書籍 パオロ・ヒューイット『クリエイション・レコーズ物語』伊藤英嗣訳, 太田出版, 2003.
DVD『アップサイド・ダウン:クリエイション・レコーズ・ストーリー』ダニー・オコナー監督, キングレコード, 2012.
1983年から1999年の間に存続した英国のレコードレーベル"Creation"についてのインタビュー書籍とドキュメンタリー映画。媒体カテゴリとしては「読書ノート」と「映像ノート」に該当する内容だが、音楽ネタなので「音盤ノート」に記すことにする。書籍の原書はAlan McGee & the story of Creation Records : this ecstasy romance cannot last (Mainstream, 2001)、映画の邦題は原題そのままで、英国での公開は2011年、日本での公開は2012年となっている。
洋楽といっても1980年代から90年代にかけての英国インディーズのマニアックな話なので、映画・書籍ともに基礎知識がないとよくわからない内容だろう。レーベルに所属したJesus & Mary ChainやTeenage Fanclubを知ってますという程度では歯が立たない。パンク以降の英国大衆音楽史や、1990年前後の米国の英国インディーズバンド受容の事情(映画ではSireのセイモア・スタインがインタビューで登場する)、時折言及される固有名詞(Factroyのトニー・ウィルソンの名が時折挙げられる)、これらが分かってやっとCreationの独特の立ち位置を理解できるという代物である。
そいうわけで万人にはお勧めできないのだが、次のような栄光と挫折の物語としての楽しみ方もできなくもない。「大都会ロンドンに出てきた田舎者アラン・マッギーが、レコード会社を立ち上げてそこそこ成功し、ドラッグとパーティ三昧の日々を送る。しかし、放漫経営のため大手ソニーに身売りし、Oasisが大当たりして会社は持ち直すも、自身はオーバードーズで死にかけ、麻薬を止める。最後には会社経営に情熱を失い、会社の閉鎖を決断する」。なお、Primal Screamのボビー・ギレスピーは、スコットランドに居た頃からのマッギーのお友達だそうで、書籍にも映画にも出てきてインタビューに答えている。
個人的には10代後半の度真ん中にこのレーベルからの諸作品があったので感慨深い。ただ、日本人として気になったのは、ソニー(SME;Sony Music Entertainment)が悪役としてしばしば言及されている点。1992年に資金繰りの解決のためにマッギーはSMEに会社の権利の半分を売る。書籍でも映画でも、「ソニー」は退屈と官僚主義、商売優先で音楽に理解のない態度の象徴して、たびたび軽蔑される。推測となるが、SMEには、1991年に吸収合併した旧CBSの社員が多く残っていただろうから、日本人が現場を主導していたわけではないだろう。しかし、かつては創造的な企業とされてきたソニーの名が、つまらなさの代名詞として口にのぼるのを見るのは少々悲しいことだった。
なお今度はマッギーの自伝にもとづいたドラマ映画も製作されるらしい。そこでもソニーは痛めつけられるのだろうか。
DVD『アップサイド・ダウン:クリエイション・レコーズ・ストーリー』ダニー・オコナー監督, キングレコード, 2012.
1983年から1999年の間に存続した英国のレコードレーベル"Creation"についてのインタビュー書籍とドキュメンタリー映画。媒体カテゴリとしては「読書ノート」と「映像ノート」に該当する内容だが、音楽ネタなので「音盤ノート」に記すことにする。書籍の原書はAlan McGee & the story of Creation Records : this ecstasy romance cannot last (Mainstream, 2001)、映画の邦題は原題そのままで、英国での公開は2011年、日本での公開は2012年となっている。
洋楽といっても1980年代から90年代にかけての英国インディーズのマニアックな話なので、映画・書籍ともに基礎知識がないとよくわからない内容だろう。レーベルに所属したJesus & Mary ChainやTeenage Fanclubを知ってますという程度では歯が立たない。パンク以降の英国大衆音楽史や、1990年前後の米国の英国インディーズバンド受容の事情(映画ではSireのセイモア・スタインがインタビューで登場する)、時折言及される固有名詞(Factroyのトニー・ウィルソンの名が時折挙げられる)、これらが分かってやっとCreationの独特の立ち位置を理解できるという代物である。
そいうわけで万人にはお勧めできないのだが、次のような栄光と挫折の物語としての楽しみ方もできなくもない。「大都会ロンドンに出てきた田舎者アラン・マッギーが、レコード会社を立ち上げてそこそこ成功し、ドラッグとパーティ三昧の日々を送る。しかし、放漫経営のため大手ソニーに身売りし、Oasisが大当たりして会社は持ち直すも、自身はオーバードーズで死にかけ、麻薬を止める。最後には会社経営に情熱を失い、会社の閉鎖を決断する」。なお、Primal Screamのボビー・ギレスピーは、スコットランドに居た頃からのマッギーのお友達だそうで、書籍にも映画にも出てきてインタビューに答えている。
個人的には10代後半の度真ん中にこのレーベルからの諸作品があったので感慨深い。ただ、日本人として気になったのは、ソニー(SME;Sony Music Entertainment)が悪役としてしばしば言及されている点。1992年に資金繰りの解決のためにマッギーはSMEに会社の権利の半分を売る。書籍でも映画でも、「ソニー」は退屈と官僚主義、商売優先で音楽に理解のない態度の象徴して、たびたび軽蔑される。推測となるが、SMEには、1991年に吸収合併した旧CBSの社員が多く残っていただろうから、日本人が現場を主導していたわけではないだろう。しかし、かつては創造的な企業とされてきたソニーの名が、つまらなさの代名詞として口にのぼるのを見るのは少々悲しいことだった。
なお今度はマッギーの自伝にもとづいたドラマ映画も製作されるらしい。そこでもソニーは痛めつけられるのだろうか。