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演劇的手法を取り入れたアクティブラーニング論

2020-02-08 15:55:07 | 読書ノート
渡部淳『アクティブ・ラーニングとは何か』岩波新書, 岩波書店, 2020.

  渡部淳先生は日本大学文理学部教育学科の教授で、僕の同僚ということになる。といってもわずか二年の付き合いだけれども。本書の奥付発行日は2020年1月21日だが、彼はその一日前の20日の夜に自宅で体調を崩してそのまま亡くなった。当日は授業を行って普通に帰宅したのだから、本当に突然の死だった。残されていた後期授業の採点の仕事が僕にも回ってきた。

  彼はICU付属の高校で20年ほど教諭を経験し、その後に大学の教授になった。演劇的手法を取り入れたアクティブラーニングを推奨しており、獲得型教育研究会なる団体を起ち上げてその普及に努めていた。学者肌の先生が多い日大教育学科の中では異色で、教えることが上手く、学生にも人気だった。学生に体を動かすよう求める彼の授業スタイルは、詰め込み教育が主流の中国からの留学生に衝撃を与えるらしく、彼らの多くが渡部ゼミを希望した。今年度も、希望が叶わず僕のゼミに流れてきた一人の中国人留学生が、ドラマ手法を使った教育をテーマに卒論を書いたぐらい。

  本書は彼の考えるアクティブラーニングの入門書である。率直なところ、いわゆる「アクティブラーニング」概念に含まれる教育手法の一部しか詳しく紹介できていない、効果や理論面での説明がないなど、十分に議論が尽くされてないという感想をもった。もし彼がまだ生きていたら、これらの点について議論してみたかったところではある。けれども、彼はあまりそういうことには興味を持っていなかったかもしれない。彼は、基本的に理論家ではなく、新しい教え方を追及する実践家だったからだ。そのような、彼が評価する教え方のアイデアが本書では多く紹介されている。

  数か月前、帰りの電車で一緒になった際、「初めての演劇経験は秋田の高校でだった」と振り返っていたことを思い出す。こうなってみると、もっといろいろ彼の人生について聞いておけばよかったと後悔することしきり。なお下のリンクは、文理学部の宣伝動画で、渡部先生の授業の様子を垣間見ることができる。教育学科でこういう授業はもうできないなあ。渡部先生、ご冥福をお祈りします。


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1 コメント

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Unknown (Hiroshi)
2020-02-08 22:01:01
「アクティブ・ラーニング」は数年前から職場でも導入され、私自身も担当しましたが、教師自身にそのトレーニングがない(僅かな研修のみ)上に、その実用性に疑問を持つ教師(私も含む)も多いのが現状ではないでしょうか? 

教師にそのトレーニングも、効果への信頼感もない状態で教育に活かせるはずがないというのが実感です。
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