マイケル・E.マカロー『親切の人類史:ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』的場知之訳, みすず書房, 2022.
わざわざ赤の他人を助けるという心性が歴史的にどのように発達してきたのかを探る一般書籍。著者はカリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学教授。原書はKindness of Strangers : How a selfish ape invented a new moral code (Basic Books, 2020)である。
前半は進化心理学視点からまとめ、後半は歴史的に記述するという二段構えの方法論が採られている。血縁淘汰説およびその拡張(群淘汰説)で親切を説明できるか、というのがまず問題となる。「できない」というのが著者の答えで、遺伝子を共有するというだけの者を優遇するのは、非血縁者を排除し続けなければならないためにそのような遺伝的傾向は広まらないとする。決定的なのは、相手に親切を施せばお返しを期待できるという認識であり、そうした互恵関係が「協力行動ナシ」の状態より遺伝的に有利となるならば、その傾向は広まるとする。親切心は無償というわけではないというのだ。後半は石器時代から現代までの慈善や福祉の歴史で、理性の行使が遺伝的傾向を超えて広まってきているとのこと。大雑把な歴史であるが、トレンドを掴むには十分だろう。
前半、後半のどっちを重視して読むかによって評価が変わるかもしれない。個人的には前半のほうが面白かったが、十分関連するトピックを扱いきれていないのではないかという疑いも残る。例えば「美徳シグナリング」という概念を数年前から目にするようになったが、本書では言及されていない。お返しや評判を求める親切という本書の議論とマッチする概念だが、シニカルすぎるというので扱わなかったのだろうか。「理性」を焦点に据えた後半の歴史は、美しすぎるという気がしてしまう。
わざわざ赤の他人を助けるという心性が歴史的にどのように発達してきたのかを探る一般書籍。著者はカリフォルニア大学サンディエゴ校の心理学教授。原書はKindness of Strangers : How a selfish ape invented a new moral code (Basic Books, 2020)である。
前半は進化心理学視点からまとめ、後半は歴史的に記述するという二段構えの方法論が採られている。血縁淘汰説およびその拡張(群淘汰説)で親切を説明できるか、というのがまず問題となる。「できない」というのが著者の答えで、遺伝子を共有するというだけの者を優遇するのは、非血縁者を排除し続けなければならないためにそのような遺伝的傾向は広まらないとする。決定的なのは、相手に親切を施せばお返しを期待できるという認識であり、そうした互恵関係が「協力行動ナシ」の状態より遺伝的に有利となるならば、その傾向は広まるとする。親切心は無償というわけではないというのだ。後半は石器時代から現代までの慈善や福祉の歴史で、理性の行使が遺伝的傾向を超えて広まってきているとのこと。大雑把な歴史であるが、トレンドを掴むには十分だろう。
前半、後半のどっちを重視して読むかによって評価が変わるかもしれない。個人的には前半のほうが面白かったが、十分関連するトピックを扱いきれていないのではないかという疑いも残る。例えば「美徳シグナリング」という概念を数年前から目にするようになったが、本書では言及されていない。お返しや評判を求める親切という本書の議論とマッチする概念だが、シニカルすぎるというので扱わなかったのだろうか。「理性」を焦点に据えた後半の歴史は、美しすぎるという気がしてしまう。