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米国の2010年前後の状況を元にした「情報と民主主義」論

2024-08-07 07:00:00 | 読書ノート
John M. Budd Democracy, Economics, and the Public Good: Informational Failures and Potential Palgrave Macmillan, 2015.

  図書館情報学、といっても米国社会の話が主で図書館が出てくることはほとんどない。主に民主主義と情報の関係について政治哲学の議論を取り入れながら論じている。著者は米国の図書館情報学者で、このブログでは以前Knowledge and Knowing in Library and Information Science (Scarecrow Press, 2001)を取り上げたことがある。

  冒頭の1章でまず、米国では「リベラル」概念が、権利の拡張派にも穏健派リバタリアンである保守派にも両者に利用されているのは混乱である指摘する。そこで2章では、後者を「新自由主義」としてリーマンショック後の経済危機を理由に批判し、権利の拡張派から切り離す。続く3章でも、公共財(public good)と公共圏(public sphere)といった概念を用いて、米国政治の制度的腐敗を論じている。4章では、上のような危機と腐敗の原因として「情報の失敗」があると議論される。この章では米軍による監禁事件などかなり具体的な例が挙げられている。最後となる5章では「情報提供の可能性」が論じられる。単なる情報の提供ではなく、真実である情報である。かつ送信者がそのような情報を伝えることを意図していることが、民主政体を維持してゆくうえで重要だという。このほか教育制度、オキュパイ運動、ティーパーティ運動への言及がある。

  以上。タイトルからかなり抽象的な議論が展開されるのだろうと予想して読んだが、思いのほか時事的で、リーマンショック後の米国社会の混乱について詳しく、またそれを前提として議論が組み立てられている内容だった。残念ながら本書による概念整理は十分説得力のあるものだとは思えない。だが、議論の前にまず正確な情報をということについては同意できる。
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