように「父親目線の父娘関係小説」を探している。同僚の文学研究者に尋ねたところ、島崎藤村『伸び支度』、チャンネ・リー『最後の場所で(A Gesture Life)』を挙げてもらったが、やはり数があまり無いみたいだ。受験ものだが、桜井信一『下剋上受験』も父娘小説にはいるだろう。小説ではなくノンフィクションならばチラホラは存在しており、その中でもこれは最近の話題作である。

  内容は、留学経験があって英語ペラペラの著者が、人生のあれこれについて中学生の娘と語り合うというものである。扱われているトピックは、恋愛、父がキモい理由、将来の夢、性格、勉強、留学経験、友情、いじめ、人生の意味、正しい彼氏の見つけ方などである。記述に従えば、著者は実の娘を猫かわいがりしているようで、僕から見ても確かにキモい。そうでなくとも、年頃の娘は父親に私事をあまり相談したりしないものだ。それでも、対等の立場に身を置いて娘の見解を引き出そうと努力している著者の努力はなかなか見上げたものだと思う。生硬な印象もあるが、娘もけっこう真面目に考えていたりして、参考になる(特にいじめへの対処など)。

  ただし、終盤では、妻が会話に参加したり、祖父と娘による対話となる章もある。祖父のでてくる章は、おじいちゃん側が知識を一方的に与える立場になってしまっており、対等な会話となっていない。こういうのは面白くない。妻が出てくる章も、妻自身の過去が面白すぎて娘がおいてけぼりである。このように終盤は、中山家の家族史みたいな方向に話が逸れていってしまっており、当初の狙いを外してしまっている。

  とはいえ全体の2/3は父親と娘の忌憚の無い会話が楽しめる。なお、妻が娘に説く「選んではいけない男」の四タイプとは、1)すぐに身体を求めてくる男、2)彼女を自分好みに仕立てようとする男、3)趣味や価値観を強制してくる男、4)金銭感覚がずれ過ぎている男、だそうで。理由については一読して確認を。
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求む、父親目線の父娘関係小説(ただしエロ禁止)

2017-09-23 14:01:29 | 読書ノート
重松清『ステップ』中央公論, 2009.

  怠惰のため更新が滞っていたが、ぼちぼちまたブログを続けます。言い訳になるけれども、9年ぶりに家族と同居をはじめて、なかなか読書や執筆の時間がつかめなくて…。

  で、わけあって父親目線からの父娘関係の小説作品、あるいは漫画や映像作品などがあれば読者から教えていただきたいというのがこのエントリの趣旨。向田邦子など、娘目線の父娘関係小説というのはけっこうある。よく知っているわけではないが、父を通して大人の男の生き様を娘が学ぶというのがそれらのモチーフなのだろう。これが父目線となって自分の娘を観察するということになると、いったい何を主題とした話となるのだろうか。親馬鹿とか?興味があるのだが、いかんせん僕にフィクション作品の知識がないために、見つけられないままである。

  父親目線の父娘小説として見つけたのが重松清の『ステップ』。けれども、読んでみて僕には不満が残った。内容は、娘が1歳のときに妻を失くした主人公の、その後の十年間を綴ったものである。物語を動かしているのは、娘との関係そのものではなく、後妻となりそうな女性たちとの擦れ違いと、亡き妻の両親と兄弟といった義親族との関係である。一方で、娘がいい子であることはわかるが、それ以上のどういう子どもなのかについてはあまり情報がない。

  実際の親ならば気にしそうなディティール──食べ物に好き嫌いはあるのか、得意な教科は何か、周囲の子どもや近所の人たちの視線、父親が残業のときに小学校高学年となる娘は家で何をしているのか(本を読んでいるのかテレビを観ているのかなど)、買い物(特に女の子向けの服の選択)をどうしているのか、父親といつまで一緒にお風呂に入っているのか、などなど──が欠けている。父娘関係をきちんと描くならば普通に物語を動かしそうな情報、すなわち子どもの成長段階を伝えるようなイベント事にタッチしないのだ。最終的に主人公は再婚するのだが、娘の側が生理的反抗からどうして合意に至ったのかもよくわからない。

  このわからなさが父親から見た娘そのものであり、リアリティがあるという人がいるかもしれない。だが、実際に娘の親を経験した限りでは、主人公は娘に無関心すぎる印象で、わからなさはそのせいにしか見えない。彼はやたらと亡き妻の思い出の感傷に浸り、義実家との関係継続に配慮する。「お前、そんなことよりももっと子ども自身を見てやれよ」と言いたくなる。いやまあ、父娘関係を描いた作品ではないと言われればそれまでだけれども。それとも死別した父子家庭ならばこうなるのだろうか。というわけで、違う作品も読んでみたいと強く思う。
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