29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

エピジェネティクス関連新書二冊

2016-07-29 21:49:03 | 読書ノート
太田邦史『エピゲノムと生命:DNAだけでない「遺伝」のしくみ』ブルーバックス, 講談社, 2014.
仲野徹『エピジェネティクス:新しい生命像をえがく』岩波新書, 岩波書店, 2016.

  分子生物学。二書ともエピジェネティクスの入門書で、同一のDNAでありながらなぜ違った表現型となるのか、その仕組みについて説明している。簡単にまとめれば、環境の影響で遺伝子が活性化したりしなかったりするという話だが、どちらも生化学の専門用語満載で、遺伝子制御の方法も複数あってわかりやすいとは言えない。

  二書のうち太田本のほうが分子生物学的な説明が充実しており、ジャンクだと思われていたDNAが実は機能していたということから、タンパク質の詳しい分子式など、仕組みについてはくわしい(けれども読むのがしんどい)。一方、仲野本は実際のエピジェネティクス現象やその意義などをわかりやすく説明しており、この点では読み進めやすい(それでも生化学的な説明はかなりの量を占める)。後者は、エピジェネティクスに関してよく言われる「獲得形質が遺伝する」という話について、遺伝において一般的な現象ではないだろうし、また十分にメカニズムが解明されているわけではない、とも述べる。

  以上のようにまだわからないことが多いこの分野の、現時点での報告というところだろうか。生化学的な仕組みにそれほど関心がないならば、リドレーの『やわらかな遺伝子』を読めば十分であり、その先の内容という印象である。
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うっすらと残るかつて障害者施設に通った記憶

2016-07-27 23:22:42 | チラシの裏
  相模原の障害者施設での大量殺傷事件のニュースを耳にして、亡くなった叔母のことを思い出した。以下、件の事件とは何の関係もない、個人的な思い出話である。オチもない。

  母方の叔母は小学生低学年のころに高熱をこじらせて小児マヒを患ったらしく、それから30歳前後で亡くなるまでずっと施設に入所していた。母は三姉妹の長女だったのだが、妹のこの窮状に衝撃をうけて看護師になった(数年前までフルタイムで働いていたが、定年後はパートタイム看護師をしている)。

  僕が4-6歳ぐらいの頃だから、1970年代後半の話で、記憶もかなり曖昧だ。祖母も亡くなってしまっているので、確認できないことも多い。叔母が入っていたのは病院ではなく、障害者施設だったはずだ。医者らしき人がいなかったし、治療用の設備も無かったからだ。そこに祖母に連れられて、毎月か隔月かの頻度で訪ねていった記憶がある。愛知県大府市に施設があったから、祖母から「おおぶにゆく」と言われたときは叔母を見舞いに行くことだった。駅からバスを使った記憶があるだけで、施設名も住所も覚えていない。

  叔母は多少身体を動かせたけれども、ほとんど寝たきりの状態で、うまく言葉も話せなかった。他の入所者はおそらく知的障害者だったと思う。幼児だった当時の僕より体が大きい人たちだったが、施設の内装は通っていた保育所と大差がないような可愛らしさだったような気がする(動物やフルーツの絵が飾られていたような…)。祖母と僕が施設を訪れると、叔母だけでなく他の入所者ものぞきに来て喜ばしそうにしていたのを覚えている。あまり訪ねてくる人もいなかったのだろう。

  入所者とどの程度やりとりをしたのかははっきり覚えていないのだが、とにかくうまく遊べた記憶がない。おもちゃがたくさんあったはずで、それを使って幼児ながらに入所者と遊ぼうと試みたはすなのだが、なかなかうまくコミュニケーションが取れなかったのだと推測する。結局退屈してしまって施設を出て、周囲をぶらぶらしていたりした。施設の隣にあった、屋内に大量の足踏みミシンが埃をかぶっていた廃工場に潜入した記憶は強烈に残っている。たぶんわくわくしていたんだろうな。

  この退屈という印象から、小学生になってからは祖母の大府行きについていかなくなってしまった。そして数年の間叔母とはまったく会わないまま、僕が小学六年生の頃に彼女は亡くなってしまった。残念ながら僕の障害者施設訪問はあまりに幼すぎたために啓発的な経験にはならなかった。もう少し年がいっていれば違った振舞いになったと思う。その後の墓参りの回数のほうが、当時の施設の訪問回数を超えるようになったしまった、たぶん。
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彼らのあの曲を聴くと中高生時代の夜の日々を思い出す

2016-07-25 20:07:44 | 音盤ノート
Azymuth "Light as a Feather", Milestone, 1979.

  フュージョン。アジムスは、鍵盤のJose Roberto Bertrami、ベースのAlex Malheiros、打楽器のIvan Contiの三人によって、1973年にリオで結成されたブラジルのグループ。1975年に"Azimuth"名義でデビューするが、すでに同名のグループがいたので改名して"Aymuth"となる。本作は三作目で、彼らの中ではもっとも商業的に成功した作品だろう。

  いちおうは爽やかな装いの音楽で、チョッパーベースとブラスチックのようなテカテカのシンセ音が時代を感じさせる。打楽器演奏以外はあまりブラジル風ではない。かつて僕はこの種の音は好みではなかったが、歳をとって今ではなんとか聴けるようになった。収録曲はすべてインスト曲だが、LPだとB面冒頭にあたるtrack 6 'Jazz Carnival'がなぜかシングルカットされて、イギリスでそこそこのヒットになっている。これがいかにも日本のThe Squareが演りそうな曲で、なにか影響関係があるのだろうか。タイトル曲はもちろんChick Coreaのアルバムから。またMilton Nascimentoの'Dona Olimpia'も演っている。しかし、収録中で日本でもっとも有名な曲はtrack 3の'Fly over the Horizon'だろう。1980年代から1990年代にかけてのNHK-FM番組「クロスオーバーイレブン」のオープニングテーマになっていた曲である。

  「クロスオーバーイレブン」は洋楽厨だったのでよく聴いていた。FM雑誌の番組表(今ではそんな雑誌自体が無くなってしまったが、そこには放送予定の曲が詳しく掲載されていたのである)を見て、エアチェック(磁気のカセットテープに録音)するのである。番組ではフィクション風の詩的な語りも入ったのだが、あれは時間調整のためだったのだろうか。「さっさと曲をかけろ」とよく思ったものだ。そんな記憶を強烈にもっているために'Fly over the Horizon'を耳にすると、あと一時間ゆっくりして寝ようという気分になる。
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00年代前半から半ばにかけての出版クロニクル

2016-07-22 20:55:46 | 読書ノート
小田光雄『出版業界の危機と社会構造』論創社, 2007.

  出版業界のレポート。といっても2007年の本で、00年代前半の報告が中心となっている。著者は編集者出身で、1999年に上梓した『出版社と書店はいかにして消えていくか:近代出版流通システムの終焉』(ぱる出版)は、売上が落ち始めた出版業界の構造的問題をいち早く指摘した重要な著作だった。僕も院生のときに恩師に勧められて読んだ記憶がある。無名の相手との対談形式となっているが、出てくる数字が細かいのと図表満載なのとで、実際にはインタビューは行われておらず、著者一人で書いているのだと推測できる。本書はその続編で、同じく偽対談本である。

  当時の業界の動向をいろいろ伝えているが、印象に残ったのは次の話。小売書店には、小規模家族経営店、郊外型店、大型店の三類型あり、1980年代後半に出店ピークを迎えて減少中である(大型店を除く)というのが前作での指摘だった。その郊外型店のうち生き残ったのが、古本販売やビデオレンタルも兼業する複合型店で、代表的なのがCCCとGEOである。このCCCが日販の売り上げ面および資本面での支えとなっているという。このほかにブックオフ、アマゾン、イオン傘下の未来屋書店などが注目されている。いずれも、正統派の書店が業界慣行のために横並びであえいでいるのを横目に、再販・委託の二つの制度を迂回する・あるいは新刊を主の収入源としない業態として地歩を築いてきたという。そして、それらが新刊市場に大きな影響を与えている、と。

  最後の章だけアメリカ陰謀論になっていていただけないが、他の箇所はいつもながら参考になる。著者は再販制廃止論者で、取次寡占を問題視している(ただし、もはや日本の出版業界の体力がなくなっており、再販制廃止のタイミングをすでに失している、とも)。日本の新刊流通システムに肯定的な柴野京子『書棚と平台』とは違って、このシステムだからこそ出版の未来は暗いと見ている。
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後発の人口減少対策本だが、新しい話に乏しい

2016-07-20 08:37:02 | 読書ノート
増田寛也編著『地方消滅:東京一極集中が招く人口急減』中公新書, 中央公論, 2014.

  人口減少についてのレポート。発行当時にかなり話題となっていた書籍だが、個人的にはその際に書店で中身を確認してみたところ面白くなさそうだったので読むのを控えた本である。著者が東京都知事選の候補者となったので、今さらながら読んでみた。さいたま県民なので関係ないのだけれども。

  中身は予想どおり。主題と結論の点では目新しいところがない。人口減少論および地方自治体消滅論自体は、2000年以降からぽつぽつと論じられてきた。処方箋も、東京に若年人口が流出しないよう地方の核となる都市を作り、そこで雇用創生する、というものである。ではどうやってそれを実現するの?ということになるのだが、コンパクトシティ化と女性が働きやすい環境づくり、というのがその答え。人口減少論を少しでも気にかけている人ならば、この程度の議論なら聞き飽きていることだろう。目新しいところは、若年女性の減少率から各自治体の人口減を予測するという切り口と、巻末にある日本全国の自治体別2040年人口の予測値である。本文の提言よりも、具体的な数値を示したこの巻末の表のほうが、発行時に衝撃的に受けとめられたと記憶している。

  この主題では後発の書籍ということになるのだから、以前から言われている処方箋がなぜ実行できないのか、切り口に使った若年女性がなぜ都会に出て行ってしまうのかなどを検討すべきではないだろうか。分析も浅い。ある程度合意が得られそうなもっともらしい線にまで結論をとどめておいて、各社会層の利害にタッチするところには踏み込まない。ただし、こういうところは政治家として良いセンスなのかもしれない。けれども、利害関係の調整が必要な難しいプロジェクトを遂行できるタイプでもないという気がする。
  
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出来は前作以下だが、彼の他の作品よりは良い

2016-07-18 21:28:21 | 音盤ノート
Chick Corea and Return to Forever "Light as a Feather" Polydor, 1973.

  初期フュージョン。チック・コリア率いるRTFの二作目で、メンバーも前作と同じ。収録曲には、'You're Everything', 'Captain Marvel', '500 Miles High', 'Children's Song', 'Spain'という彼の代表曲が並ぶ。タイトル曲の'Light as a Feather'だけはStanley Clarkeの作。プロデュースはコリア自身。当初はECMに録音を持ち掛けたのだが、断られてポリドールになったのだとか。

  緊張感溢れるバトル演奏を聴かせた前作の快楽をもう一度。というわけにはいかなくて、手堅くまとまった曲が続くスリルに乏しい作品となっている。特にFlora Purimが歌う三曲は、ごくいたって普通のジャズ・ボーカル作品という仕上がり。インストの三曲もアレンジに凝った演奏となっている。速度をあげたときのリズム隊が一本調子で、Airto Moreiraもクラークも前作ほどクリエイティブでない。もっとも、各々のソロに耳を奪われる瞬間がないわけではない。だが、演奏スペースを区切ってはっきりと役割分担したのが災いして、狭い枠の中で職人芸を見せているという印象だ。スペースを奪い合うようなエゴこそが前作のスリルを生み出していたのだが…。

  評価が厳しくなってしまったが、前作が「奇跡の一枚」だったので見劣りするというだけである。これはこれで水準以上のクオリティであり、コリアの代表作の一つだろう。その後のRTF諸作と比べてもかなりマシな作品である。

  なお、1998年には二枚組CDが再発されており、'Matrix'のRTF版や'What Games Shall We Play Today?’の別テイクなどが収録されている。あと"ECM Special"(1973)なるトリオ社発行の日本盤に'Captain Marvel'の別テイクが収録されている。CD化されていないみたいだが、都内の中古盤店でLPが叩き売られているから、そんなにレア音源というわけでもない。
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安保法関連のあれこれを支持派の学者が解説する

2016-07-15 23:08:23 | 読書ノート
細谷雄一『安保論争』ちくま新書, 筑摩書房, 2016.

  昨年の安保法まわりの議論を、国政政治学者である著者が賛成派の視点から解説したもの。雑誌に執筆した記事をまとめたもので、日本の安全保障環境の変化、総力戦から先進国の街中で突如起こるテロという形への戦争スタイルの変化、集団的自衛権容認論が1950年代からあったこと、新たに制定された安保法も自衛隊の運用が抑制的であること、などが語られている。昨年は『歴史認識とは何か』という著作において、孤立主義を批判する形で安保法の必要性を訴えていたが、直接賛意を示した本書の方が著者の考えがわかりやすい。

  個人的には二つの指摘が印象に残った。一つは「力の空白」が紛争を呼び込むということで、中立を掲げながら二度もドイツに蹂躙されたベルギー、大日本帝国崩壊後の朝鮮・中国・ベトナム、米軍撤退後のフィリピン、米国との関係をこじれさせて尖閣諸島問題や竹島問題を悪化させた民主党政権などが例に挙げられている。軍事的な弱さは周辺国の野心を刺激するために危険であり、十分な軍事力無しに話合いを訴えても対等な交渉などさせてもらえないというのが歴史の教えだという。もう一つは、海外の紛争に無関心で自国の安全だけを求める態度に対して、それは日本の進むべき道を誤らせるナショナリズムであり、太平洋戦争の失敗と同じ轍を踏むものだと批判している。国際情勢をきちんと理解するべきで、国内の政治闘争のために外交を利用するべきではない、とも。

  リベラル系メディアに対する苦言もある。ただ、彼らは先週末の参議院議員選挙で「護憲」をさんざん煽っていたのに、自民党の勝利を許してしまった。この結果を見る限りでは、その影響力はかなり落ちている気がする。僕が大学生の頃は、メディアには議題設定機能があるので選挙を左右できると習ったものだ。ところが今回、メディアの設定した争点は有権者にとっては争点ではなかったわけだ。そうすると、いったいどこで政治的見識を高めるような「公的な議論」をすればよいのだろうか。僕には本書の内容がいたって常識的に見える。このため本書と無関係なところで感慨を持ってしまった。
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ユダヤ民族主義を装うも音はアンビエントで心地よい

2016-07-13 07:52:25 | 音盤ノート
New Zion Trio "Fight Against Babylon" Veal, 2011.

  ジャズ。'Zion'をわざわざトリオ名で名乗り、バビロン捕囚に対抗するこのアルバム名。内ジャケットにはダビデの星。リーダーのJamie SaftはJohn Zorn組。これらの情報からは、ユダヤ人アイデンティティ全開のMasadaなクレズマー・ジャズが展開されるのだろうと予想させられる。だが実際に聴いてみると、レゲエを採り入れた美麗なピアノトリオで、まったく殺気立っていない。日本ではそこそこヒットしたみたいで、2013年に二枚組デラックス盤CDがCAPOTEなる国内のレーベルから発行されている。そのボーナスディスクには未発表曲やライブ、リミックスが収録されている。オリジナルの一枚もので十分だと思うが、品切れのようだ。

  メンバーはピアノとエレピを弾くジェイミー・サフトに、ドラムにCraig Santiago、ベースにLarry Grenadierという布陣。ドラマーについてはよく知らない(彼がプロデュースし、ジャケットのイラストも描いている)。リズム隊は基本ゆったりとした反復パターンを守るだけのお仕事で、ラリー・グレナディアのような一流を配する必要があったのかどうか疑問だ。ただし、レゲエ(というかダブだが)をジャズ的に消化する試みはかなり上手くいっており、ダブ特有の催眠的な感覚が演奏からしっかり感じ取れる。ピアノは単線的にメロディを辿るのではなく、心地の良い和音をゆっくり重ねて空間を作るような演奏をする。特にエレピを使ったtrack 5 'Hear I Jah'はとてもドリーミーな仕上がりで、Pharoah Sandersの'Astral Traveling'を想起させる名曲だ。

  レゲエを採り入れた、そこそこ著名なミュージシャンによるジャズ・アルバムというのはあまり思い浮かばない。Art Ensemble of Chicagoが"Nice Guys"(ECM, 1978)で、Jack Dejohnette's Special Editionが何かのアルバムでレゲエを演っていた記憶があるが、いずれも収録中の一曲で散発的な試みだった。相性の悪いこの二つのジャンルを違和感を感じさせない程度に昇華してみせた本作は、なかなかエポックメイキングな作品であると思う。

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「正しい科学」の視点から過去の科学者の粗探し

2016-07-11 07:57:38 | 読書ノート
スティーヴン・ワインバーグ『科学の発見』赤根洋子訳, 文藝春秋, 2016.

  科学史。著者は米国の理論物理学者で1979年にノーベル物理学賞を受賞している。原書はTo explain the world: The discovery of modern science (Harper Collins, 2015.)。現在の科学を基準にして過去の「科学」を検証するということを、著者は敢えてやっている。この点が歴史家のタブーに触れており、原書出版当初から強い反論が寄せられているらしい。

  全体は、古代ギリシアから中世、ニュートンあたりまでで大方の記述を終え、ニュートン以降については最後の一章で解説するだけで終えるという構成である。アリストテレスがどう間違っていたかなど、古代から中世の「科学者」の説がこまごまと検証されて裁かれる一方、天動説で知られるプトレマイオスはけっこう「科学的」だったなどと指摘される。著者が正しいとする「科学」の営みは仮説設定と実験・観察による検証の両輪よって出来上がるもの。プトレマイオスの議論はこれに適合するけれども、「理性の導き」だけによって答えを得ようとする思考術はそうではないというわけである。また、仮説はその時代において技術的に観測可能または実験可能でないとダメで、大統一理論などの野望は成果をもたらさないともいう。

  以下感想。現在の立場から過去を裁くという方針もありだとは思うが、読み物としては過去の科学者の「間違った考え方」の解説がくどい気がする。仮説設定と検証の両輪が重要だというのなら、この二つがいつ頃規範として確立してどう普及していったかを跡付けたほうが生産的だった。でもそういう話はすであったように思う(うろ覚え)。というわけで、微に入り細をうがつ間違い探しがウリの書籍なのだろう。どこで誤ったがわかるという点で、理系の人にとっては面白いのかもしれない。
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過渡期フュージョンゆえの多面的な魅力

2016-07-08 22:03:34 | 音盤ノート
Chick Corea "Return to Forever" ECM, 1972.

  初期フュージョン。本作はジャズを聴き始めた初心者がかなり初期の段階で辿り着くだろう作品で、ジャズの名盤ガイドにはかなりの確率で掲載されている定番アルバムである。今さらではあるが、前回の流れからと、このブログでチック・コリアの作品をきちんと扱ったことがなかったので採りあげる。

  1970年前後のコリアはリーダー作ではフリージャズを演っていたが、同時に所属していたMiles Davis道場で無理矢理エレピを学習させられており、後者の路線での成果が本作である。コリア以下、ボーカルのFlora Purim、サックスとフルートのJoe Farrell、ベースのStanley Clarke、打楽器のAirto Moreiraという布陣。レーベルのECMは発足3年目で、この頃はKeith Jarrettではなくまだコリアが看板ミュージシャンだった。20年ぐらい前に本作を通じて初めてコリアの演奏を聴いたときには、高速フレーズにおいて均等に音を分割してゆく機械のような指使いの凄さに感激したものだ。

  本作に対してよく「爽やか」という評価を見かけるが、1970年代前半の初期フュージョンにこの形容は外している。エレピとエレベが入る基本バトル系のモードジャズで、フリーにならない程度にまとめているものの、かなり激しくて緊張感の高い演奏である。緩急と明暗の落差も大きくて、静謐な美を感じさせる演奏や、爽やかに聴こえる瞬間がないでもない。だが、全体としては熱く暗い時間のほうが支配的だ。まだサウンドコンセプトが出来上がっておらず、手探りの中での録音だったのだろう。音を模索中であるがゆえの未整理で雑多なところが、複雑な印象をもたらしているのだと思う。なお次作の"Light as a Feather"(Polydor, 1973)は音が「心地よい」方向に整理されてしまい、本作の緊張感を全然継承できていない緩いボーカル・アルバムとなっている。

  ポップなボーカル曲も配しつつ、存分にアドリブ演奏のスリルが味わえるという点で、ジャズ初心者が最初に手にする作品としてとても優れているのではないだろうか。音もモダンで古臭くないし、"Kind of Blue"とか"Waltz for Debby"より入りやすいと思う。もはや初心者でなくなった現在の耳でも、本作の最初と最後の曲における激しいインタープレイにはやはり心躍る。なお、ボーカル曲の詞はNeville Potterなる人物によるもので、コリアが入信している宗教Scientologyの関係者だそう。
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