ジェシー・ベリング『ヒトはなぜ自殺するのか:死に向かう心の科学』鈴木光太郎訳, 化学同人, 2021.
自殺をめぐる考察。いちおうポピュラーサイエンス本ではあるものの、このテーマの最新研究成果を通覧して一本のストーリーにまとめたというには内容が薄い。かなりの記述が著者の体験記と取材に基づいていて、エッセイ的である。著者は肩書としては認知心理学者であるが、実験系ではなく思弁的なタイプのようだ。原書はSuicidal: why we kill ourselves (University of Chicago Press, 2018)である。
前半1/3ぐらいは「自殺は進化における適応の帰結か、進化の副産物でありバグにすぎないのか」という問いに取り組んでいる。それぞれを支持する現象も、否定する現象もある。明確にどっちと判定されないものの、ここまでは面白かった。中盤は、自殺に至るには六つのステップがあるという説を紹介して、自殺者の遺書を例示してその妥当性を示そうとする。だが、ステップの分け方は粗削りかつまだ検討の余地ありという印象で、遺書の分析も冗長に感じた。後半1/3は、自殺に対する社会の反応や見方で、文化論となっている。これらについて解説される間、著者自身の鬱経験や、近親者が自殺した「残された家族」への取材が入ってくる。心を揺さぶられるところはあるものの、自殺を科学的に理解するという目的からは脱線している。
以上。全体してはエッセイ部分を削って、もっと新しい科学的情報がほしい、という印象だ。自殺の研究に興味があるならば、少々古いものの、本書でもよく引用されているジャミソンの『早すぎる夜の訪れ』(新潮文庫版では『生きるための自殺学』)のほうがいいと思う。というか、ジャミソン著の悪い部分に影響を受けすぎて上のような書き方になってしまったということなんだろう。
自殺をめぐる考察。いちおうポピュラーサイエンス本ではあるものの、このテーマの最新研究成果を通覧して一本のストーリーにまとめたというには内容が薄い。かなりの記述が著者の体験記と取材に基づいていて、エッセイ的である。著者は肩書としては認知心理学者であるが、実験系ではなく思弁的なタイプのようだ。原書はSuicidal: why we kill ourselves (University of Chicago Press, 2018)である。
前半1/3ぐらいは「自殺は進化における適応の帰結か、進化の副産物でありバグにすぎないのか」という問いに取り組んでいる。それぞれを支持する現象も、否定する現象もある。明確にどっちと判定されないものの、ここまでは面白かった。中盤は、自殺に至るには六つのステップがあるという説を紹介して、自殺者の遺書を例示してその妥当性を示そうとする。だが、ステップの分け方は粗削りかつまだ検討の余地ありという印象で、遺書の分析も冗長に感じた。後半1/3は、自殺に対する社会の反応や見方で、文化論となっている。これらについて解説される間、著者自身の鬱経験や、近親者が自殺した「残された家族」への取材が入ってくる。心を揺さぶられるところはあるものの、自殺を科学的に理解するという目的からは脱線している。
以上。全体してはエッセイ部分を削って、もっと新しい科学的情報がほしい、という印象だ。自殺の研究に興味があるならば、少々古いものの、本書でもよく引用されているジャミソンの『早すぎる夜の訪れ』(新潮文庫版では『生きるための自殺学』)のほうがいいと思う。というか、ジャミソン著の悪い部分に影響を受けすぎて上のような書き方になってしまったということなんだろう。