テリー・イーグルトン『アメリカ人はどうしてああなのか』河出文庫, 大橋洋一, 吉岡範武訳,
河出書房, 2017.
米国と英国(ついでにアイルランド)を比較するエッセイ。2014年に発行された『アメリカ的、イギリス的』(河出ブックス)の改題文庫化で、解説によれば2013年の原書の段階ですでにドナルド・トランプに言及していた先見の明のある本ということらしい。個人的に、テリー・イーグルトンは『文学とは何か』(岩波書店, 1985)を学生時代に読んで以来なのだが、こんな皮肉っぽい人だったっけという感想である。
アメリカ英語とイギリス英語は異なる、という話に始まり、社交、メンタリティ、社会の統制の仕方、伝統に対する態度、などなどを皮肉を交えて論じるというもの。文庫版カバー説明にあるような「抱腹絶倒」というのはちょっと違う。ここにあるのはアイロニカルで引きつったイギリス的笑いである。事例部分は英米の違いがわかって非常にためになる。しかし、各章の後半が必ず思弁的議論になっており、これが退屈。気楽に書かれた本とはいえ、抽象度を高めるならばホフステードあたりも参照してほしいと思う。
全体としてはまあまあ面白い。ただ、やはり米国に対して不公平な論評となっている。英国に言及する際には、階級の違いが思考や行動の違いを生み出しているということが指摘される。ところが、米国については老いも若いも金持ちも貧乏人も人種も性別も一枚岩のステレオタイプで描かれる。すなわち、近年問題になっている米国の「分断」は反映されていないという限界がある。
河出書房, 2017.
米国と英国(ついでにアイルランド)を比較するエッセイ。2014年に発行された『アメリカ的、イギリス的』(河出ブックス)の改題文庫化で、解説によれば2013年の原書の段階ですでにドナルド・トランプに言及していた先見の明のある本ということらしい。個人的に、テリー・イーグルトンは『文学とは何か』(岩波書店, 1985)を学生時代に読んで以来なのだが、こんな皮肉っぽい人だったっけという感想である。
アメリカ英語とイギリス英語は異なる、という話に始まり、社交、メンタリティ、社会の統制の仕方、伝統に対する態度、などなどを皮肉を交えて論じるというもの。文庫版カバー説明にあるような「抱腹絶倒」というのはちょっと違う。ここにあるのはアイロニカルで引きつったイギリス的笑いである。事例部分は英米の違いがわかって非常にためになる。しかし、各章の後半が必ず思弁的議論になっており、これが退屈。気楽に書かれた本とはいえ、抽象度を高めるならばホフステードあたりも参照してほしいと思う。
全体としてはまあまあ面白い。ただ、やはり米国に対して不公平な論評となっている。英国に言及する際には、階級の違いが思考や行動の違いを生み出しているということが指摘される。ところが、米国については老いも若いも金持ちも貧乏人も人種も性別も一枚岩のステレオタイプで描かれる。すなわち、近年問題になっている米国の「分断」は反映されていないという限界がある。