29Lib 分館

図書館・情報学関連の雑記、読書ノート、音楽ノート、日常生活の愚痴など。

ステータスを向上させ続けても満足には到達できない、と。

2022-11-23 20:24:50 | 読書ノート
ウィル・ストー 『ステータス・ゲームの心理学:なぜ人は他者より優位に立ちたいのか 』風早さとみ訳, 原書房, 2022.

  人間は皆ステイタス獲得競争を戦っていると主張する一般向けの書籍。著者は英国の科学ジャーナリストで、邦訳はこれが初めてである。原書はThe status game: on social psition and how we use it(William Collins, 2021.)となる。

  400頁ほどの長さなのにプロローグと29章という章構成となっており、一つ一つの章は短い。始めの方の章は「他者より良いステイタス」のメリットについてで、「繁殖機会」というありがちな進化心理学的な回答だけでなく、「寿命」という答えも添えてくる。他の条件が同じならば、ステイタスが高い人の方が低い人より長生きとなるらしい。しかし、ステイタスは相対的なものであり、平等に分配することはできない。獲得できるのは一握りの人たちだけである。このため、ステイタスを上昇させても「上には上」がいて、なかなか満足に到達しないという。

  というような話を、ステイタス競争を例示する歴史的エピソードを交えながら展開している。少々脱線気味の話もあってきれいにまとまっているという印象はない。けれども、骨子部分よりはエピソードのほうが楽しめる。特に、宗教の機能は「現世の秩序とは異なったゲームを提供すること」だとしているが、なるほどと感じた。
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マスメディアの影響力を科学的に解明する研究のレビュー

2022-11-15 13:37:35 | 読書ノート
稲増一憲『マスメディアとは何か:「影響力」の正体』(中公新書), 中央公論, 2022.

  社会心理学。メディアの影響力についての研究のレビューである。受け手側の行動変容のうち、とくに政治や公共に関する意識的な意見の変更を焦点としている。暴力表現や性表現、ステレオタイプ表現の無意識的な影響といったトピックについては扱っていない。著者は関西学院大学の教授。

  弾丸理論とか皮下注射理論といった概念を聞いたことがあるかもしれない。だが、歴史を紐解いてみると、これら強力効果論が唱えられたという時代(1930年代)に実際にはそのような主張は存在していない。すぐ後の限定効果論者が批判のために作り上げたわら人形ではないか、と著者は勘繰っている。しかし、限定効果論者の「メディアは受け手の意見を操作することはできない」という主張もまた拡大解釈されて、「ならば研究する価値もない」とみなされ、しばらくメディア研究が停滞したらしい。

  1960年代末に強力効果論は「議題設定機能論」として復活する。メディアには受け手の意見を変更させるような力はないものの、複数あるアジェンダ(いわゆるニュースのトピック)のうち受け手が何を最重要として認識するかについては影響を与えることができる、という説である。これは再現性の高い説であるとのことだ。

  最後から二つの章はネットメディアやSNSについてで、エコーチェンバーがあるのは実は左右の政治対立というレベルではなく、政治的/非政治的の対立軸においてであり、非政治的エコーチェンバーが公共性のある情報の普及の壁になっているという。公共性の高い情報の普及という面で、まだマスメディアの役割があると著者はいう。

  以上。レビュー対象となる研究が用いた検証方法まで解説しており、少々アカデミックな雰囲気がある。これは「メディアの影響を測定したと自称する研究が、実際には何を測っていたのか」まで詳しくみるためとのこと。確かに突っ込みどころがけっこうあるよなあ、と読んでみての感想である。個人的には知ってる話も多かったが、初学者にはいい本かもしれない。
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政治をする米国図書館員、インターネット黎明期の賭けに勝つ

2022-11-02 09:06:55 | 読書ノート
豊田恭子『闘う図書館:アメリカのライブラリアンシップ 』(筑摩選書), 筑摩書房, 2022.

  米国公共図書館についてのレポート。図書館と連邦政府および州政府とのかかわり、それと資金獲得について詳しい。著者はいわゆる「専門図書館員」のカテゴリの人で、米国で図書館情報学修士号を取得して、JPモルガンなどで勤務していたそう。米国の公共図書館は、1990年代の情報スーパーハイウェイ構想のアイデアにうまくのっかり、インターネット・アクセスの提供機関として新しい地歩を築いた、という話はもしかしたら聞いたことがあるかもしれない。このとき、何もしていないのに図書館に資金が上から降ってきたというわけではない。本書は、その間の図書館団体の働きかけや連邦政府の動きについて詳しく伝えてくれる。このほか、00年代以降の取り組み、州政府と公共図書館の関係、トランプ政権~コロナ禍の時代などのトピックがある。

  特別な予算を引っ張ってくる話や図書館団体のロビイングの話は、日本の図書館の世界ではあまり聞くことのない事例であり面白かった。米国ライブラリアンはみな修士号持ちだが、頭が良くて立ち回りが上手いんだろう。リベラル寄りであることは確かであるが、左右包摂の立場であり、「反政府運動」には近づいてはいかない。ブッシュ息子時代も、ファーストレディのローラ・ブッシュが元図書館員ということでいろいろお金を貰っている。あと、州の図書館局は図書館関係者にとっても何をやっているのかよくわからない部署だったらしいが、州内の図書館のネットワーク化をすすめ、連邦資金獲得の窓口になることでだんだん存在感を高めてきたとのこと。米国の図書館についてはまだまだ知られていないことがあるなあと思った次第。
  
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